第14話 ドクターは本能に忠実でした。
次元空間に案内された人々…。
そこには、黒龍とおぼしき素材の数々が並べられていました。
その中で、もっとも目を引くのが大量に積まれた黒い鱗と、巨大な魔石。
黒龍の魔石は、真っ赤な炎を塊にしたような鮮やかな赤い石…いえ、岩とも言える塊でしょうか…。
魔石の大きさから推測するに、黒龍は全長100mはあったのではないかと思われます。
内臓や筋肉は、まだヒクヒクと脈を打っています。
「次元空間内は、時間の概念がないからな…解体したての状態だ!ちょー新鮮!」
ドクターが、何やらドヤ顔で両手を広げて、自慢をしています。
騎士団長、ギルマス、Sランク、Aランクの冒険者は、口をあんぐり開けたまま、バカづら…コホン…ビックリした顔で、解体された黒龍を見つめています。
ギルマスが問いただします。
「これは、君が討伐して、1人でここまで解体したのかね?」
「あぁ、そうだが?ブルードラゴンを襲っていたから、不意打ちでツノをへし折って、ついでに心も折ってやった…ハッハッハ!どうだ!Sランクに相応しいとは思わないかね?」
「「………」」
推し黙る冒険者達。
「「「俺たちには無理だよな…」」」ボソッ
「騎士団に入らないかい?」
「断る」
「ギルマスにならないかね?」
「断る…つか、いきなり自分の地位を明け渡すなよ!おっさん!」
「いや、つい…」
騎士団長も、ギルマスも、テンションがおかしくなっています。
「で?いきなりSランクになった俺は、怪我人を治し、死人も蘇生させ、巨大な黒龍も倒したわけだが?俺のランクに文句のある奴はいるかい?」
「「「いいえ!!バカにしてすみませんでしたぁーー!!」」」
「よろしい」
冒険者が全員、土下座をした事で、ドクターは機嫌を直したようです。
ドヤァー!!
な顔がなければ、とてもカッコいいのですがねっ!
「よし!冒険者は帰ってよし!」
「は、はい!」
そそくさと次元空間から立ち去る冒険者達。
ドクターの噂は、瞬く間に広がるでしょう。
「でだ!騎士団…つまり、王国には治療費として金貨1000万枚、ギルドには金貨500万枚の請求をするわけだが、黒龍の素材は、いくらで買い取ってくれる?」
「な!なんと!ドクター!ちょっとそれは法外すぎやしないだろうかー!!」
騎士団長が狼狽えています。
「そうか?死者ゼロの功績は大きいと思うんだが?王国騎士団の団長だろ?それぐらい払えるだろ?」
「も、もちろん、支払うよう掛け合ってみるが、王様や財務相が何というか…」
「いいよいいよ。払えなかったら、今後、騎士団の治療はしないから」
「え?」
「だいたい、ゴブリンキングやクイーンなんかで、あんなに怪我人や死人は出ねーんだよ!よほど、無茶な作戦を強要したか、騎士団の名を借りて、冒険者に無理強いさせたか…騎士団長は無傷だしな…何故、副騎士団長だけが、あんな悲惨な事になったんだろうな…なぁ?」
「いや。その…」
「王様の命令でもあったか?守衛都市の冒険者は、いくらでも替えが効くとか何とか言ってさぁー」
「いや。その…」
「とりあえずだ!明日までに金を持ってギルドまで来い!いいな?」
「分かりました…」
「よし!帰ってよし!」
ドクターは、知っていたのではないでしょうか?
討伐隊の内容を…。
「あ!王様や財務相に言っておいてくれ!国民の税金をあげたりしたら、それも治療拒否に該当するって!あくまで、王国の資金のみでの支払いをするようにって!誤魔化してもわかるからな!いいな!」
「は、はいー!!」
騎士団長は、逃げるように、その場を後にしました。
☆☆☆
「さて、ギルマス!」
「は、はい!」
「さっきの500万枚は冗談な?」
「へ?」
「俺は冒険者になったんだ…魔結晶も買い取ってもらわなきゃならん」
「という事は…」
「冒険者や騎士団…ひいては王族に対しての体裁を取り繕っただけだ…巻き込んですまなかったな」
「なるほど…まぁ、魔結晶は、高値で取り引きされてるんで、いくらでも引き取りますよ」
「あ、王国運営者には売るなよ?どうせ、兵器開発に使われてしまう…魔結晶は、兵器開発のためにあるんじゃないだろ?」
「もちろんです!」
ギルマスは、ドクターの本音を聞いて、心底安心したようでした。
しかし、出ましたよ!
ドクターお得意の『遠回しに脅迫』。
騎士団、ひいては王国に対しての…ギルマスに対しての…。
支払わなきゃ、今後治療はしない。
王国に売ったら魔結晶は入れない。
これらは、地球では、間違いなく『犯罪』となります。
「しかし、この黒龍の素材は、ギルド管理にはならないと思うのですよ」
「なんで?」
「黒龍は、我々人間からしたら最強種のモンスターです!王国が黙っているはずがありません」
「なるほどな…ま、治療費を払わなかったら話にならんけどな」
明らかに、ドクターは『王国』を敵と見なしています。
何かあったのでしょうか?
そんな話をしている中に、1人のドラゴン…ブルードラゴンがドクターに対し、片膝を突いて申し出てきました。
「申し訳ありません。黒龍を売り捌くのはおやめ下さい。お願い申し上げます」
ずっと、様子を見守ってきたドラゴン達が、黒龍の素材の話になってから、ソワソワしだし、ブルードラゴンが代表で申し出た形になりました。
ブルードラゴン曰く
①グリーンとイエローと共に、王国を見ていたのは、王国が両隣国に戦争を仕掛けて、国家統一をしようと画策していたから。
=守護龍ではない。
②レッドは、3人と姉妹。
ヤンチャをして、喧嘩をし、ブルードラゴンに怪我をさせたから、ドクターから『敵認定』を受けた。
=ブルードラゴンは、討伐されたのではなく、治療をしてもらっていた。
=イノリの勘違い。
③レッドを倒し、ブルーを治療していたところに黒龍登場。
=ドクターに逆らったから解体された。
④金龍、銀龍は、黒龍と白龍の親。
=誰も敵ではない。
⑤森というか、樹海の向こう側には、大帝国があり、紫色の邪龍を使役して、白龍を捕らえ、こちらの三国を狙っているとの事。
=侵攻する気満々な帝国の監視、他国を支配し、国力をあげようとしている王国の監視、人質ならぬ
結論
ドクターの早とちり。
黒龍はとばっちり。
ていう事になります。
「いや…お、俺、悪くないし」
ドクターの顔から、今まで見た事もないような汗が溢れ出していました。
それから1時間後、黒龍はまるで『模型』でも組み立てるかのように、龍の姿に戻っていきました。
そのうちの30分が、鱗貼りだった事は内緒にしておきましょう。
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