第12話 ドクターは意外と優しい人でした。

ここは、守衛都市エアリスの城壁前。


ドクターは、遠征組を城壁に入る前に治療をしたのです。


理由は簡単、守衛都市の冒険者や、その奥にある王都『ラミナス』から派遣された騎士団の姿を、国民に見せないためです。


守衛都市の冒険者や、王都騎士団は、国民の希望でなくてはなりません。


…っと、申し訳ありません。

これらの理由は、ドクターからの受け売りであります。


国民には、すべて『疲れて寝ているだけ』だから、良く休んでもらうように…との触れ込みを添えて、皆、自宅に帰っていきました。


残ったのは

騎士団長、人間族。

洗練された体格に、清楚な顔立ち。

実力はともかく、ある意味カリスマ性があっての騎士団長なのでしょう。


次にギルマス、ドワーフ族。

ドワーフなだけあって、身長は低いですが、体格はものすごい筋肉質です。

顔は穏やかなおじさんですが、纏うオーラが騎士団長とは比べ物になりません。


鍛治師スキルはもちろん、Sランク冒険者を黙らせるだけの実力はあります。


鍛治師は素材を使って、武器や防具を作ります。

それを、昔から自分で採取して、今の地位に上り詰めたとの事。

元Sランク冒険者だったそうです。


と、ドクターが耳打ちをしてくれました。


(ドクターって、無意識に『鑑定眼』使ってますよね?)

とは言いません。


何故なら、そんな事は今更であり、『鑑定眼』という枠を大きく上回っているからです。


そして、残されたSランク、Aランク冒険者。

こちらは、人間族、オーガ族、エルフ族、獣人族…様々な種族がおりますが、これは単純に『減らず口を黙らせる』ために残したそうです。


もっとも、大量の怪我人を瞬時に治し、死者まで蘇らせたドクターに、もはや文句を言う人はいないと思うのですが、ドクターは『実力で黙らせる!』と息巻いておりました。


『医療行為だけでは、納得していないだろう!』

だそうです。


(いやいや、十分じゃないんですか?)

とツッコミたいのですが、やめておきました。


ドクターには、これら主要人物を、この場に残した理由があると思うからです。


いったい何をするつもりなのでしょう?


実力で…とはいったい…。


☆☆☆


「そろそろか…」

ドクターは、城壁を背に、魔物が徘徊する森を眺めていました。


そこへ、みんなに聞こえるような『念話』が響きます。


『ご主人様!人間2人の捜索、終わりました!2人とも死んでおります』

「あぁ、構わない。1人の霊体は、確保してある。もう1人の霊体は、少女のそばにいる」


「え?お父さん、死んじゃったの?」

残っていた少女は、悲し気にドクターを見つめます。


「大丈夫だよ?さっき見てただろ?私にかかれば、死者も生き返るんだ」

「「「「いやいやいやいや!」」」」

あー!気持ちはわかりますよ!

みなさん!


「あー、そうだね!お父さんも生き返らせてくれるの?」

「もちろんさ」

「「「「いやいやいやいや!」」」」

残されたみなさんの反応が面白いです。


ドクターが、少女を放置していた訳は、この辺にあるようです。


元々、騎士団長、ギルマス、Sランク、Aランク冒険者だけ残れ…という指示だったのです。

ドクターが、理由もなく少女を放置しておく必要はありません。


『で、私達は、本体か人間体、どちらの姿で、そちらに向かえばよろしいですか?』

「まぁ、とりあえず人間体で頼む…小さい女の子も居るしな」

『承知いたしました』


このやり取りに、唖然としているのは、私以外の全員。


私は、多少の事では驚かなくなっておりました。

次元収納から、ブルードラゴンを出していたのを見ました。

地獄をリゾート地にした、とか聞きました。


もう、ドラゴンの念話ぐらいで驚きようもありません。


バサバサバサバサ…。


しばらくすると、空から青、黄色、緑の『軽装防具』を纏った戦士風の女性が、それぞれ1担いで現れました。


(おや?1人多いのでは?)


「「「「「あれは何だ!!」」」」」

「お前ら、さっきの話聞いてなかったのかよ」

ドクター、本体か人間体か…だけでは、ドラゴンってわからないんですよ?普通は!


教訓

知っている者は、知らない者の気持ちがわからない


よくある話です。


☆☆☆


スタッ!


「お待たせいたしました」

三色ドラゴンの人間体は、ドクターの前でひざまづき、死体を二体並べました。


「副騎士団長!」

「お父さん!」

なるほど…2人の身元は、誰に聞かなくてもわかるって話ですね。


死体あるあるです。


つか、更に、赤い女性戦士も気絶して倒れております。

これで、計3体…数はあっています。

合っていますが…。


「これはいったい…ドクター?」

「あぁ、こいつはレッドドラゴンだ。ブラックドラゴンの配下だった奴な」

「「「「「「な、なんと!!!」」」」」」


「お前ら、ちょっとうるさい!先に、2人を蘇生させるから、黙ってろ!」

「「「「「「は、はいっ!!」」」」」」


ドクターは、ひとまずレッドドラゴンは放置し、2人の治療に取り掛かります。


シャキン!

シュッシュッシュッシュッ

サクサクサクサク

チクチクチクチク…。


「イノリ…輸血!」

「はい!」

「霊体縫合!」

「イノリ!蘇生!」

「はい!」


パン!パン!パン!パン!

「グフッ…」

プスッ…。


例の『闘魂注入ビンタ』と、回復麻酔注射です。


「よし、これで副騎士団長は大丈夫だな」

「騎士団長!しばらく見ていてくれ!動いたらビンタして寝かせろ!いいな…」

「は、はい…」

騎士団長…なんとも複雑な顔をしております。


「お父さん、生き返る?」

ハラハラドキドキの少女。


「大丈夫…と言いたいが、かなり損傷が激しい…ま、なんとかなるだろ?」

「「「「…………」」」」

ぶっちゃけ、女の子のお父さんは、ほぼ肉塊…人間としての原型を留めていません。


しかし、ドクターがなんとかなると言ったのです。

何とかなるのでしょう。


ゴクリ…。


みんなが固唾を飲んで見守る中、ドクターは周りを気にせず…。


スパッ!


次元を切り裂きました。


その次元収納に体を半身突っ込んで、あーでもない、こーでもないと、ブツブツいいながら、素材を放り出していきます。


ポイポイポイポイ…。


「なぁ、ギルマス!この人、冒険者だよな?ランクは?」

「は、はい?」

いきなり名指しをされたギルマスは、しどろもどろ…。


「お父さんは、Dランク冒険者だよ!私達の家族のために、命がけでお仕事してくれてるの」

「ほう。お母さんは?」

ゴソゴソ…。

「薬剤師…お父さんが採取してきた薬草を薬にして売ってるよ」

「で、お嬢さんは、将来何になりたい?」

「やっぱり薬剤師かな?みんなの怪我を治してあげたい」

「ふむふむ…関心だ!よし!お嬢さん、取り引きをしよう」

「「「「は?」」」」

これには私も驚きました。


小さな女の子相手に取り引きって、貴方は鬼ですか!!


「何?お父さんが生き返るなら、なんでもするよ!」

素晴らしい!

ドクターの鬼畜ぶりと比べたら、この女の子は天使です!


「俺が、君のお父さんを強靭な冒険者にしてやる!すぐにでもAランクやSランクになれるぐらいな…だから、お嬢さんは、立派な薬剤師になるんだ!いいな?」

「約束する!いっぱい勉強して、立派な薬剤師になるよ!」

「よし、いい子だ」


内心、安心しました。

ドクターに、そんな優しさがあったとは…。


「薬剤師になったら、俺が欲しい薬は、すべてタダな?」

「わかった!約束する!」


前言撤回!ドクターは、やはり鬼畜でした!



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