第11話 ドクターはやはり天才外科医でした。

その後、ゴブリンの魔石2000個、魔結晶500個を換金し、ブルードラゴンの鱗は無償で提供してギルドを後にしました。


ゴブリンの魔石

金貨200枚

魔結晶

金貨500枚

日本換算で7000万の売り上げです。


黒龍の素材は、いったいいくらになるのでしょう?


まぁ、ここは冒険者ギルド本部、買い取りするための資金は問題ないでしょうが…。


ドクターの金銭感覚と、ランクの拘りに、私は、またもや無言で見守るしかありませんでした。


ドクターは、ギルドのルールを捻じ曲げ、いきなりSランクとして登録しまいました。


無事、冒険者ギルドカードも発行され、晴れてSランク冒険者となりました。


私は…というと、冒険者登録はFランク、ごく普通に登録しました。

ドクターは、ギルドマスターに『イノリもSランクにしろ!』とか言ってましたが、私はドクターの助手…何もしてませんしね。


丁寧にお断りさせていただきました。


しかし、登録した事により、発覚したステータス画面に異常がありました。


名前 ドクター

レベル E r

ランク S

職業 医者

称号 地獄の支配者、マジックマスター

スキル 表示不可

HP E r

MP E r


名前 イノリ

レベル 1000

ランク A

職業 看護師

称号 人類の守護者

スキル 表示不可

HP E r

MP E r


ドクターはともかく、私のステータスがおかしな事になってます。


Fランクで登録したにも関わらず、ランクがAになっていたのです。


これには、流石のルリさんも驚いていました。


はい!私も同意です。

登録石がバグっているとしか思えません。


更に、ルリさん曰く


スキル表示不可→スキルが多すぎて書き込めない。

レベル、HP、MPの『E r表示』→ステータスの許容範囲を超えているための


たそうです。


レベルは1000が最高なのだそうです。

つまり、ドクターは、それ以上。


私の称号、人類の守護者も意味がわかりません。

レベル1000もスキルの表示不可も、E r表示も意味がわかりません。

私、何もしてませんし、自覚もありませんしね。


ドクターは「まぁ、当然だな」とか言ってましたが…。


まぁ、気にしないでおきましょう。


それよりも、登録を済ませて、出て来た私達を待っていたのは、Sランク、Aランクとして登録した私達に向けられる、罵詈雑言の嵐でした。


更に、帰ってきた討伐隊、上級冒険者、王国騎士団が、ギルド前で大騒ぎしています。


みんなの意見を統合すると

「俺達が苦労している間に、見知らぬどこの馬の骨ともわからない奴をAやSランクにするとか、何考えてんだ!」

って事らしいです。


まぁ、気持ちはわからんでもないですが…。


怪我人や死人も多数居るようですが、そちらは城壁前で待機しており、ここにはいません。

はてさて、どうなる事でしょう…。


☆☆☆


「お前ら!文句を言う前に、外に居る怪我人や死人をどうかしたらどうなんだ?」

ドクターは、珍しく正論を語ります。

本来は、医者ですしね。


「何も知らないくせに、偉そうに言うな!何があったかも知らないくせに!」

「はん!ゴブリンキングとゴブリンクイーンに、その人数で、その醜態…偉そうに言う資格はないと思うんだが?」

あれ?見ていたような煽り…。


「ウグッ…」

「ゴブリンの大量発生はなかった!ゴブリンキングとクイーンだけが、何が起こったか分からず、困惑しているうちに、お前らと遭遇して大暴れをした…だろ?」

「な、なぜそれを…」

遠征組が狼狽えています。


「どうせ、数は多くても、ゴブリン相手だからと油断したところに、いきなりゴブリンキングとクイーンがいて、取り乱した結果、連携も取れず、討伐もできず、この惨状なんだろ?」

「………」


「と、今はそんな事を言い合っている場合ではない!とりあえず、怪我人と死人を何とかする!イノリは、毒に侵された奴を何とかしてくれ!死人の魂は、後で繋ぐ!時間との勝負だぞ!急げ!」

「はい!ドクター!」

このやり取りに、周りの罵詈雑言はピタリと止み、固唾を飲んで、私達の様子を見ています。


城壁の外に向かって走りながら

「死人を何とかするって何だ?」」

「どうにかなるのか?」

「埋葬の準備って事だろ?」

罵詈雑言から一転、負傷者の安否を心配する声の方が多くなりました。


何やかんや言っても、やはり怪我人や死人が気になるようです。


「イノリ!死体、重症者、軽傷者、状態異常者の順に並べろ!周囲の雑菌は俺が除去する!」

「はい!ドクター!」

私は、現場に着くなり、ドクターの言いつけ通りに動きました。


その実、こうして、助手として動くのは初めてです。


バッパッパッ…!


(あれ?人間の体が軽い…イメージ通りに体が動く…指示された通りに、正確に動ける!何で??)


と、余計な事を考えていても、体は勝手に動きます。


「よし!全死体復元完了!イノリ!輸血!」

「はい!」


「重症者、手術完了!状態異常者はどうなってる??」

「毒の矢でやられた人の毒抜きは終わりました!細菌で汚染された人の血液交換も終わりました!」

状況からして、毒矢や細菌汚染は、ゴブリンとは関係のないの仕業だと推測できるのですが、今はそれどころではありません。


「よし!これから、霊体を縫合する!縫合し終わった順に、押し込んでいけ!」

「可視化できませんが?」

「ビンタすればいい!」

「「「「は?」」」」

この返答には、私以下、周りにいる人も驚いてしまいました。


「霊体を縫合した時点で、状況は『幽体離脱』と同じ状態になっている!生きる気力を注入するんだよ!知らないのか?」

「「「「し、知りません!!」」」」


「ま、本来は『闘魂注入』なんだがな…」

「「「「「それも知りません!!」」」」」


「いいからやれ!死なせたいのか?」

「や、やります!やらせていただきます!」


パン!パン!パン!パン!

「ゲフッ」


「次!」

パン!パン!パン!パン!

「ゲフッ」


私は、死体にビンタをし続けました。

ドクターの言ったように、次々と蘇生していきます。


「………」

見ている皆さんは、すでに言葉を失い、気絶しそうな勢いです。


無理もありません。

死体に施術をし、輸血をし、霊体を縫合して体内に戻す。

こんな事は、異世界でも異例です。


霊魂を操る『死霊術』は存在しても、霊魂の縫合ができる存在はいないでしょう。


「よし!全員、施術完了!」

「「「「おぉーー!」」」」

みなさん、大喜びです。


いつのまにか、家族や街の皆さんも集まり、かなりのギャラリーになっています。


「まだ安心するのは早い!」

「何をなさるおつもりで?」

「こうする!」


チャカッ!


ドクターが次元収納から取り出したのは、注射器。


「さぁ!最後の仕上げだ!」

ドクターは、そう叫ぶと、患者1人ひとりに注射をしていきました。


プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!プスッ!


「これでよし!」

治したはずの患者全員に注射をし、満足気に終了を告げるドクター。


「な、何をしたんで?」

ギルドマスターは、恐る恐るドクターに質問をします。


「回復薬入りの麻酔で寝かせた」

「は、はぁ…元気な者も居たはずですが?」

「ん?居たけど何?」

「回復や麻酔は必要なかったのでは?」

確かに、死体だった者、重症者だった者以外は、麻酔の必要はなかったと思いますが?


「後で説明する!騎士団長とギルマス、Aランク、Sランクの冒険者以外は、患者を連れて、家に帰れ!明日には、完全回復してるはずだ!特に、死体だった者は、動かすな!幽体離脱はクセになるからな…もう一度死なせたくなかったら、言う事を聞け!はい!解散!!」

ドクターの指示に従うみなさん。


いつ死んでもおかしくないほどの重症者を治し、死んだ者ですら生き返らせたドクターの言う事に逆らう人は、もういません。


しかし、小さな女の子だけは、涙を堪え、その場に立っています。


「お父さんがいない…グズッ…」


これはいったい…。

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