第10話 ドクターはギルドのルールをスルーしました。

翌日、私達は魔石を持って、冒険者ギルドに向かいました。


もちろん、大量の魔石はドクターの『次元収納』に入れ、案内は私でございます。


ドクターは、『神の宝玉』を手に入れて(?)から、次元を切り裂かなくても良くなったと、喜んでおりました。


道中、ドクターは嬉しそうに、『次元収納』と『次元転移』、ゴブリンから取り出した『魔石』と、大気中から抽出した『魔素石』改め、『魔結晶』の違いについて語っておりました。


『魔石』→不純物が多いので、エネルギー効率が悪い、使い切った後、カスが残る。

『魔結晶』→不純物がないので、エネルギー効率が良く、カスは残らない。


また、大気を、集めてたと思っていた魔素は、メスでして集めていたのだと言っておりました。


「知らなかっただろ?」ニヤニヤ

と、めちゃくちゃ嬉しそうに。


そして、重力場を形成し、圧縮して結晶化していたとの事。


「知らなかっただろ?」

と、めちゃくちゃ嬉しそうに。


それが、6つの『宝玉』を体内に取り込んだ事で、今までの工程をかなり省いてが出来るようになったのだとか…。


「すげーだろ?」

と、めちゃくちゃ嬉しそうに。


私個人的には、ドクターはこれまで、メス1本でをずっとやっていた…という事実の方がと思うのです。


しかし、こんな嬉しそうなドクターを見るのは久しぶりだったため、私も釣られて笑顔になりました。


その後、ドクターの顔が鬼のようになるとは知らずに…。


そう、ギルドに入ってからなのです。

ドクターの顔から感情が失われたのは…。


がチャッ…。


前回は、入り口で挨拶をして笑われたので、今回は、普通に入り、前回、魔石の換金を融通してくれた受付責任者のルリさんにお会いしました。


「先日はどうもありがとうございました」

「いえいえ、貴重な魔石…いえ、あれは魔結晶ですね…どこで採取されてきたのかは分かりませんが、大変助かりました」

という会話をしていても、ドクターは無関心…依頼ボードを眺めています。


「では、さっそく冒険者登録でよろしいですか?」

そうです。

前回は下見と称してお邪魔し、ドクターを連れて冒険者登録をするという約束をしました。


冒険者登録をすれば、素材を買い取りしていただけます。


なんせ、今は一文無しになってしまったのですから、何が何でも換金をしなければいけません。


ドクターは、そのへんをわかっていらっしゃるのでしょうか?


ずっと依頼ボードを眺めているだけですが…。


☆☆☆


「あのー…失礼ですが、前に言っていたドクターというのは、あちらの方で?」

「はい!そうです!」

私は慌てて、ドクターを呼び、紹介をしました。


「こちらが、私の主人、ドクターです!」

「えと…お名前は?」

「ドクターで構わない!本名を名乗る義理はない」

ちょ!ドクター!

何言ってんですか?


ここは冒険者ギルドですよ?

本名が必要に決まっているじゃないですか!!


「本名が名乗れないなら、登録はできません!」

受付責任者のルリさんの言い分は、ごくごく真っ当な言い分であります。


コロン…。


「??」

「これは、ゴブリンの魔石だ」

「は、はぁ、見れば分かりますが?」

「いくらだ?」

「10個で金貨1枚になりますが?それが何か?」

ルリさんも、どんどんと険悪な雰囲気になってまいりました。


コロン…。


「これは、先日、イノリに持たせた魔石…魔結晶だ…いくらだ?」

「こ、これは、1個金貨1枚になります」


スッ…。

何気に、ルリ嬢の前で、出した魔石を仕舞ってしまいました。


「あ!」

何やら、ルリさんの表情が困惑しています。


「でだ!さっき、依頼ボードを見ていたら、アルファベットでランク分けされていた」

「何が言いたいのですか?」

「見たところ、最高ランクがS、最低ランクがF…間違いないな?」

「はい。登録して頂いたら、Fランクからスタートして、依頼をこなしていただく事になります。それが、当ギルドのルールとなっております」


(うんうん…普通ですよね?ルリさん、間違っていませんよね?)


コロン…コロン…。

ドクターは、今度はゴブリンの魔石を次々と出していきます。


「なぁなぁ、こないだ、ゴブリンの大量発生があっただろ?」

コロン…コロン…。


「え、えぇ…今も、冒険者と王国騎士団の合同討伐隊が発生地に向かっております。ここは守衛都市ですから…」

「だよな?もう、ゴブリンはいないけどな…」

コロン…コロン…。


「え?それはいったい…」

「まぁ、それは、遠征組が帰ってきたらわかるだろ…」


ゴロゴロ…。

今度は魔結晶…。


ドクターの狙いはいったい何なんでしょう?


コンコン…。

ドクターは、魔結晶でテーブルを叩きながら、平然と言ってのけました。


「単刀直入に言う!Fランは、俺の知っているもっとも軽蔑される単語だ!」

「だから?!」

ルリさん、爆発寸前…。


私、ハラハラ…ここまで来ると、ドクターの意図は分かり切っています!


「俺を、Sランクとして登録しろ!」


やっぱり…!


「は?バッカじゃないの?!何の功績も上げず、誰にも認められず、いきなりトップランクにしろと?ふざけんじゃないわよ!!そもそも、登録は『登録石』で行われるんです!!勝手にそんな事ができるわけないじゃないの!!」

あ、キレた!


「コホン…失礼しました。そういう前例はございません。どうかお引き取りを…」

流石、受付責任者…持ち直しが早い!


ドスン!!


「な!そ、それは…」

はい、ルリさんは驚いていますが、私、知ってます!

ブルードラゴンの鱗ですね…おそらく、私が観察を放棄した後、解体でもしたのでしょうね。


ドクターは次元収納から、約1mほどの、真っ青な楕円型の鱗を取り出して、こう言いました。


「仕方ないなぁ…イノリ…帰るか」


スッ!

ドクターは、ブルードラゴンの鱗を次元収納に仕舞い、私に帰るよう促します。


「お、お待ち下さい!先程の非礼はお詫びします!ギルドマスターに取り次ぎますので、今しばらくお待ちいただけないでしょうか?お願いします!!」

ルリさんは、ブルードラゴンの鱗を見た瞬間、丁寧に90度礼の詫びを入れ、建物の奥に走っていきました。


「ニヤリ」

ドクターが、わっるい顔でニヤついているのが気になります。


☆☆☆


ところ変わって、ギルドマスターの部屋。


「で、ゴブリンの大量発生を食い止めて、魔結晶も随時納品するから、Sランクにしてほしいと?」

「あぁ、このブルードラゴンの鱗は、無償で提供しよう…いい取り引きだとは思わないかね?」

ドクター、ブレないっすね。

ギルドマスター相手に、めっちゃ上から目線で喋ってるしぃー!


「魔結晶は、どこで採取してきたのかね?こんなに純度の高い結晶は、この辺では採取できないはずなんだがね…」

「それは秘密だ…採集冒険者が殺到するだろ?」

「ふむ…確かにな。定期的に入れてくれるなら、まぁ、詮索はよしておこう…で?ブルードラゴンは討伐したのかね?鱗は、その一部だと解釈して良いのだよな?」

あー!それ、私も気になってました!

最終的に見てませんし!


「いや、ブルードラゴン、イエロードラゴン、グリーンドラゴンは配下にしたから、解体はしていない。ブラックドラゴン、つまり、黒龍だけは解体したな…俺に逆らったからな」

「………」

「見るかい?」

「い、いや、ちょっと待って…脳内処理が追いつかない」

私もです!

あの時、次元収納から出したブルードラゴンはいったい…。


「この国では、三色ドラゴンは敵とみなしていたようだが、それも間違いだぞ?三色ドラゴンは、この国の守護龍だ」

「まさか……」

「黒龍が敵の先行隊だ…その後ろには、ゴールド、シルバーと、モンスターを統治するドラゴンが存在し、この都市周辺の魔物とは桁の違う、強い魔物集団が待機している」

「な、なんと!」

「一気にこの都市を殲滅し、この国を蹂躙するつもりなんだろう。ゴールド、シルバーの後ろには、更に強大な悪が潜んでいると言っていた」

「………」


(誰が言ってたんですか?!)


「三大ドラゴンを敵と思っていたのは訂正しておいてくれ」

「わ、わかった…」

「で?」

「Sランクで登録しよう…しかし、『登録石』が判断しなかった時は諦めてくれ!それ以上は、わしにも、どうにもならん」

「あぁ、いいだろう!『登録石』が、俺をSランクだと判断しなかったらぶっ壊してやる!」

「いやまて!それだけはやめてくれ!本来は、初期登録ではFランクにしかならないんだ!」

「チッ…」


あーぁ、とうとう、半ば強引にギルドのルールを捻じ曲げてしまいましたよ…この人…。


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