第8話 ドクターの実験その他をスルーしました。

さてさて…。


とりあえず食事をした私は、予防策として目を瞑って、浮遊している眼球に神経を注ぎます。


何故、眼球が自立型になったのか…。

それは、ドクターにとって、大きな誤算があったからです。


義眼…つまり、作り物の目玉。


それに、神経を繋ぎ合わせて視力を維持できるようにしたのがドクター。


作り物に神経を繋いだ事によって、限りなく本物に近くなった事。

これがドクターの誤算です。


誰も想像ができないでしょう。


私自身が、いまだに理解できていないのですから…。


何はともあれ、眼球に巡っている神経もまた、ドクターの細胞の影響を受けているため、位置は容易に認識できました。


ドクターは、街からかなり離れた森の中にいました。


ザクッザクッザクッ…。


ドクターは、いつもの

シュッシュッ…ではなく、かなり乱暴に何かを切り刻んでいます。


もちろん、自分自身を傷つけているわけではありません。


対象は魔物です!

ゴブリンです!


初めて本物を見ました!


「弱点は人間と同じっと…」

『………』


「次!」

「ギャギャギャ!」

シュッシュッシュッ!


ズボッ!


チクチクチクチク…。


「魔石は紫っと…あ、死んだ」

『………』

どうやら、ゴブリン相手に、いろいろな実験をやっているようです。


更に、空を切るように、大気を切り刻んでいます。


ゴロゴロ…ゴロゴロ…。


宿屋で見た『暇つぶしに…』で、魔石を作り出しています。


次に観察…。

ゴブリンの魔石と、大気から作った魔石を比べて「うーん」とか言っています。


今のところ、神の宝玉についての実験はしていないようです。


いったい何をしているのでしょう?


☆☆☆


シャッ!シャッ!シャッ!

今度は反対に、魔石を切り刻んで塵にしてしまいました。


「んー。まだ荒いな…」


シャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッ!


「よし!」

何が『よし!』か、わかりません。

残念ながら…。


今度は、またかき集め、魔石にしています。


(おや?)


「おー!やはりか!」

は?


いやいやいやいや!

やはりの意味がわからないんですけど?


と言いつつ、様々な色の魔石が出来上がっていました。


赤、青、黄色、緑、白、そして黒


「ふむ。大気中の魔石からは黒は出ない…魔物たらしめているのは、この黒い部分だな」


「で、赤だけなら火炎石…それにいろいろ入れたらゴブリンの魔石よりも上級になるっと…紫が基本で…うんたらかんたら…」

ドクターは、しきりに魔石を刻んだりくっつけたりして、独り言を言っています。


「よし!大気中の、純度の高い魔石を入れてみよう!」

「ギャギャギャギャ!!」


シュッシュッシュッ!


ズボッ!

ズブッ!

チクチクチクチク…。


一匹のゴブリンから、魔石を取り出し、自作の魔石を入れて縫合しました。

いつ見ても、鮮やかなメス捌きです!


「………」

(ん?)


「ダメだな…」

何が?


「失敗だ!」

何が?


「血液中の魔物成分も取らなきゃ実験にならねー!!」

あ、私が必要って事ですね。


ようやく理解できました。


☆☆☆


「閻魔ぁー!!」

『へい!旦那!お呼びで?』

「このゴブリンの死体、餓鬼にくれてやってくれ」

『へい!承知いたしました』

「実験が成功したら、そっちの戦力として鍛える、失敗したら、魔石だけ抜いて餓鬼のエサにする。どぉ?」

『いいですね』

「あ、一匹、生きたまま持っていって、餓鬼と戦わせてみて…実験的に」

『面白そうですね』

はっきり言って、その会話が怖いです!


『で、今日、あねさんはいないんですか?』

「あぁ、ちょっと療養してもらってる」

『旦那、つまらないんじゃないですか?』

「う、うるせー!用事は済んだ!はよ帰れ!」

『へいへい』

そんなやり取りをして、閻魔大王は帰っていきました。


ん?んん?

あねさんって、もしかして私?


え、えぇーー!!


ドクターは、ツンデレ属性なのでしょうか?


私の前では、常に冷静沈着で、ほんの少しの隙でさえ、見せた事がありません。


今更ながら、ドクターって何者なのでしょうか?


少なくとも、いろいろと得た情報(情報元:自立型さん)や、要望を叶えてもらった事、今のやり取りを見る限り、私に対してはを持っていただいているのは分かりました。


「フン!フン!ぐぉー!!」


ジタバタジタバタ!


「お?かかったな…魔物ではない普通の動物…んと、あー、イノシシか!まぁいいや」

これって、異世界でいう『スキル 探知』ですよね?


普段使っているのは、例えるなら『顕微眼《けんびがん』。

人の能力などを見る能力は『鑑定眼』。

本人に、その自覚はないようでしょうが…。


なんせ、ドクターは何でもかんでも「俺は目がいいんだ」で済ますからです。


「さて、魔石が魔物の生命維持装置、急所だと言う事はわかった…なら、これならどうだ?」


シャッシャッシャッシャッシャッ!

ズボッ!

ズブッ!

チクチクチクチク…。


何という事でしょう?


ドクターは、イノシシの心臓と、ゴブリンの魔石を一瞬で交換してしまいました。


結果

イノシシは魔物になり、ゴブリンは死にました。


「ふむ。やはり、魔物たらしめているのは魔石かぁ…血液交換ができたら、どう変化するか分かるんだけどなぁ…」

ドクターは今、私を所望していらっしゃるようです。


現在は動けませんが…。


☆☆☆


「さてと、実験はやめて、素材集めでもするか…」

あらあら、ドクターは、私の話をスルーして、勝手に素材集めをするようです。


「風魔法!対象収集!対象!半径5km以内にいるゴブリン全部!」

あら?なるほど。

すでに宝玉の実験は終わっていたんですね?


スゴォォォォーー!!


ものすごい風…森を駆け抜ける嵐といったところでしょうか…って、え?


確かに、風に乗ってゴブリンは集まってきました。

範囲はドクターを中心に、直径10km。


しかし、ゴブリンって、こんなにいるんですね?


ざっと、100体以上は集まってきています。


「くっさ!これだけ集まると、臭いも凄まじいな」


スゴォォォォーー!!


「閻魔!」

『へい!お呼びで?』

あのぉ…閻魔大王様?もしかしてお暇ですか?


いやいや、気を取り直して…。


「なぁ、生きたゴブリン、どうだった?」

『あれはダメっすね…教育するにも、戦闘力にするにも、中途半端で』

「で、どうした?」

『餓鬼だけでなく、みんなの食材にしました』


「え?ゴブリンって美味いの?」

『えぇ、我々にとっては…可もなく不可もなくですが、調理次第でいい食料になりますよ…血抜きは必須ですがね』

「魔石は?」

「ありますよ?こちらでは必要ないですし」

やはり、魔石は異世界特有の素材なようです。


「なら、見える?今、ゴブリン集めてんの」

『ひゃー!旦那!なんかすごい事やってますね』

「全部やるよ」

『えー!!それはありがたい!』

「魔石は…」

『わかってますって…後でお届けにあがります』

「誰に運ばずの?」

『九尾が旦那に会いたがっていますんで、頼みましょうかね?』

え?九尾って、妖獣の??


「あー!妖狐のヨーコかぁー!確かに最近会ってないな」

『んじゃ、門を開けます!』

最近??門??

今頃、ベッドの中にいる私の頭の上には?マークが沢山浮かんでいる事でしょう。


ズゴゴゴ…。


こ、これが噂の『地獄の門』??


と、思っているうちに、風に流されて飛ばされてたゴブリンが、次々と門に入っていきます。


ズボボボォォ!


パタン!


『では後日』

「あぁ、おつかれさん」


『………』

ドクター、やる事が破天荒すぎます!

冷静沈着なドクター!帰ってきて下さーい!!


「よし、次は…」

え?まだ何かやるおつもりで?


「次元収納!」


フッ!


ドッシィィーーン!!


おー!!

メス以外で次元を操るのを、初めて見ま…し…た…た…。


え?えぇーーー!!


次元収納から出したのは、紛れもなく

真っ青な、綺麗な鱗を纏った、いわゆる『ブルードラゴン』

「………」


シャキン!

ドクターは、例の黒いメスを持っています。


一本だけ持っているところを見ると、10トンメスでしょうか?


「………」

何か、めまいがしてきました。


私は、体に…いえ、精神的についていけなくなり、その場を後にしました。


今見た事は、すべてなかった事にしましょう。

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