第7話 ドクターの施術をスルーできませんでした。
「おはようございます」
私は、悪夢のような一夜を経験し、悪夢にうなされながら起きると、そこには、昨夜、何事もなかったかのようにドクターがベッドたの横で座って寝ていました。
挨拶をしても反応はありません。
『よう、お目覚めかい?』
「はい…って、貴方はどなたですか?」
昨夜の事があります。
少々の事では驚きません。
『今、テツヤは徹夜して寝てるよー!ギャハハ!!』
「………」
これを、世間では『寒い』と言うのでしょう。
「で、貴方はどちら様?」
『こちら様ぁー!!』
ブァサッ!!
返事と共に、ドクターの髪の毛が逆立ちました。
「わ!」
『しっ!テツヤ、今寝てるから静かにね』
「は、はい」
どうやら、喋っているのはドクターの髪の毛のようです。
血液に人格があり、皮膚にも人格があれば、髪の毛に人格があっても不思議ではありません。
『とりあえず、伝言を頼まれたんだよ。聞いてくれるかい?』
「え、えぇ…」
髪の毛は『自立型毛髪』と言うそうです。
①寝たふりは良くない。
ガーン!バレてました!
②寝覚めの悪くなるような物を見せてすまなかった。
いえいえ…。
③乳首と生殖器は作っておいた。
え、えぇーー!!
「いつの間に…」
『寝てからすぐだね』
「なるほど…要望は聞き入れてもらえたんですね」
『イノリの事、すごく大事にしてるからね』
「は、はぁ…そ、そうでしゅか…」
『噛むなよ…ギャハハ!』
いやいや、流石に照れますし…。
『でな?どれぐらい大事に思っているかと言うと…』
「ゴクリ…」
ドキドキします。
☆☆☆
「いらん事、喋るんじゃねー!!」
「『ギャァァーーー!!』」
自立型毛髪さんと私は、同時に声をあげました。
ドクターが起きてしまっていたからです。
自立型毛髪さんは、一度、髪を逆立てて、元に戻りました。
「おはよう」
「おはようございます。ありがとうございました」ペコリ
「いやいや、構わない。いずれ、すべてを話すつもりだったんだ」
「そうですか…それで構いません」
その気持ちが嬉しいと伝えていいものかどうかを悩み、今は伝えない事にしました。
「でだ。乳首と生殖器を馴染ませるために、今日1日は寝ているように…いいかい?」
「は、はい」
「どちらも、俺のとは形状が違うんだ。定着しなかった場合、どんな反応になるか、わからない。実験してないからな」
「え?ドクターのも、後付けですか?」
「いや、俺の場合、改造だな…簡単に言えば…」
「改造??」
「そそ、魔改造…ハッハッハ!」
「………」
どんな改造を施したのか、興味はありましたが、あえてやめておきました。
「朝食は頼んである。まぁ、ゆっくりしなさい」
「ありがとうございます」
こんなやり取りをして、ドクターはそそくさと部屋を後にしました。
(はて?どこに行くのでしょう?)
『実験じゃないかな?昨日の…ほら、神の宝玉』
「………」
まさかね…。
『私は誰でしょうかっ!』
このノリ、まさかね…。
ブァサッ!
『髪の毛でーす!ギャハハ!!』
やっぱり!!髪の毛が逆立つ感覚があります。
「やめなさい!」
『はーい』
スッ…。
あれ?意外と素直ですね。
『そりゃ、イノリさんの一部ですもん』
「なるほど…」
私の髪の毛も、ドクターと同じく、自立型毛髪だったようですね。
しかも、私の一部としての自覚があるのか、私の言う事は素直に聞くようです。
「ドクターが実験に行くって、何でわかるの?」
『そりゃ、ドクターが、自分の髪の毛を参考に作った髪の毛だからだよ?ドクターの髪の毛と、イノリの髪の毛は兄妹なのよ…ギャハハ!!』
「………」
どうりで、ノリが同じなわけです。
「はぁ…」
何か、ドッと疲れてしまいました。
☆☆☆
「ところで、ドクターは、どこへ実験に行ったの?」
『知らなーい!』
毛髪さんは、そう、あっさりと答えました。
しかし、次の言葉に、私は、またもや驚く事になります。
『眼球に頼んだら?』
「は?」
今、変な事が聞こえてきました。
(眼球???)
私に目を抉れと??
『そだね、私が見てこようか?』
「うぐっ!」
気持ち悪いです!
目が喋っています!
自立型毛髪さんは、いわば、脳内に語りかけている感じ。
しかし、眼球が喋ると、話しはまるっきり違ってきます。
喋った振動が、目の奥を揺さぶっている感じなのです。
ドクターは、私の体をどこまで自立型にしたのでしょう?
デローン…プチッ
すると、いきなり右の眼球が飛び出てきました。
フワフワ…。
うぅー!気持ち悪いです。
自分で自分を見ている感じ。
鏡を見るのとは、また違った感覚です。
『まぁまぁ、落ち着いて』
「は、はい」
自立型眼球さん曰く
①ドクターですら、眼球が自立型だとは知らない。
②元々は、義眼に神経を繋ぎ合わせた物。
③ドクターの目とは違って、元素単位では、物は見れない。
ドクターの目は、元素単位でオンオフが出来、寸分違わず切る事ができるが、眼球だけを切り離す事はできない。
④イノリの眼球は、いわば、ドクターも予想していなかったバグであり、隠密行動には最適。
破壊された場合、自動的に復元する。
「つまり、眼球を切り離して、隠密行動をし、失敗したかどうかは、私の目が復元されるかどうかでわかる…と?」
『そうそう。飲み込み早いねー!』
「ドクターにバレたら?」
『二度と切り離せなくなっちゃう…』
「まぁ、そうでしょうね」
『…か、それを利用して、いろいろ画策するか』
ガクッ…!
『いやいや、大変だよ?ドクターは調査、実験大好きだからさ…ずっと片目って事になる恐れアリアリだよ?』
「た、確かに…ずっと片目は不便ですね…見た目も悪いですし」
『そうそう、せっかく、超絶美人に作ってもらったんだから、片目はダメだよね?』
「超絶美人…」
まだ、人と比べてないので、良くわかりませんが、女将さんよりは美人だと思います。
これは、言い過ぎでしょうか…。
「では、さっそくお願いします」
『はーい!』
フヨフヨ…。
こうして、自立型眼球さんは、ドクターを目指して旅立っていきました。
実は、すでに酔いそうです。
片目は部屋を、片目は空を見ているわけですから。
果たして、この景色に慣れる日は来るのでしょうか?
「お食事をお持ちいたしました」
こんな気分の悪い中、何も知らない宿屋のスタッフが食事を持ってきたようです。
今、食欲ありません!
とは言えない私でした。
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