第5話 ドクターは人間の尊厳をスルーしました。

ギルドでの素材、魔石の買取りは、原則として登録している冒険者しかできず、外からの持ち込みは禁止されております。


何故なら、本来、どこかで利用されるものを、違う場所で取り引きをすれば、密猟扱いになるからです。


例外として、国を揺るがす程の、魔物による大規模進行に関しては、あくまで討伐が目的であり、国中が討伐にあたるため、素材は二の次であり、横取り扱いにはなりません。


また、ダンジョンにおいて、討伐した魔物の一部を掠め取って報酬を受け取るような輩は、泥棒扱いされて処罰の対象となります。


「へー」

あれ?ドクターは、私の説明に関心がないようです。


「素材にならない魔物でも、討伐した証があれば報酬になると?」

「はい」

「素材は、一旦ギルドが買取り、武器屋や防具屋、その他に卸してウィンウィンになると?」

「は、はぁ…そ、そうなると思います」

「つまり、冒険者にならないで魔物の素材を集めて、直接取り引きするのは無理って事か…チッ」

「え、まぁ、そういうシステムらしいです」

今、舌打ちが聞こえたような?


「まぁ、いいや…とりあえず、宿を取ろう」

「はい」

今の流れで、ドクターの意図は読めませんでしたが、宿を取る事には賛成です。


いつまでも、宿屋の前でグダグダしているわけにはいきませんから。


ガチャッ…。


「いらっしゃーい!」

「すみません。宿を取りたいのですが…」

「1人部屋、一泊朝夜食事付きで銀貨1枚、2人部屋なら銀貨2枚と小銀貨5枚、前払いね。どうだい?」

威勢の良い、明るい声で、宿屋の女将さんらしき女性は、明瞭会計なお返事を下さいました。


白金貨→100万円相当

金貨→10万円相当

銀貨→1万円相当

小銀貨→1000円相当

銅貨→100円相当

小銅貨→10円相当


「で、何泊してくれるんだね?」

当然、前払いなだけに、何泊するのかは気になります。


「割と高いな…」

「そりゃそうさね。うちはサービス満点なんだ。安宿がいいなら紹介するよ?」

「そうだなぁ…安宿は嫌だな…しかしなぁ…」

私は、ドクターが値切らないか、ヒヤヒヤしながら見守るしかありません。


「今、金貨しか持ち合わせがないんだ…お釣りもめんどくさい」

そっちかーい!

ドクター!心臓に悪いです!!


「………」

女将さんは、口をあんぐり開けたまま、固まってしまいました。


金貨しかない。

お釣りは受け取りたくない。


では、どうしろと?


これが、私と女将さんの同意した感想でしょう。


「な、なら、2人部屋で銀貨2枚、それなら、金貨1枚で5日は泊まれるよ?」

結果、値切った形になりました。


「わかった。商談成立だ」

「で、何泊してくれるんだい?」

「イノリ、さっきのやつ…」

「何枚出しましょう?」

「全部」

「ほぇ??」

変な声が出てしまいました。


「わかりました」


ジャラッ…。


「ほぇ?」

女将さんからも、変な声が出てます。


「えーと…」


ジャラジャラジャラジャラ…。


「ご、50枚!!」

「あぁ、それで、適当にやってくれ」

「し、承知いたしました!1番良い2人部屋をご用意いたします!!」

「適当でいいよ…それから、変な気は回さないように…いつもの感じで頼む」

「は、はい!こちらは、貴族様、上級冒険者様がご利用下さる宿なので、トラブルも無いと思われましゅ…」

あ、噛んだ!


「そういう仰々しいのはいらない…普通で頼む」

「ふぅ…わかったよ。私は、貴族にも冒険者にも怯まない性格なんだ…ただ、こんなにおかしな払い方をする人は居なくてね…ごめんよ」

「あぁ…それで構わない」

ふぅ…一件落着なようです。


☆☆☆


部屋は、地球でいうスィートルーム並み、おそらく、高位の貴族が泊まるようなレベルだと思われます。


幸いにも夕暮れ時で、誰もいなかったのが救いです。


「安宿だと、ガラの悪い連中がたむろしてそうだしな…喧嘩を売られて、殺すわけにもいかないから、ここならちょうどいい」

ドクターは、サラッと物騒な事を言っていますが、冗談ではないと分かります。


『銃刀法がないなら、殺人はOK』みたいな感性の持ち主です。

間違いなく、『正当防衛』だと言って、殺ってしまいかねません。


夜になり、私達は、食事と風呂を済ませて、部屋でくつろぐ事にしました。


てっきりドクターなら、夜に情報集めだとか、見識を深めるだとか、そういった行動をとるものだと思ってました。


流石に、買い物はできません。

ドクターの金塊を除く全財産は、すでに支払い済みです。


お風呂は部屋にあったので、普通にいただいたのですが、やはり、私の体には興味がないらしく、ドクターに見向きもされません。


「あ!!」

「どうした?」

「私!今、初めて自分の顔を見たのですが…」

「あぁ…見る機会がなかったからな」

「結構、可愛いと思います!ビックリです!」

「あはは…だから言っただろ?俺好みに作ったって」

だーかーらー!

そういう事は、平然とおっしゃらないで下さいってば!!


顔は、少し肉付きのいいタマゴ型、目はパッチリとしていて、まつ毛も長い。

端正な鼻筋に、色っぽい唇。

口元には、ほくろもあり、色っぽさが際立っています。


「私、こんな顔をしていたんですね…」

「そうだな…可愛いよ」

くっ!こんなに、可愛い発言はあっていいのでしょうか?


と、思っていたところに、重大な物が事に気づきました。


「ドクター!!」

「今度は何だい?」

「わ、私!乳首と生殖器がありません!!」

「あれ?気づかなかった?てっきり着替える時に、気づいていたかと…」

そうです!最初、着替えた時は、起動したばかりで、そういう事には気付けませんでした。


しかし、今は違います!

ほとんどの知識がインストールされ、一般常識がわかるのです!


「ドクター!作ってください!」

「わかったわかった…また機会があればな…つか、必要かな?」

「必要ですよ!食事をして、水分も取ってるんです!排泄とか必要でしょう?」

「いやぁ…すべて、エネルギーに変換されるから、排泄物は出ない構造なんだけどね?俺も…」

「………」

え?今、何とおっしゃいました?

排泄物が出ない?俺も??


キョトンとした顔をしているであろう私に、ドクターは、更に付け加えます。


「よく、アイドルはウンコしない、可愛い子はウンコしないって言われてた、都市伝説があってだな…その立証実験も兼ねて、作ったのがイノリだ」


え、えぇーー!!


ドクター曰く

トイレに行く時間が惜しいから、自分も同じ構造にしてみた。

自分とイノリは、地球で捕まったらモルモットになるしかない。

との事。


ドクターにとって、自分自身も人体実験の材料なようです。

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