第4話 ドクターは金儲けをスルーできませんでした。
「ふむ…」
ドクターは街について、すぐに異変に、気づきました。
それは、誰でも気づくでしょう。
街並みを歩く人々は、人族から亜人族、魔族までいるのです。
ここは、異世界でも数少ない、多種族が共存している街のようです。
気づかない方がおかしいと思うのが普通でしょう。
「ずいぶんと、多種多様な進化を遂げたな…」
「………」
私の気のせいでした。
ドクターは、進化の過程で亜人族や魔族が生まれたと結論づけたようです。
まぁ、いずれ分かる事なので、私は頷くだけに留めました。
街には、武器屋、防具屋、鍛冶屋、錬金屋、宿屋…異世界ではお馴染みの看板が並んでおります。
街並み全体は、中世の街を模したように感じます。
「おー!イノリ!ここは、変わった進化を遂げた割に、時代は逆行しているみたいだぞ?」
「と言いますと?」
「武器屋がある」
「そ、そうですね」
「反応が薄いなぁ…分からないか?」
「えと…何がでしょうか?」
私には、ドクターが何を言わんとしているか、検討がつきません。
「武器屋があるという事は、銃刀法がないって事だ!」
「あ、え?はい、そうですね」
そこかーい!と、ツッコミたくなった私は、順調に人格を形成しているのだと思います。
「銃刀法が無いという事は、殺人も許容されている…と言うこだろ?」
「いえ、それは流石に違うかと…」
「悪者なら、殺してもいいんじゃね?」
「え?まぁ…それはどうでしょう?」
ドクターの趣味は人体実験…ここは、私がしっかりしていないと、大変な事になりそうです。
「是非、生きた生物を解剖してみたい!俺以外の人間とは違った生体だ!これは興味を唆る!」
この発言から、死体で人体実験はした事がある。
生きた実験体は、ドクター本人。
となるのですが、どう言う意味でしょうか?
「あ!」
「どういたしました?」
「宿に泊まる金が、ねー!」
「確かに」
「くそー!!あの時代から、持ってきたら良かったわ!」
「えと、おそらく、ここでは紙幣をお金にしている事はないと思われますが…」
異世界では、大抵の場合、金貨、銀貨、銅貨が用いられているのは学習済みです。
「そこだよ!俺の財産は、すべて金塊にして保存してたんだ…裏金ってヤツだな…これも逮捕案件だな!ハッハッハ!」
「それはすごいですね」
「紙幣なんか、紙切れになる恐れがある。その点、金塊なら、どの時代でも使えると思ってな…」
「す、素晴らしい発想です」
それ以外、私に何をおっしゃれと?
ドクターは、先見の明があるようです。
☆☆☆
「ドクター、ここで少し待ってていただけますか?」
「どうした?」
「もしかしたら、お金を稼げるかもしれません。ちょっと心あたりを探してきます」
「わかった。俺も、所用でこの場を離れる」
「では1時間後、あの宿屋の前で…」
私は、目についた赤い屋根の宿屋を指差して、ドクターに提案しました。
「ふむ…」
ドクターは私を見ると、にこやかに笑いかけます。
少し照れてしまいます。
ドクターの容姿は端正で、俗に言うイケメンの部類に入ります。
そのドクターに見つめられると、照れてしまうのは、私の感情が豊かになってきた証拠でもあります。
「どうかされましたか?」
それでも尚、私は平然と答えるしかありません。
『見つめられて照れました』などとは、口にできないからです。
「いや、イノリが、自分で考え、自分で行動を起こすって事が新鮮で…そのうち、限りなく人間に近くなるんだろうな…と」
なるほど…ドクターは、私の成長を喜んでくださっているようです。
私は、ドクターと別れ、『とある場所』に向かいました。
ここが異世界なら、どこかにあるはずなのです。
冒険者ギルドが…。
ドクターの腕なら、素材に傷ひとつ付けないで、解体はできるはずです。
しかも、大気中の粒子…正確には『元素』なのですが、それすら見分けて切り取れる技術があります。
これなら、すぐにでもお金を稼ぐ事ができるのではないかと思うのです。
しばらく街を探索していると『冒険者ギルド』という看板を見つけました。
地球では使われていない言語ですが、問題なく読めます。
(ドクターは、これも『進化』だと思っているんでしょうね…)
想像すると笑いが込み上げてきます。
ガチャ…。
「失礼します」
私は冒険者ギルドの扉を開け、一礼をすると、いきなり大笑いされました。
何故でしょう…?
☆☆☆
「失礼しますだってよ!」
「どこの田舎もんだよ!」
「ねーちゃん!いい体してんじゃねーか!」
様々な罵倒が私に向けられております。
体が熱くなります。
これは、なんでしょう?
私は、罵倒を無視し、受付に向かいます。
「失礼します。ここで仕事はできますでしょうか?」
「はい。仕事をするには、登録をしていただかないといけませんが、大丈夫ですか?」
受付のお姉さんは、礼儀正しく接客をしてくれます。
「あ、はい。私は、少し情報が欲しくて聞きに来ただけなのですが、後ほど、ドクターと一緒に来たいと思います」
「そうですか…先程は、ギルドメンバーが失礼いたしました。あそこにいる連中は、底辺ですので、お気になさらず…」
「ありがとうございます。まぁ、だいたいは、そんな感じではないかと思っておりました」
受付嬢は、名前をルリと言い、受付の責任者をされているとの事でした。
「先程、ドクターとおっしゃっていましたが、貴女は、ドクターの助手みたいな方ですか?あまり見かけない服装ですが…」
確かに、ナース服は異世界には無い服装だと思います。
おそらく、この世界でのナースは、神官のような服装ではないかと推測しました。
「これは、ドクターからいただいた大切な衣類なのです。ドクターは、白衣を着ております」
「そうですか…それでは、次に来られる時は、そのドクター様とご一緒という事ですね?」
「はい、そうなります」
「失礼ですが、民間診療所とかで働かれた方が良いと思うのですが…」
「普通に考えたら、そうなりますが、神殿の診療所で、民間の医療期間は料金が高いと聞きました」
「………」
私がそう言うと、ルリさんは、しばらく目を細め、考え込んでしまいました。
神殿の診療所、民間の診療所…いったい何があるのでしょうか…。
「ありがとうございます。では、後ほど…」
「はい。お待ちしております」
受付嬢のルリさんからは、他に、ここが『守衛都市 エアリス』という街である事、ここが王都を魔物から守る要の場所である事、魔物から王都を守るために、このギルドは大陸で1番大きな冒険者ギルド本部である事を教えていただきました。
だから、冒険者にもいろいろな種族、いろいろな性格の者がいると…。
☆☆☆
私は冒険者ギルドを後にし、ドクターと合流しました。
「え?」
「え?何?」
ドクターと合流した私は、その光景に言葉を失ったのです。
何故なら、ドクターは、大量の金塊と、大量の魔石を持って、待っていたからです。
私は気を取り直し、冒険者ギルドの情報をドクターに伝えました。
ドクターは、金塊は現代地球に帰り、持ってきたと言います。
(え?行き帰り自由??)
魔石は、暇つぶしに魔粒子…つまり、魔素を切り取って集めていたら、勝手に結晶化し、ゴロゴロ出てきたとの事。
(この人って、一体何者?)
私を作ってくれた御方なのは、重々分かっております。
が、またひとつ、ドクターの謎が深まったように感じます。
「魔石は、結構な値段で取り引きされているようですよ?でも、それだけ金塊があれば、売る必要もありませんね」
ドクター、申し訳ありません。
今のは、私の勝手な想像です。
異世界では、よくある話をしただけです。
「んじゃ、売ってきて…」
「え?」
「高く売れるんだよね?」
「は、はい…」
「じゃあ、お願い」
困りました。
今更、出まかせだとは言えません。
どこで取り引きしているのかもわかりません。
私は、仕方なく、魔石を持って冒険者ギルドに向かいました。
幸いにも、受付嬢のルリさんは、先程、冒険者が失礼をした…という理由で、心よく買い取りをしてくださいました。
魔石50個、金貨50枚。
金貨の相場が、地球換算で10万という感じですので、おおよそ500万になった事になります。
金塊を大量に持っていながら、更に暇つぶしで作った魔石で金儲けをするドクターは、何を考えているのか、私に理解する事ができませんでした。
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