第29話
宿の部屋に戻ったアサミ達は だれも言葉を発せられなかった。
長い沈黙の間アサミは一人ミューの言葉を思い出していた。
(選ぶのは自分 殺さなきゃいけない未来 偽物の勇者 考えろ 抗え か・・・
重いなぁ こんな重圧初めてかも
でも 今の所 私しかいないんだよね 私がやらなきゃ・・ 殺さなきゃ・・嫌 ダメだこんな考え
初めは 新しい出会いや旅の始まりだー! なんてはしゃいでるだけだったけど
私の行動で 多くの人が不幸になる可能性もあるんだ。
偽物の勇者 そんなのいっぱいいるって言ってたな 今の私は ただの偽物 いや 偽物を名乗って
すらいない なにが勇者よ この臆病者 目立ちたくない 人と関わるのがめんどくさい
私がやらなくても誰かやるでしょ 5年前までばあちゃんがいればあとはどーでもよかった。
私にはばあちゃんが守ってくれるってずっと思ってた。 全部 ばあちゃん頼りだった。
自分で選んだことなんて一切なかった。 全部ばあちゃんの言うことならやろうってだけ。
自分なんて あったのかな? ばあちゃんが亡くなってからもそう 何も考えなかった。
ただ 学校行って バイトして 家事して なんも考えれなかった。
いや 何も考えたくなかった。それほどばあちゃんは自分にとっては大切で温かい存在なんだ。
ただ 生きるだけ ただ死んでない 誰ともかかわらない それが私。飯島麻美
でも 今は?ばあちゃんがいてくれる。タマも家族になった。
内心は ばあちゃんがいるなら任せても大丈夫 タマ強いし 魔王倒してくれるでしょ。
とか 本気で思ってたんじゃないの? また逃げて何にも興味持てないそんな自分が
大嫌いだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
気持ち悪い 気持ち悪い 気持ち悪い
なんで私なの! ほっといてよ! 人なんてそう変わらないんだよ!苦しい!逃げたい!
ばあちゃん タマ 助けてよ!)
トキは顔が真っ青なアサミを見て今までの人生を振り返っていた。
(アサちゃんは小さい頃はよく笑う子だったねぇ。そんなアサちゃんの笑顔で
じいちゃんを亡くした私をずっと励まされたもんだっけ
ああ この子の為に生きよう この子が生きていれば何にもいらない。
そんなアサちゃんの笑顔が消えたのが
8歳の時 両親のいきなりの交通事故
あの時のアサちゃんは 何にもしゃべらない。表情が動かない。泣いてるのか 怒ってるのか
ほんとにどうしたらいいか わかんなかった。
アサちゃんは昔の私なんだってずっと思ってた。
アサちゃんの事笑わせたくて一緒にアニメみたり 遊園地にいったり 漫画見たり 色んな事したねぇ。ずっと塞ぎ込んでるアサちゃんだけど
寝る時だけはずっと離してくれなかったね。アサちゃんの為ならなんだってしてあげた。
ご飯をいっぱい作ってあげた。一緒に暮らせるだけでそれだけでよかった。
ご飯を食べたあと 久しぶりにアサちゃんの声を聞いた ばあちゃん おいしかったよ。
何がアサちゃんの心を開いたのかはわからない。でもその一言だけで私は涙したんだ。
ばあちゃん 泣いてるの?私が悪い子だから?ごめんなさい ごめんなさい。どこにも行かないで。
って ずっとその夜は泣いてたっけ。それを見るたび 胸が苦しかった。
その日から 私とアサちゃんの人生がまた始まった気がするね。
ちゃんとアサちゃんは嫌なことがあった 面白いことがあった 怒ったことがあった
毎日聞かせてくれて 私も褒めて甘やかしすぎたのかもしれない。
それからずっと離れなかった。ああ 幸せだった。私が病気にかかって アサちゃんがまた笑わなくなった。学校の帰りに病院にお見舞いに毎日来てくれたけどいつも泣きそうな顔で我慢してるだけ。
ああ この子はまた一人になるのか。私があとどれくらい生きられるだろう。ああ まだ死にたくないなぁって毎日神様にお願いしてたっけな。
それから すぐに私は死んだ。最後に見たのは大好きな 孫の顔だった。)
ああ ((私たちは 依存してたんだ))
何も音のしない部屋の中 ドサっと音と共に アサミが倒れていた。
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