第5話 骨身を削る職業

役所で発行されたカードは『ゴワホイスト国滞在証明カード』とかいてあり、実はこのカードがあったとしてもできないことがあるらしい。


一つはこの国での住居や土地の購入。

滞在カードでできるのはいわゆる借家、つまりアパートやすでに持ち家のある人から借りることしかできない。

ホテルや旅館のような施設もあるらしいので、部屋数に困ることはないらしいがあまり金銭的にはよろしくないだろう。


そして制約はもう一つ、一部の職業には就けないというのがある。これは国の重要施設や機密に触れる可能性がある仕事をしてはいけないということらしい。

これらはもう一つランクが上のカードがあれば制約はなくなるため、言うなればそれは正式的に国民として受け入れてもらった証と言える。


カードのランクアップの条件に付いては、とにかく『いろいろ』あるらしく、詳しくは教えてもらえなかった。

役人のお姉さん曰く、「『国への貢献度』みたいなものが関係あるのかもしれない」と言っていたが特に確信はないとのこと。

とりあえず真面目に過ごしていればいずれ更新できるようになるらしいので、今はそこまで気にしなくて大丈夫だと言っていた。




それから俺たちは、とある時計屋に来ていた。

「いち、じゅう、ひゃく、せん…1080万エル?でいいのかしら?」

「いや108万エルだ」

「じゃあこっちは30万エル?」

「…いや、そっちは300万エル」

「なんか数字が多くて頭痛くなってきたわ」

俺は別の意味で頭が痛いけどな。


役所の人に教えてもらったのだが、この国では時計を買っておくと良いと言われた。

なんでも仕事をする際に時間の確認が必要になる場合があるらしく、あるのとないのでは仕事の幅も変わるという。

もし仕事自体に必要性がないとしても、生活において何かと便利なので用意して損はないらしい。


とはいえ…。

一応仕事をする前に値段を確認しておこうと思ったのだが、もし日本円と同じ感覚だとすると買うまでにそうとうな期間を要するかもしれない…。

いや違うな。

ここまでの道中にあった屋台の値段などから考えると、これが安い買い物ではないことは火を見るよりも明らかだった。




店内のガラスケースの商品を見ていると、店員と思しき綺麗でビシッとしたスーツの人に声をかけられた。

「いかがですか?うちの時計はいずれも職人による一点物で、品質も高くお値段も比較的お買い求めやすいものから取り扱っております。もし気になる商品がありましたらケースからお出ししてご覧になられますか?」

「あ、えと…い、いや。今日は見に来ただけなので…!」

そう言って俺はユカリを引いてそそくさと店を出た。

よく見ていなかったが、なんとなく店員から冷ややかな目線を送られたような気がした。


「どうして逃げるのよ。もうちょっとゆっくり見てたらよかったじゃない」

「…いやまぁ、なんか場違いな気がして」

「場違い…?そりゃ私たちはまだここにきたばかりのよそ者かもしれないけど…」

ユカリはいまいち意味がピンと来ていない様子だ。


「とりあえず、時計の値段は大体わかったし問題はないさ。それよりもやっぱ、早く仕事を探す必要があるな…」 

「仕事って……あの『冒険者』ってやつ?」

ユカリは思い出したように口に出す。

「まぁせっかく教えてもらったし見には行ってみるつもりだけど…」

「それなら早く行きましょ!」

「うわぁ!ちょっと落ち着けって!ていうかそっちじゃない!!!」


ユカリは急に元気になって、楽しそうに俺の手を引き走り出す。

ここ最近、時々見せるちょっと無邪気な彼女の姿は、意外にも不自然さは全く感じられず、むしろこの姿こそが彼女本来の性分なのかもしれないとさえ思えてくる。


そんな彼女と共に、俺はベルマーさんに教えられたとおりに『ナクア』という冒険者ギルドへと向かったのだった。



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