第5話逆さの世界

いつからだったか、世界は逆さになった。


地面は上に、空は下に。


私たちは地面に足が張り付き、ぶら下がったような状態で暮らしている。


この逆立ちの状態。


不思議なことに気分も悪くならず、普通に生活出来る。


しかし世界が逆なので慣れるまでは、しばらくの時間が必要だ。


手をどう動かして、足はどうすればいいか。


必死に動いて身体に染み込ませる。


どういう原理で、何故こうなったのかは分からない。


だが適応して生きていくしかない。


この世界で怖いのは死んだとき。


たとえば、ビルから飛び降り自殺した人がいたとしよう。


地面に叩きつけられ死んだ後、何故か死体は空に落ちていくのだ。


逆さの状態で張り付いていた世界から、解き放たれたようなそんな感じだ。


空に落ちた死体はどこに行くのか?


宇宙?


私は違うと思う。


もっと別の場所。


つまり天国、地獄どちらかに行くのではないか。


そんな気がするんだ。


人が死んでいるのだから、笑ってはいけない。


だけど、なんだが楽しいと思ってしまうのは私だけだろうか。


こうしているうちにまた一人、空へと落ちていった。

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