第46話 三百六十度開放型トイレ(ただの穴)

「あれだな、密閉された部屋で殿方と一夜を明かすというのはもう完全に婚前交渉だよな?」

「少なくとも二人きりではありませんしちゃんとした扉ではなく空気穴を開けて石材で塞いでますから密閉もされてませんし何らかの交渉もしておりませんので絶対に違います」


 朝っぱらから頬を赤らめたゴリラに絡まれる俺。

 今日も一日忙しいんだから早朝からモチベーションを下げに来るの止めてもらっていいですかね?

 でも最近ちょっとだけその引き締まった腹筋や太腿にムラムラと・・・いかん、このままでは情にほだされて間違いが起こるかもしれない。

 ちなみに『情にほだされる』と書いて『性欲に負ける』と読む。

 そして昨日の晩、と言うよりも街を出てから毎食毎食ふかしたじゃがいもと焼いたトウモロコシだけの食事にそこそこ飽きてきた。


 専用の竈を使ってないからリアちゃん家で食べてたのより美味しくないし何よりも心とお口が寂しい・・・シチューとかグラタンとか食っちゃった弊害だな。

 お乳(NOTおっぱい)を知らなければ寂しいとは思わず生きていけたのにっ!

 いや、食い物にはやたらとうるさい日本人にその理屈は無理があるな。

 焼くだけで脂のしたたる特上カルビが食いてぇなぁ・・・。

 てことでやりたいことは大量にあるんだけど初期状態に戻ったのでやれることはあんまりない現状。

 まずは木材の伐採・・・といいたいところだけど畑を作ることからはじめる。


 俺、食卓さへ豪華ならある程度の劣悪な生活環境も耐えられると思うんだ。

 まぁそんな広い畑は作らないんだけどね?

 だって横穴式住居は終の棲家ではないから。

 そもそも二週間くらいでほとんどの作物が実る・・・駄目だ、今はリアちゃんとの二人暮らしではなくよく食うのが二人も増えてる。

 この二人、今までのところ襲いかかってくる野生動物もいなかったから本当に御者さん以上の働きはしてないんだよなぁ。

 もちろん送って来てもらえただけで十分ありがたかったんだけどさ。だからもう帰ってもいいんだよ?


 てなわけで朝飯、茹でとうもろこしを軽く炙って塩をふりかけたモノを食い終わったら農作業に移る!間違いなくソレにつぶつぶのまじる食事である。

 女子三人がおれの倍くらい食うことはいまさらなのでおいておく。

 リアちゃん、ちっさいのに最近はよく食べるんだ。

 トイレ?あとで作るからどっかに穴でも掘ってしてくれ。

 腕まくり、裾まくりをして黙々と鍬を振るうその姿はどこから見ても熟練の百姓な俺。


「ふぅ・・・とりあえずこんなもんでいいかな?」

「ナターリエ、私は農作業というものを知らないのだがまったくの荒れ地を耕すとはこんな易易とこなせることなのか?」

「私も農作業などしたことはありませんが間違いなくこの男がおかしいだけだと思われます。そもそも表層を軽く掘り返しているだけなのに土の色や質が変わっているように見えますし、小石なども消えているように見えます」


 ナターリエ嬢、思ったよりも鋭い目を持っているようである。


 おおよそ三時間ほどかかってなんとか一反の畑を耕し終わる俺。

 一人で、それも重機も使わず鍬一本で一反(たん)も耕すってそこそこむちゃくちゃじゃね?広い畑は作らないとは一体・・・。

 うん?一反の広さがわからない?

 十畝(せ)だよ。ちなみに一畝は三十歩(ぷ)な!

 そして一歩は一坪、一坪は畳二枚分なので『一反=三百坪=六百畳』なのである。


 こうしてみると日本の土地の単位ってまったく意味がわかんねぇな、基本が畳ってどう言うことなんだよ・・・。

 さらに一反からとれる米の量は一石・・・今は四石くらいとれるらしいけど。

 もちろん一反、言い換えて『約千平方メートル』って言われたとしても何も伝わってこないんだけどさ。

 わかりやすいところで言うと『小学校のプール(25mプール)三つ分』くらいの広さだな。体育館二つ分でもオッケー。


 話が中学校の地理の授業みたいな方向にずれたけど今回植えたのはじゃがいもとトウモロコシだけじゃなく各種野菜が全体の六割くらい。薬草が三割で各種香辛料が一割くらいだ。

 綿花?大量に必要だしお家を建てて引っ越してからだな。


 休憩して少し早めの昼ごはん(トウモロコシパートⅡ)を食べたら横穴式住居の前、出入りの邪魔にならない場所を『備蓄ゾーン』に設定して木の伐採に向かう。

 この近辺、土地が肥えてるわけでもない、むしろかなり土が痩せてるので生えてるのはほっそい曲がりくねった魔王城の前に生えてるような枯れ木みたいな木なんだけどさ。


「ナターリエ、どうしてあんな細い、それもグニャっとした木を伐り倒してるのに真っ直ぐで太い木材が並んでるんだ?」

「わかるわけがないでしょう。あの男、やることなすこと非常識なのでそちらの少女の様に深く考えない方がよいかと思います」

「わたしだっていろいろと考えてますよ!?」


『曲がりくねった木』どころか『サボテン』を伐採しても普通の、それも乾燥まで完了した木材になるんだからこの程度のことで驚いていてはいけない。

 いつの間にかそこそこ仲良くなっている三人を横目に、ある程度の木材を集め終わったらお家を建てる・・・わけではなく生きてゆくのに絶対に必要な施設、そう、井戸掘りの開始である。

 もちろんかの有名な『上総掘り』をするわけじゃないからね?


 システム画面を開いて『衛生施設』の中から『原始的な井戸』を選ぶとマップ画面に水色で水脈が表示されるので色の濃い部分に井戸を建てれば完了である。


「よし。井戸の完成」

「ヒカル、いいか?井戸と言うのは木の枠で地面を囲んだだけでは駄目なんだぞ?そもそもそんな適当な場所に・・・おい、どうして木枠で囲んだだけの地面に深い穴があいているのだ!?その穴の回りも石材で補強されてるよな!?」


 何故と言われても「何故なんですかね?」としか返せないんだけどな!


「まぁそんなもんだと思ってください」

「そうですよ?男の人のやることに細かいことをグチグチ言う女はモテませんよ?」

「地面を囲っただけで井戸が出来るとか細かいことじゃないよな!?」

「お嬢様、便利になるのですからよいではありませんか」

「ナターリエ、考えるのを放棄するんじゃない!」


 まだこのあと『調理用の竈』と『穴を掘った上に穴のあいた椅子を置いただけのトイレ』と『畑の囲い』を作らないといけないんで大人しくしておいてもらいたいものである。


「いや、そのトイレ!回りから丸見えではないか!!」

「むしろまわりが見えないと怖くないです?」

「限度という物ががあるだろうが!」

「わたしもさすがにその性癖はどうかと思いますが。見たいんです?見せたいんです?」

「そういうこっちゃねぇよ!?」


 トイレから出たら野生動物とか忍者に囲まれてたりしたら怖いじゃん?

 しかたがないからお家の入り口から少し離れたところに横穴式トイレも建設(?)しておいた。

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