第43話 おっぱいとすっぱいが重なって・・・最強

 さて、新しい土地に辿り着いたんだから当然一番最初にすることは街の見物!!

 ・・・の、予定だったんだけどさ。

 そもそもこの街に俺たちが到着したのはギリギリ午前中。そこから小一時間かかって丘の上のお屋敷まで歩き、少し待たされてからご領主様とのご面談。

 それが終了後もさらに姫騎士様を待っていたので・・・時刻はそろそろ夕刻。

 ガラス製じゃなく木の板で閉じているだけの窓だからさ、外の時間とかまったくわからなかったんだよ!


 てことで初っ端から出鼻をくじかれた感満載の俺、街の散策とかまったく出来ず。

 まぁ明日一日余裕はあるし?大丈夫!だと思いたい。

 することがなくなっちゃったので今日泊めてもらうお部屋に案内してもらってから厨房を覗いても良いかお嬢様に確認をとる。


「おお、やはり何か作るのだな?」

「いえ、料理人の方に香辛料のお値段とか使い方とか質問に行くだけですけど」


 だからそんなにショボーンとした顔をしなくても・・・。

 石造りの重厚な廊下を進んだ先にあったのはもちろん石造りの重厚な厨房。

 どう見ても厨房ではなく独房なんだけどね?鉄格子がないからキッチンで合っているのだろう。

 中には厳ついおっさんの料理人・・・ではなく近所のおばちゃんみたいな女性が三名いた。地方の子爵様、本当にそんなにお金持ちではないらしい。


 時間的にまだ夕食まで余裕があるからだろうか、それほどバタバタとした感じでもなくのんびりと話しながら料理の下ごしらえをしていた。

 目に入った食材は・・・玉ねぎ、芋、ネギ、そして何かの肉。見た感じ芋は小さなじゃがいもではなく里芋系の芋かな?材料だけ見ると作れる料理は肉じゃがかカレー・・・ああ、人参が足りないな。ちなみに俺はカレーにじゃがいもは入れないんだけどね?だって粉っぽくなるじゃないですか?後乗せまたはコロッケにでもしてもらいたい。


 てかさ、野菜の近くに黄色い小さなラグビーボール型の物体、おそらく檸檬が転がってるんだけど?


「姫様、あの、あそこに転がっている物体はもしかして」

「うん?ああ、切っていないからわからなかったか?あれはレモンだぞ?一応はこの地方の特産品なのだがな、酒に浮かべたり茶に浮かべたり肉の添え物にしたりくらいにしか使えん果実だな」


 切ったものしか見分けがつかないとか俺は魚が切り身で泳いでると思い込んでる新妻か!

 あとレモンにそれ以上の活躍を求めるのは酷だと思うんだ。

 てかレモンとかあったんだ!?

 もちろん俺は普通に植えるリストにのってるんだけどな!


「えっと、そこの奥さん?ここにはお乳はありますかね?」

「はい?お、おちち・・・ですか?」


 そう、お乳、できれば牛乳、なければ羊乳か山羊乳でも可。


「そう、ですね、あると言えばありますしないと言えばないでしょうかねぇ?」

「何故そんな哲学的な感じの返答・・・そしてどうしてみんなで不審者を見るような目でこっちを見つめるてるのかな?」

「いや、いきなり乳はあるかなどと言われたら普通の女性ならそんな反応になって当然だろう?」


 何言ってんだこのゴリラ。

 俺はただおばさんとお乳の話を・・・おばさん・・・お乳・・・。


「いえいえいえいえ、誤解です、俺が求めているのはおっぱいじゃなくてお乳なんです!!」

「それこそ何を言っているんだお前は・・・アレだぞ?私だから良いようなものの普通の貴族令嬢に胸の話などしようものなら大問題になるのだぞ?」

「だから違うんだってば!お乳!バターを作る時・・・いやバターはナターリエ嬢が作ってたんだった!ほら!牛乳とか羊乳とは山羊乳とか」

「母乳とか?」


 おばさん、薄笑いでよけいなツッコミをいれてくるんじゃない!


「何度か作ったことがあるだけなんですけどね?お乳があればチーズが作れるんですよっ!」

「チーズ?・・・チーズとはあれだよな?父上が誰にも分け与えず一人で酒のつまみにしている黄色い臭いやつ。あれって値が張る上に作るのにそれなりの時間がかかるものなのだろう?母乳でそのようなものが出来るのか?」

「だいたいその認識であってますけどね?あと母乳から一度離れてもらえますかね?ああ、あとバターも欲しいのでナターリエ嬢を呼んでもらってもいいです?」


「お前は騎士をなんだと思って」

「姫様がシャカシャカしてくれても構わないんですよ?」

「そうだな!あれはナターリエの特技だものな!うむ、すぐに呼んでこよう!」


 ちなみにおれが作ろうとしているのはフレッシュチーズ。

 おっぱいを温めてすっぱいを混ぜて作られているアレである!

 作り方はそれなりに面倒くさくはあるけど簡単。

 牛乳を沸騰しないけど熱いくらいまで温めて(65℃くらい)レモン汁と適量のお塩をぶちこんだら分離するまで混ぜたあと一旦濾してから熱湯に入れて好きな固さまでねり続けるだけ。

 ちなみに素手でねると物凄く熱いから注意な!俺、危うく大やけどしかけたからな!

 最後に氷水に浸けるんだけど・・・井戸水でなんとかなると思いたい。


 あと、何の関係もないけど練乳から生キャラメルを作る方法、練乳の缶を延々と湯煎し続けるやつがあるじゃないですか?

 あれ、試してみたことがあるんだよ。

 どうなったと思う?最初に蓋を開けるのを忘れててさ、缶切りを挿した途端に高温の練乳が噴き上がって部屋の壁から天上から飛び散って大惨事だったよ!

 ・・・今はそんなことはどうでもいいんだけどさ。


 そうこうしてるあいだに生白い丸い塊が完成する。

 うん、見た目は昔作ったのと同じモッツァレラっぽい塊。

 端っこをちみっと切って口に入れてみると


「普通・・・物凄く普通・・・感動とかはしないけどモッツアレラっぽいチーズの完成だな」


 せ、専用キッチンで『イタリアン』を研究してから作ればもっと美味しくなる・・・はずっ!!

 いきなり呼び出されてブツブツ言いながらもバターを作ってくれたナターリア嬢から出来立てバターを受け取り、続いて作るのは茄子とじゃがいもの入ったホワイトソース。

 そう、今日はシチューではなくグラタンを作るのだ!


 茄子とじゃがいもは素揚げしたかったけどこのお屋敷にも大量の食用油などはなかったんだよなぁ。

 さらに残念なことにマカロニもショートパスタも無いのでグラタン(?)って感じなんだけどさ。

 フレッシュチーズでグラタンを作る時は上に乗せる他に細かくしてソースに混ぜ込むとトロットロになって美味しいんだよ?カロリーはもちろん上がるんだけど。


「あ、ナターリエ嬢はもう帰っても良いですよ?」

「腕をプルプルさせながら手伝った人間にその言い草、鬼か貴様は!?むろん食べていくにきまってるだろうが!!」


 ちなみにオーブン的なモノもなかったので表面に焦げ目をつけることも出来ず、かなりグダグダな感じのグラタンになっちゃったんだけど美味ければよかろうなのだ!

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