子爵領と荒れ地(強くてニューゲーム)
第39話 そもそもクッキーとビスケットと言うのは
さて、俺にとってはなんだかんだでこの世界に来て初めての大きな街である!
その第一印象はと言えば
「もっとこう石造りの立派な城壁に街全体が囲まれてる城塞都市みたいなのを想像してたんだけど」
「地方の子爵領にそんなものを築くほどの税収があるはず無いだろうが・・・」
「あと山?丘?にそって貴族様の館が建てられてるから地すべりが起きたら麓の街もろとも全滅しそう」
「縁起の悪いことを言うんじゃない!私の屋敷は西の中腹にあるのだからな!」
「いや、知らんけど」
ヨーロッパの都市だと勝手に思いこんでたけど見た目がすごく地味なんだよなぁ。白い壁!地中海!異国情緒!みたいなのが無いんだよ。
もっとアルベロベッロみたいな雰囲気が欲しかった。もちろん行ったことは無いんだけどね?アルベロベッロ。ただ言いたかっただけだし、アルベロベッロ。
例えるなら欧州の街じゃなく中東の地方都市って感じかな。荒れ地ってほどじゃないけど緑が豊富って感じでもない埃っぽいイメージの街だな。
そしてそこに暮らしてる人口もそれほど多くなさそう。全体が見渡せるわけじゃないからハッキリとはわからないけど低い方の数万人くらいか。まぁ言われた通り子爵領だもんね?こんなものなんだろう、たぶん。知らんけど。
もちろん人口数百人の農村とは比べ物にならない大都会なんだけどね?
だってさっきからリアちゃんが瞳をキラキラ輝かせてるもん。
何かの役にたってるのかたってないのか不明な道沿いのそれだけポツンと建っている門を全員でくぐる。
兵隊さんがアテンション(気をつけ)の状態で胸に腕を当ててたんだけどあれがこの国の『敬礼』なのだろうか?とくに偉いさんと会う予定とか無い・・・もしかしたら子爵様に会わないといけないかもしれないのか、土地の話とかあるし。面倒だけど最低限の挨拶の仕方とか教えてもらっておかないと恥をかくかも。
舗装されていない踏み固められただけの土の道をそのまま進む姫騎士様と俺御一行。
「姫様と騎士様はこれからご領主様にご報告ですよね?その間、むしろお支払いの決定まで俺たちはどこでどうしてればいいですかね?」
「うん?いや、普通にお前たちも一緒に連れて行こうと思っているのだが?服装にしても特に失礼な格好でも無いからな」
「いやいやいや、さすがに平民がいきなり貴族様のお屋敷に押しかけるとかおかしいでしょう・・・そもそも今日お目通りを願ったところでいつになるかわからないのでは?」
「ヒカルは妙なことに詳しいのだな?確かに王宮、国王陛下や上級貴族の方々にお会いするならちゃんと先触れを出してお伺いを立てなければならないがな?地方領主、それもその娘を介しての面会なのだ。待たされるとしても数十分、長くとも一刻くらいのものだ」
なるほど、思ったよりもフットワークが軽いのか子爵様。いや、本人が言うようにご令嬢を介してるからだろうけどさ。
何にしても面倒な話はとっとと終わらせられるのなら俺に否やは無いわけで。
てかお屋敷はやっぱりあの小高い丘のてっぺんなのかな?登っていくのにそこそこ疲れそうなんだけど・・・。
防衛の為もあるのだろう、そこそこ曲がりくねった街の道を抜けた後こちらも曲がりくねった丘の道を登りやっと到着したのは重厚な石造りの館。城ってほどの大きさはないけど道を塞いで他の貴族(騎士?)の屋敷を砦と城壁代わりに使えば攻めるのに結構な人手がかかりそうではある。
入り口をくぐり、騎士様と分かれて待合部屋の様なところに通されたけど
「普通に八畳間くらいの広さだな。特に高級な家具が置かれてるわけでなし、高そうな絨毯がひかれてるわけでなし」
「あなたは他所様のおうちにお呼ばれしたら貶さないと死ぬ病気なんですかね?」
やな病気だなそれ・・・。
だって初めての、それこそ日本で暮らしてた時は考えられなかった貴族様のお屋敷だよ?
もっとこうバッキンガムとかベルサイユとか皇居とかそう言うのを想像しちゃうじゃん!
リアちゃんとああだこうだとダラダラ過ごしていると扉を叩く音。
その後に入ってくるのはもちろん(?)メイドさん・・・と言うか使用人のおば・・・お姉さん。
お茶とお菓子らしきものを置いていってくれた。
「ふぅ・・・お茶は紅茶、いや、濃いから味は烏龍茶っぽいな」
「これ、この薄いのはもしかして焼き菓子ですかね!?」
「見た目はクッキーっぽいね?」
リアちゃんにクッキーとビスケットのウンチクを語ろうかと思ったけどアメリカとかイギリスの国名が出てくるので説明しきれないと気付いて諦めた。そもそもここ日本じゃないからまったく意味がわからない説明になっちゃうしさ。
いや、そもそもこの国でクッキーがクッキーと呼ばれてるかどうかすら不明なんだけどね?
一枚味見してみようかと思ったけどリアちゃんがリスの様に両手で大事そうに持ってちょびっとずつポリポリかじってるのを見てるだけでほんわかした気持ちになれたので全部進呈することにした。
もちろん出されただけの他所ん家のおやつなんだけどな!
「ふぅ・・・焼き菓子よりもおうちであなたが焼いてくれたトウモコロシの方がおいしいと思いました」
「お菓子と穀物を比べるのはおかしいけどね?あと粉も残さない勢いで完食してるじゃん・・・砂糖とバターが手に入ったら今度作ってあげるよ」
「あ、あなたはあんな未知の焼き菓子まで作れるのですか!?」
「未知なのは田舎で暮らしていたからで一般的には珍しいモノじゃないと思うよ?クッキーなら材料は難しいものじゃないし。てかお菓子作りって素材の量をキッチリ量ったりするから案外薬師さん向きの作業だと思うよ?」
「わたしはだいたい目分量ですけどねー」
「確かにそうだったけどそれはそれでどうなのかと・・・」
『五つ星シェフ』のMODで追加された『アフタヌーンティ』を研究すればお菓子やお茶っ葉はどうにかなるはず。さすがに大昔家庭科の授業で作った記憶だけではクッキーの再現はできないのだ。
そしてちょっと他人の家でじっとしてる行為に飽きてきた頃再度扉をノックする音。
「ヒカル、入るぞ!父上の用意が整ったので奥の間まで案内しよう」
はたして本当に案内なのかそれとも連行になるのか微妙なところなんだよなぁ。
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