第38話 少女をさらうのは王子様かそれとも魔法使いか

 さて、お引越しも決まったことだし――いや、そもそも本当に土地が貰えたり借りられたりするかどうかすらまだ決定事項じゃないんだけどね?

 その後の条件交渉、『賃貸料』とか『税金』とかの話で無理だと思ったら白紙状態でそのまま遠くにフェードアウトしなきゃいけないかもしれないしさ。

 そのへんのこともちゃんとリアちゃんに説明したんだけど「あなたはつぶしがききそうなので大丈夫じゃないですか?最悪捨てますし」と案外前向きな返事をもらえた。


 ・・・なんだろう、明石ちゃんに続いてまたもや『何かの際には捨てられるお兄さん』のポジション。二人とも照れ隠しだとはわかってるんだけどね?

 でもほら、そこは二人で助け合うとか睦み合うとかしようよ!

 もちろん娘にひもじい思いはさせないけどさ。いや、気の迷いでそんな気持ちになっただけでこの子は娘じゃねぇし。あと本当に照れ隠しだよね?信じてるからね?


 まぁ胡椒や唐辛子(一味)を小さな小瓶(木製)に詰めたのがそれなりの数あるし?使いきれなかった大蒜や生姜なんかも売れそうだし?お金に変えればしばらく食いつなぐくらい何の問題もないだろう。

 てか食いしん坊な姫騎士様がその他の野菜なんかも全部荷車に乗せて持っていくって言ってたしさ。


 荷車?むろんこの村の村長宅から徴収である。村人が子爵令嬢に大怪我させたんだから代金などはもちろん支払われない。と言うよりも村の代表なんだから下手すれば一家全員吊るされても不思議じゃないからな?

 図らずも村長一家の最悪(子爵令嬢の死亡)を回避してしまったのが腹立たしいと思える心の狭い俺なのである。


 ちなみにリアちゃんが居なくなることがわかってから村人がやたらと「行かないでくれ」「留まってくれ」「これから怪我や病気の時は誰が治療するのか」などと屋敷に懇願(恫喝?)に訪れていたけど俺もリアちゃんも知ったこっちゃないのでスルー。

 騎士様がいるから暴力に訴えたりも出来ないしさ。

 今だけは存分に称えておこう『権力者(ご領主様)バンザイ!』と。


 毎日村人から『恨みがましい(心地よい)』視線で見つめられながらも準備を整え、いよいよこの村から旅立ちの日。

 騎士様たちには「もう少しだけ・・・小さい頃から過ごした屋敷と別れを惜しみたいので村の出口で待っててください・・・」などとセンチメンタルな感じに伝えて先に行ってもらったあと。


「うー・・・お家をこのままあの人達に使われると思うと腸が煮えくりかえる、むしろ引き千切られる思いです!」

「そこまでなんだ!?・・・てか、もしもリアちゃんが本当に、二度とここに戻って来る気が」

「あ、それはまったくないので大丈夫ですー。あなただって色んな道具がそのままじゃないですか?機織り道具とか買ったらとんでもない値段になるんですよ?やはりこのまま火を放って」

「とりあえず燃やそうとするのは控えて?じゃあ・・・全部、何もかも無くなっちゃうけど良いんだね?」


「もちろん!思い出は過去から引き摺るモノじゃなく新しく築いてゆくモノなのです!」

「おっとこまえな少女だなー。・・・まぁ寂しくて泣きたくなったら俺の胸を」

「そう言うのはいらないでーす」

「せめて最後まで言わせて欲しいな?」


 てことで登場するのはもちろん『MOD』である。

 知識『7』しかないから取れるのは『7つ』なんだけど・・・どちらにせよ取っておきたかった機能だからいいや。

 てなわけで新たなMOD、『文明の崩壊』を追加。

 なんかこうどえらい危険臭のする名前のMODだけど『初期状態に状況をリセットする』だけのMODなんだよね。

 いや、『状況をリセット』ってそれはそれで物凄いチートな能力っぽいけど効果は『範囲指定した、自分の領地となっている拠点の建設物を全部まとめて取り壊す』ことが出来るだけで時を戻したりとかは出来ないんだけどね?うん、それだけでも十分にチートだった。


 俺とリアちゃんが見つめる前で大きな音をたてながら崩れ落ちてゆく建物。

 外壁の残骸で見えないけど畑に残っていた作物も全て枯れ果てているはず。

 隣に立つ少女の横顔を覗き見る俺。手も触れてないのに崩れだした建物に何事が起こったのかとビックリはしてるけど特に寂しそうな顔とかはしてないな。


「な、なんなんですこれ?あなた、やっぱり邪悪な魔法使いとか邪悪な竜の化身とか可愛い少女をさらいに来た邪悪な悪魔とかそんな感じの人でしょうか?」

「やっぱりってなんだよやっぱりって!どうしてすべてにおいて『邪悪』認定しちゃったんだよ!普通に魔法使いとか龍の化身とか悪魔でいいじゃんかよ!いや、ソレ邪悪じゃなくても全部退治されちゃうやつじゃん!俺は・・・まぁちょっと変わった力が使えるだけの普通の人間だよ?あとどうせさらうならもう少しこうおとなしい感じのおっぱいの大きい」

「なにか言いましたかね?」

「何でもありませんです、はい」


 そう、どうせ女の子をさらうなら『笑顔で鉈を構えない』女の子をさらうんだよなぁ・・・。

 さて、後片付けも終わったしとっとと騎士様の一団に合流して子爵様の治める領都とか言う街に向かうかな!



 てことでトリヒータヴィンデ子爵が治める領都に到着したのは村を出発してから8日後。

 山賊に襲われたり魔物に襲われたり?特になかったさ。未開の蛮地とか北○州市とかじゃないんだからさ。

 そもそもゴリ・・・騎士様が五人もいる集団に襲いかかってくる山賊とかそうそういないだろ。

 荷物も馬が牽引してる野菜を乗せた荷車だけだし、売れそうなものと言えばリアちゃんくらい?命をかけるにしては費用対効果が悪すぎる。

 そして街道沿いを昼間に移動するなら野生の魔物に出くわすとかはそうそうないらしい。やっぱり居ることは居るんだ?野生の魔物。

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