第36話 ブラッ○ジャック並みの治療費

「まぁ食べ物の話は置いといてですね、治療費、報酬の話なんですけど。姫様にはここ数日で刷り込み・・・説明させていただいてるんですけどこの村ではリアちゃん、薬師の扱いがとてつもなく悪いんですよ」

「ああ、聞いただけでも正当な代金を支払わず村人みなで圧力をかけて薬を安く買い叩くだけでなく、村長の息子が年若い娘を手籠にしようとするなどという狼藉、とても許せる話ではないからな!」

「あちらにはあちらの勝手な言い分があるでしょうし、今更こちらから何を言っても無駄でしょうけどね?それでですね、出来れば姫様に彼女の後見などしていただいて家屋敷に工房をいただければと」

「貴様、思った以上にふっかけてきたな!?」

「もちろん高いと思われるならそちらで納得の行く金額を置いていっていただければ結構ですけどね?例え銅貨一枚だとしても何も文句は言いませんよ?」


 こちらとしては(出せる範囲ではあるけど)価値をしめしたからね?

 お貴族様の命の値段を考えれば家屋敷の二軒や三軒安いくらいだと思うんだよ。

 そしてその程度がわからないなら笑顔で送り出した後そのままここからとんずら、少女と二人手に手を取って旅に出れば良い。モノの値打ちもわからない相手に二度と関わる必要など無いんだから。

 考え込むカロリーヌ嬢と頬をヒクつかせるナターリエ嬢。


「ふむ、報酬に関してはまったく問題は無い、むしろ命を救ってもらった対価としては安いくらいだと思うのだがな。さすがに私では壁の内においそれと屋敷を、それもこれだけの敷地を持つ屋敷となると用意できるとは言い切れなくてだな・・・。私が自由に出来る土地など領都から離れた荒れ地、他に人も住んでおらぬ様な山裾の広大な空き地しか無いし・・・」

「えっ?そんな好条件の土地があるんですか!?」


「えっ?」

「えっ?」


「いや、街から徒歩だと二日三日かかる赤い山の裾辺にある」

「領都から馬で十日くらいかかるこの僻地の村より交通の便の良い」

「草木の生え散らかした未開の荒れ地の様な他の住民すらおらぬ」

「自然に囲まれた隣近所を気にしなくてもいいのびのびとした」

「何もない土地だぞ?」

「開発に向いた土地ですよね?」


 えっ、そんな俺に都合の良すぎる自由にしても怒られなさそうな場所があるとかビックリなんだけど?


「いやいや、住む家すら無いんだぞ?」

「自分で建てるから大丈夫ですよ?」

「ヒカルは薬師・・・ではなくイシャなのだろう?街から離れすぎていてよほど金を積まないと職人すら集まらない場所だぞ?」

「いえ、治療が出来るってだけで医者ではないんですけどね?あと他人とか邪魔にしかならないので要らないです、近くで伐採が出来るなら家の一軒二軒くらい問題なく一人で建てられますんで」


「いやいやいや」

「いやいやいやいや」


『何言ってんだこいつ・・・』顔のカロリーヌ嬢と『本人がそれで納得しているのですからそれで良いではないですか!』顔のナターリエ嬢。

 てかナターリエ嬢の俺に対する扱いが酷すぎじゃないかな?

 何なの?仲良しのお姫様を取られるとか思ってるの?

 絶対にそんな未来は訪れないから何の心配も無いからね?そう、絶対にだ!

 だいたいあれだぞ?二人が一緒にベッドに入ってる姿。俺的には『百合』じゃなくて『薔薇』にしか見えないからな?

 俺も大概ナターリエ嬢の扱いが酷いのでどっこいどっこいである。


 約束の地を見つけたからにはあとは細かい条件をまとめていくだけ。

 とは言ってもさすがにこの一帯のご領主、子爵様に相談無くご令嬢が相続(?)している土地を借り受けたりなどは出来ないのでもう少しこちらに滞在してもらって体力を完全に回復してから騎士様たちと一緒に領都に向かうことになった。



 ~話し合いの後、外で野菜の収穫をしている俺とそれを隣で見つめるリアちゃんの会話~


「まさか怪我を治しただけで土地を要求するなんて思ってもいませんでした・・・」

「治しただけって言うけどあの怪我なら普通は助からないからね?そして騎士様たち、思ったよりいい拾い物だった。最初は追い出せば良かったと後悔しかなかったけど」

「あなたの物言いが酷すぎてさすがのわたしもドン引きです。まぁ・・・そうですね、とっととここから出ていけるのならわたしは何の文句もないですけど最低限ここと同じだけの居住環境と職場環境、あとは毎日のシチューとたまの変わったごはんを要求します!」

「何の文句も無いはずなのにそこそこの図々しい請求をして来やがったぞこの子」


「お引っ越し、騎士様が荷物とか運んでくれますかね?出来れば家財道具とか一切合財持って行きたいんですけど、それこそこのお家ごと」

「・・・そうだよね、俺はここで暮らしてふた月くらいだけどリアちゃんは長年住んでいた大切な家、薬師の先生との想い出の品々だもんね。出来るだけは持っていってあげたいけどさすがに全部は」

「いえ、思い入れとか特に無いんですけどね?あなたの立て直した外塀以外はただの古いお家ですから。荷物にしてもお金さえあれば全部買い替えたいくらいですし?でもほら、ここに残していって誰かに盗られたり使われたりしたら悔しいじゃないですか?」


 思い入れ無いんだ・・・いや、この子、素直じゃないから強がってるだけで絶対にそんなことは無いと思うんだけどさ。

 でもサバサバした現代っ子的な部分もあるから否定をしきれないのがなんともかんとも。


「こうなれば出て行く時に火を放つしかないですよね」

「たぶんて言うか絶対に騎士様に怒られる、むしろ捕まるから止めようね?」


 本当に燃やし尽くしたいくらいに置いておきたくないなら俺がどうにかするけどさ。

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