第35話 筋トレ(バター作り)

 さて、あれから数日が経過。

 治療を施した姫騎士様はそれからどうなったかというと・・・


「ヒカル!この芋料理はうまいな!」

「ヒカル!このスープはうまいな!」

「ヒカル!す、少し体が・・・な?気持ち悪いので・・・ぬ、濡れ手ぬぐいで、背中やお腹など・・・拭ってはもらえないか?」


 普通に生きてる。と言うか妙に懐かれている。なんだろうコレ?

 ディス○バリーチャンネルのアニマルプ○ネットでゴリラの飼育してるお姉さんの気持ちがちょっとだけ理解できそうな俺。

 そう、見た目とのギャップも相まって懐かれると可愛く思えてしまうのだ!

 あ、もちろんペットに対する感情なんだよ?

 子爵令嬢に感じる感情がペットに向けるソレ、もしバレたらさらし首待ったなしである。


 てか治療が成功したのは最初からわかってたんだけどね?システムメニューからゴリ・・・カロリーヌ嬢のステータスを確認したら出血は『96%』で止まってたし『右腹部治療効率13%』って出てたもん。

 やっぱり俺が医療行為をおこなうとスターワールド基準、つまり死んでなければどうとでもなるらしい。

 そして出血量がマジでギリギリだった!もう十分くらい治療の判断が遅かったら死んでたんじゃないかな?

 一番心配していた『感染症』も今のところ発生していないのでこのままどうにか動けるまで回復して頂きたいものである。


 ああ、もちろんおうちが狭くなるから女騎士様、ナターリエ嬢(名乗りをあげてた騎士様)以外の三人は村長宅にまわしておいた。そのさい治療報酬の先払いとして『大量に飲み食いして夜は酔って暴れて欲しい』と依頼しておいたんだけど頑張ってくれてるかな?飲んで暴れるのはいつものこと?それは騎士としてどうなんだ?

 驚いたのは女騎士様、姫騎士様も含めて五人全員が十代と言う事実。三国志で例えるなら『馬騰』みたいな人がいたんだけど・・・。

 毎日何を食ってたらリアちゃんと体格差がそれほど出るのだろうか?


 ここ数日の俺の仕事はと言えばカロリーヌ嬢の食事の面倒とその後の治療。

 傷口チェックと薬の塗り込み以外の時間はとくに拘束されるわけでもないので暇を見つけては残り少ない野生の薬草採種と製薬作業、趣味の棍棒量産と調理である。

 うん、拘束されてないはずなのにほぼフルタイムで働かされてるな俺。

『黄色いスープ』なんてモノを食べてたからお気づきかも知れないがじゃがいもとトウモロコシ以外の食材、村で飼育されてる山羊の乳や俺がまだ植えていない人参などの野菜、騎士様が非常食として持ち歩いていた干し肉や小麦粉などなどが手に入ったので作れる料理の幅がグッと!でもないけど増えたのだ!


 何が嬉しいって山羊乳が毎日それなりの量(この村で生産されている量の半分程度を騎士様が徴収してくる)確保出来るのでバターが作れるようになった、そして乳、バター、小麦粉で『ホワイトソース』が作れる様になったのだ!そしてここにはトウモロコシもある!

『コーンクリームシチュー』大好きー!子供か。

 ちなみにバターは筒状になった入れ物に入れた山羊乳をナターリエ嬢が毎日筋肉を乳酸でパンパンにしながら振り回して作っている。

 筋トレのあとはバターの副産物であるホエイも取れるし一石二鳥だね!


 初日はそのあまりの過酷さに腕をプルプルさせながら鬼の形相で睨まれたんだけどね?じゃがバターとバターコーンをそっと差し出したら翌日からは取り憑かれたように筒をシェイクしてた。人間『乳製品の旨さ』には勝てないのだ!

 後はチーズ、チーズさえあれば・・・そして普通に新鮮な肉が欲しい。

 ドライエージングとか言うわけのわからない腐りかけの肉などくそくらえである。



 失血死まで残り4%だったカロリーヌ嬢の血液量も完全回復したし自分で食事も出来る様になり後は薬を塗り続けるだけで大丈夫だろうと言うところまで回復したのは彼女がここに運ばれてからおおよそ半月経った頃。


「あれだけの、死んでいても、むしろ生きているのが不思議だった大怪我がわずか半月でここまで回復するとは・・・」

「それだけではなく広範囲に潰れて破れた傷の傷跡がこの様に綺麗に治るなどありえないかと・・・」


 包帯とかは無いので切り分けた騎士様のサーコート、もちろん毎回洗濯したあと煮沸までして干していたモノを傷口から取り除いて治療の経過を見せる。


「外傷的にはほぼ完治していると言って問題ないですね。あとは栄養のあるものをとりながら無理せずもう半月ほどのんびりと寝ていれば普通の生活に戻れると思いますので治療費払って帰って?」

「貴様、帰れとは何事か帰れとは!あれだぞ?私が居なくなったらバターが作れなくなるのだぞ!」

「それは困ります!わたし、シチューがない生活なんてもう耐えられそうにありません!あなたが初めてこの家に来た時に口にしたことがいまさらながら理解できました、今までわたしが食べていたモノなんてただの草だったのだと」

「シチュー・・・確かにあれは別格に美味いものな。特に上に香ばしい生地を被せたポットパイ、あれなどは貴族の晩餐に出しても何の問題もないぞ?」


 いや、お貴族様の晩餐会で飯を作る様な予定は無いけどね?そして全員が全員食いしん坊さんか。


 そして畑。

 科学肥料はあげていない(今のところ材料が無い)し土壌改良もしていない(こちらも材料が無い)のでそのまま、植えっぱなしで育ててたんだけど半月も有ればほとんどの農作物は収穫可能な大きさまで成長するわけで。

 大量の木綿ゲットだぜっ!まぁ加工しちゃうとお布団だと2組分、衣類なら(物にもよるけど)十着分くらいしか縫えないんだけどさ。そして大切な遠距離攻撃手段、弓の生産もあるしね?


 薬草もこちらで自生してるのとは形が違うけどちゃんと収穫できたし香辛料、胡椒や唐辛子、大蒜に生姜も立派に実った。てかこのへんの香辛料のお値段、果たしてどんなものなんだろうか?お安くは無いと思うんだけど。

 ん?騎士様に農作物の成長の速さとか香辛料が作れることとかバレたら騒ぎになる?

 普通のお貴族様は畑になんて何の興味も持ってないし挽いてない、料理に使ってない胡椒の実なんて見てもそれが何なのか気付くはずもないのだ。

 もちろん注意深い人はオカシイと思うだろうけどね?

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