第30話 『一緒においしゃさんの真似事をする』ことを『おいしゃさんごっこ』とは言わない

 喧嘩腰で村長を追い返したからと言っていきなり村人が揃って家に焼き討ちに来るみたいな『バイオ○ザードの農村』的展開になることなどはもちろんなく。


「思った以上に何の変化もねぇな」

「あの人たちのせいで最初から村八分みたいなものでしたからね。あなたの畑のお陰でそんな人達に頭を下げて食べ物をわけてもらう必要もなくなりましたし?本当の意味で誰も来なくなったので快適に生活出来るようになりました」

「十七歳にしては達観しすぎじゃないかな?そしてそこは『あなたがいてくれるから寂しくなんてないもの』って言ってほしかったかな?感情とか抑揚のない喋り方ならなおベスト」

「あなたがいなくても寂しくなんてないもの?」

「スキあらば追い出そうとするの止めて?」


 チッ、トウモロコシとじゃがいもだけでは胃袋を掴みきれていないと言うことか……。


「てかさ、最近は採集の為にそこそこ足を伸ばしてるんだよね。近辺の薬草はほとんどとり尽くしちゃったみたいなんだけどどうすればいいと思う?」

「そりゃ毎日毎日何往復もしてればそうなるでしょうね。半月ほどしか経ってないのにあなた一人でわたしが採集する半年分くらいあつめてますもん」

「えっ?そうなの!?それ大丈夫なの?薬草ってひと月ふた月で元気に生えてくるもんじゃないよね?」

「何を当たり前のことを。一度採っちゃえば来年まで待たないと無理に決まってるじゃないですか」


 マジかよ、ゲームなら気温がマイナスにならない限りずっと毟っては生え毟っては生えを繰り返すんだけど?


「そっかー……えっと、今更ながら素朴な疑問なんだけどさ、どうしてわざわざ移動時間かけて自生してる薬草の採種なんてしてるの?最初から近場で栽培すればよくね?」

「あなた何を言ってるんですか……薬草の栽培なんてそう簡単に出来るはずないじゃないですか。お師匠様の話だと『帝国薬草園』以外の場所で栽培に成功したところなんて皆無らしいですよ?薬草園自体がなんかこうアレな空間なので生えてるだけらしいですし」

「そうなの?じゃあ下手に植えたりしないほうがいいかな?てか何なのそのアレな空間って」


「……えっ?」

「……えっ?」


「えっと、もしかしてあなた……いえ、そうですよね、あれだけ非常識な畑を耕す人ですもんね?薬草くらいチョチョイのチョイですよね」

「そこまで簡単でもないんだけどね?」


 なぜなら『薬草学』の研究をしないといけないから。

 いや、薬草学を取ったとしてもそれで育てられる薬草と今採集してる薬草が同じものだとは限らないんだけどね?さらに薬草学を研究するには『農業』が『2』と『医療』が『2』必要だと言う。

 俺、医療は『0』なんだけど……。


 もちろん上げる方法はあるんだよ?誰かの怪我の手当をするとか看病をするとか『薬』を作るとか。

 当然だけど薬を作るには『薬草学』が必要なんだけどな!

 このへん『研究』のシステムが簡略化された弊害かもしれないな。

 でもこれからのことを考えれば医療スキルは絶対に必要なんだよなぁ。

 だってリアちゃんが怪我したり病気になったりしたら治療が出来ないもん。


 んー……医療、薬草、薬作り……。


「いやいやいや、出来るんじゃね?だってここ薬師さんだもん。普通に教えてもらえばいいじゃん!」

「あなたはちょくちょく自分の中で結果を出してその結論だけを口にしますよね」

「てことでお薬作りのご指導ご鞭撻よろしくおねがいしますリアちゃん先生!」

「ですから結果ではなく過程の説明をしてくださいってば!」


 あっ、はい、そうですね。

 リアちゃんにお薬作りを覚えたい理由を事細かに説明する。


「つまりわたしと一緒においしゃさんの真似事をしたいと?」

「まとめるとその通りなんだけどね?何なんだろうかこの人聞きの悪さは」


 とても世間体が悪いので『十七歳の女の子とお医者さんごっこをしたがってるおじさん』みたいな扱いは止めてもらえないかな?


「ところでその『おいしゃさん』というのは何なんです?」

「あ、そこから説明が必要なんだ」


 塗り薬だけで擦り傷切り傷が回復できる世界だもんね?回復魔法なんてものもあるみたいだしさ。専門のお医者さんなんて必要ないんだろうなぁ。

 まぁこの国、この世界でのお医者さん立ち位置を俺が気にする必要など全く無いので今出来ること、リアちゃんに教えてもらいながら製薬技術を伸ばすことだけに専念する。そして大きな失敗は三度程度でやっと塗り薬が完成!

 うん、完成はしてんだけどね?


「同じ薬草を使ってるのにあなたとわたしで完成品が全くの別物ってどう言うことなんでしょうかねぇ?」

「いや、ドラッグDTの俺に聞かれましても……」


 たぶん俺とリアちゃんでスキルの系統が違うからだとは思うんだけどさ。


 付きっきりで引きこもって三日かかって教えてもらってなんとか『医療』スキルは『2』まで上がった。

 スキル経験値が上がったんだからその軟膏はたぶん効くんだよね?

 動物実験とかしてからでないと自分では使いたく無い感じの色合いなんだけど?怪我してる村人とか居ねぇかなぁ。

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