第28話 言いたいことは言える世の中じゃなきゃ……ポーション

「それで自称おじさんとおばさんはわたしに何かご用なんですかね?見ていただいて分かる通り新婚ですし他人に構っている暇なんてないんですけど?」

「お前……さっきから聞いていれば目上の人間に対してなんだその言い草は!これまで誰がお前を育ててやったと思ってるんだ!」

「誰?もちろん薬師のお師匠様ですがなにか?えっ?もしかして自称おじさん、わたしのことを育ててやったとか思ってるんですか?何ですそれ、物凄い思い込みと言いがかり過ぎてさすがのわたしも笑ってしまいそうなんですけど?旦那様もそう思いますよね?」


 いや、これまでのリアちゃんと自称親戚連中との経緯とかさっきまでは全然知らないからね?まだ俺の心のなかで整理が出来てないしいきなり振られてもなんとも答えられないから!

 それでも言えることなんて『あなたは年上の人間であっても目上の人間には見えませんが?』ってくらいしかないしさ。

 少なくとも女の子、他人を怒鳴りつけてマウントを取ろうとするような奴は人間じゃなく猿としか認識してないからなぁ。


 まぁ何にしてもこれまで心を閉ざしてたリアちゃんが俺のことを少しは頼れる人間だと認識してくれたんだから――くれたんだよね?大丈夫だよね?――お父さんとしてもちょっとくらいはその期待に答えないといけない。

 いや、違うから!なんとなくいきなり扶養しなければいけない慈しむべき家族みたいな気持ちになっちゃってるけどリアちゃんと俺にそこまでの年齢差は無いから!


「それで繰り返しになりますがご家族三人?で来宅されたのは何かご用がおありなんですかね?もしかして俺の嫁に何かしようとでも?ああ、話し合いでなく殴り合いがお望みならそちらでお答えさせていただきますが腕力しか取り柄の無さそうなお宅の息子さんがあんな感じでしたし年寄りに暴力を振るうのもちょっとだけ明朝の寝覚めが悪くなりそうなんでご遠慮いただきたいんですがね?」

「あ、あなたもお父さんもそう喧嘩腰にならずに、まったく男連中は気が短くて嫌ねぇ。ええ、もちろん用があって来たのよ?じゃなきゃこんな山の上までわざわざ来るもんですか」


 だったら最初からその話をしろよ。あとこちらから呼んでない奴に限ってやたらと来たことに対して恩着せがましくするのは何なのだろうか?


「あなたは知らないかもしれないけれど私たちは親切でこの子が作った、たいして効きもしない薬を街まで持っていってその上で苦労をして売ってあげてるのよ。この子がご飯を食べられる、いえ、あなたもこの子の世話になってるならあなたもご飯を食べられるのは私達がそうした気づかいをしてあげてるからなのよ?それをこの子は何を勘違いしたのか勝手に大きくなったみたいな物言い」

「話がなげぇ……リアちゃん、この叔母さん?お婆さん?の話を纏めると?」

「そうですね『先々週から薬を卸してないので黙って寄越せ』ですかね?」

「私は親切で来たくもない道をわざわざあなたの為に来てあげてるのに何なのその言いぐさは!」


 なるほど。

 リアちゃんにお世話になり始めてすぐの頃に『買取額が五分の一になった』って言ったたもんなぁ。


「つまりリアちゃんの師匠さんが生きてた頃はまともな額で引き取ってた薬だけどその人が亡くなってリアちゃんの代になったから調子に乗って買い叩いて稼いでたのにいきなり持ち込んで来なくなったから慌てて様子を見に来た、どうせ女の一人暮らしだしあわよくばそのままリアちゃんを掻っ攫っておバカの嫁にしてしまえばその買い叩くお金も必要なくなるって感じかな?」

「正解です!」

「な、何を馬鹿なことを言ってるんだ!俺たちはただ姪っ子に妙な虫が付いたから心配で様子を見に来たやっただけだ!だいたいそいつの金を当てにしてるのはお前だろうが!!」

「図星を指されただけで顔を真っ赤にする様な人間は三流にもなれないんだよなぁ。妙な虫はお宅の息子だとリアちゃん本人が言ってるだろ?ちゃんと聞こえてる?そもそもあれだぞ?日常茶飯事勃発するレスバトルで鍛えに鍛えられた日本のネット戦士に田舎の爺如きが口で勝てると思うなよっ!」

「何となくカッコいい事言ってる風に聞こえるのにそうでもない気がします」


 そもそもかっこいい事は言ってないから仕方ないね?


「というわけで以降は一切そちらにご迷惑をおかけする事はありませんのでお引取りを。リアちゃん、俺の国ではこういういけ好かない相手が来た時は帰り際に塩をまくんだけどこの辺ではどうなの?」

「お塩は高いので蒔かないでください。あとわたしも全く同じ事を言おうとしてましたけど家主の意見を聞く前に勝手な行動をしないでください。……でも、ありがとうございます」


 いつもとはちがい柔らかい笑顔をこちらに向けてくれるリアちゃん。うん、年相応の女の子って感じのいい笑顔だ。

 追い返された爺婆?玄関先で負け惜しみを散々喚き散らかしてたけど俺とリアちゃんが棍棒と鉈の素振りを始めたら小走りで逃げ帰っていったとさ。


「てか普通にこの村の村長夫婦に喧嘩売っちゃったけど大丈夫なのアレ?」

「もちろん!今まで散々我慢してましたからね?あなたのおかげで清々しましたよ。それに」


 そこで悪戯っぽい表情を浮かべたリアちゃんが俺の瞳をじっと見つめて


「あなたがここを出る時はわたしも連れて行ってくれるって約束しましたからね?」


 ここでそんな女の顔をするのはズルいんじゃないだろうか?

 つい今しがた『これから頑張ってこの子の面倒を見ていかないといけないな』って誓った所なのに無駄にドキドキしちゃうでしょうが!

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