第22話 お花売りの少女
何となく異世界田舎村の澱(おり)の部分と言うか闇を感じながらの食事、せっかく若い子との晩ごはんだって言うのにちょっと微妙な空気になってるのが非常に遺憾であるが空気を変える話題も特に無く。外交『5』、もっと働いて?
そもそも室内の明かりが薄ぼんやり揺れる臭い蠟燭だけなので一度雰囲気が落ち込むとお通夜状態になっちゃうのは仕方がないのだ。
てか蠟燭って小さい頃に読んだ昔話か何かの影響で結構長い間魚から作るモノだと思いこんでたけど和蝋燭って普通に植物性なんだよね。
あと『蠟燭=お寺と仏壇』なイメージが強いからちょっとした明かりの揺らぎに気味が悪い印象を持ったり持たなかったり。
「てか蠟燭もリアちゃんが作ってたりするの?何となく山繋がりで」
「蠟燭と山の繋がりがわたしにはよくわかりませんが。蠟燭は村長のところで買ってますよ?と言うよりほとんどのモノは村長がこの村の南にある街から仕入れてくるのでそこから買いますけど」
「そうなんだ?てかリアちゃんも薬を卸すのに街には行くんじゃないの?」
「街までは結構遠いんですよ。途中で一度野宿して翌日の昼過ぎになんとか到着って感じなので。そんな過酷な旅に可愛い女の子が一人で旅立てばどんな目にあいますか……ねぇ?」
例えば襲いかかってきた盗賊が鉈の錆になったりするんですかね?
「てことは薬はその村長が街に持っていって売ってる感じなんだ?」
「そうですね、お師匠様が生きてた頃から村長のところで買い取ってもらってますよ?最近はあまり売れないらしく師匠が生きてた頃の五分の一くらいの値段にしかなりませんけどね。それなのに居候が一人増えそうな件についてあなたはどう思われます?」
「生活の向上の為、これからも精一杯頑張らせて頂く所存であります!いや、それは置いといてさすがにそこまでの急激な値下げはおかしくない?お薬なんて消耗品だし消費期限もあるだろうし、いきなり売れなくなる物だとも思えないんだけど」
「そんな事言われてもわたしは知りませんよ。村長の家がいつの間にか改修されていたりだとか飼っている鶏の数が増えていたりだとかしてますけどわたしには関係のない話らしいですしね?」
ああ、リアちゃんもオカシイとは思ってたのか。てか流石にそれは露骨すぎじゃね?
「まぁ別にその程度ならどうでも良かったんですけどね?数をこなせばいいだけの話だったので。最近はそこの次男の嫁にとか言う巫山戯た話が出てましてねぇ。ちなみにその次男、村の鼻つまみ者なんですけどね?か弱いわたしに三度ほど襲いかかろうとしましたので目に入れば涙が出て吸い込めば三日はくしゃみが止まらなくなる粉をかけてやったり軽く皮膚が溶ける液体を投げつけてやったり近くにあった棒で叩き回してやったりしましたけど」
「知らない人間が見たらどっちが被害者なのかわからねぇなそれ……」
「ええ、その通りだったらしく今では立派な村八分ですが何か?」
「なんかごめんね?」
そんな目に遭ってれば初対面の俺にあの塩対応になるのは仕方ないことかもしれないな。いや、見つけたすぐ、俺が崖から落ちてきたすぐは素の状態だったからか心配してくれたし心根は優しい子だとは思うんだけどさ。
そんな状況だったのによく未だに泊めてくれてると思うもん。
「そこまでされてるならこの村には愛着もないんだろう?いっその事街に出るとかしたほうが良くない?」
「わたしもお師匠様が無くなった時にソレは考えましたよ。でも何の伝手も無いか弱可愛い女の子が一人で街に出たりしたらそれこそどんな目に遭うかわかったものじゃないじゃないですか。あなたはわたしに路地に立ってお花でも売れと?」
「可愛いは認めるけど『か弱い』要素が見つからないんだよなぁ……」
ちなみに『路地に立ってお花を売る』と言うのは言葉の通り花を売るのではなく体を……うん、非常によろしくないな。
ちなみにソースは『マッチ売りの少女』の薄い本である。どこ需要を見込んだ作品なんだそれ。気になって買っちゃう俺みたいなやつ?なるほど。
「な、なんですかあなたは、いきなりわたしが可愛いとか愛らしいとか大好きとか言い出すなんて!とても、とても不謹慎だと思います!」
「全然可愛い以外は一言も言ってないんだけどね?」
「はぁ……どこかから白馬に乗った王子様が迎えに来てくれたりしないですかねぇ?崖から転がり落ちてきたおじさんが居候するんじゃなくて」
「一応二十代なんでそこは『おじさん』じゃなく『お兄さん』に認識を改めたりしてもらえたりしないかな?」
リアちゃん、一人暮らしが長いからなのかストレスマックスだからなのか近所のおばさんの愚痴を聞いてるみたいになっちゃってるんだけど。
昨日みたいに警戒心バリバリでとっとと自室に行かれるよりは態度も幾分かマシになったと思えなくもないんだけどね。
でもお酒は飲ませちゃ駄目なタイプの匂いがプンプンとしてるな。間違いなく絡んできそうなんだもん。
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