第18話 固まった血液のようなどす黒い赤

 今日まで無能だったのにいきなり大ハマリしていたゲームの世界に(一人だけ)飛び込めた俺、トラックの荷台でテンションマックスである!

 てなわけで、スキルの次は出来ることの確認だ。


 ゲームだとメイン画面には『ドン!』と近隣の詳細地図、右上に広域地図が映るんだけどそれは現実でも変わらないらしく、ドローンとかヘリで空撮したような頭上から見た付近の景色が地形や建造物などなどをデフォルメして表示されている。

 自分が見ていない範囲は黒塗り(未踏破領域)になっているのでそこまで万能では無いのが玉に瑕。

 そのマップを少しスクロールさせて校庭の方に移動させると……大量の人、人、人。


 そしてその人、と言うか『ちょっとリアルにした人生○ームの棒(コマ?)』の上に表示されるのはその人物の名前。

 もしもゲームと同じならこの名前の色が『青』なら仲間、『白』なら中立、『赤』なら敵対なんだけど……当然のように表示中のほとんどの人は白。だって俺、学生さんとそれほど接触してないからね?


 まず探したのは仲間の色、『青』の人が一人と『限りなく白に近いうっすらとした水色』の人が一人。仲間、少なすぎじゃね?

 青はもちろん明石ちゃんで水色は漣さん……ではなくキラキラ皇子こと工藤君だった。

 あれー……漣さん、日本に居た頃から結構仲良しさんだと思ってたのにな?こうして視覚的に『貴方のことなんて特になんとも思ってませんけど何か?』って宣言されるとちょっと凹むな……。


 そして工藤君はなんだかんだで主人公キャラだからな。たぶんよほどのことがない限り他の人には友好的な態度なんだろう。もちろん俺には真似は出来ないししようとも思わないけどさ。

 こんなどことも知れない所で善人なんて絶対に長生き出来ないと思うもん。

 てか明石ちゃん、本当にいい子だなぁ……あと五歳俺が若ければ間違いなくストーカーになってるレベル。そこは付け回すんじゃなくて告白する方向にシフトしろ俺。


 反対に敵対者の色である『赤』。

 生徒会長は予想通り、と言うか予想以上の赤。固まった血液のようなどす黒い赤である。おそらくだけどこの赤は俺に向けられているものじゃなく他の大多数の人間、この世界全体に向けられているのでは無いだろうか?

 何なの?生徒会長は一度倒されて怨みつらみが固まって出来た魔王かなんかなの?

 他にも生徒会メンバーや一部教師と生徒にも赤や薄ピンク色の人間がいるんだけど……薄ピンクは反感を買っている程度の反応なのでそれほど気にする必要はない。


 予想外だったのは副会長さんが真っ白なところかな?美人だし初対面からかなり警戒してたんだけど、どうやら生徒会長に毒されてる訳ではないらしい。

 てことはあの自ら先頭に立った行動は裏があってのモノじゃなく、普通に他の学生たちを心配してのものだったのか?工藤君に続いてこちらも早死にしそうで心配である。


 さて、他にも出来ることは色々と、むしろ必死になって頑張れば大抵のことはこなせるようになったわけだが……トラックの荷台ではこうしてマップを開いて眺めるくらいしか出来ることは無く。

 とりあえず余計な行動を起こしたら生徒会長が殺しに来そうだしさ。絶対に近くに寄るのは止めておこうと再度心に誓ったからね?

 こうなってくると明石ちゃんたちと一緒に街に出られなかったのが痛いな、そのままここからおさらばするチャンスだったのに。

 まぁ明石ちゃんが戻ってきてからでも問題は無いだろう。



「てことでお兄さん、私は先行隊として街まで行ってきますね。可愛い姪っ子が居なくなって寂しいとは思いますけど我慢していい子で待っててくださいね?お土産は……買うお金がなさそうですけど土産話くらいは期待しててください」

「ああ、いってらっしゃい。明石ちゃんが無事に帰って来てくれたらそれ以外は何も望まないから気をつけてね?ハンカチとティッシュと財布は持った?ペットボトルのお水が無くなっても生水は飲んじゃ駄目だからね?ちゃんと煮沸消毒してからだよ?あとそのへんに生ってる木のみとか果物とか」

「そのいきなり始まったおかんムーブは何なんでしょうか……むしろ心配なのは戦闘力のないお兄さんの方なんですけどね?」


 翌日、明石ちゃん&キラキラーズを見送る俺。


「あ、あと……君が帰ってきたら……二人にとって大切な話があるんだ。だから、だから絶対に帰ってきてくれよな!」

「えっ、いえ、いきなりそんなこと公衆の面前で言われたらても困るんですけど……あと死亡フラグが立ちそうな発言は縁起が悪いので止めてください!」


 大切な話?もちろん俺の能力(スターワールド)の話である。

 俺の小芝居に付き合ってくれたのか少し口を尖らせ顔を赤くしながら俺の脇腹にパンチを入れてくる彼女。可愛くレバーにダメージを与えてくる女子高生ってどうなの?てかむっちゃ痛いんだけど!?

 その場にガックリと膝をつき屈み込む俺。慌てて治癒魔法を唱えてくれる……おっぱいの人。

 探索班の人たちって狩りで色々倒してるからレベルが上がってるじゃないですか?

 それに伴い攻撃力も上がってるって事に自覚を持ってくれないかな?



 そんな再会を楽しみにしてる雰囲気全開で明石ちゃんを見送っておきながら彼女がここに帰ってきた時には俺は居なかったんだけどさ。

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