第13話 もしかして恋?

 壇上に上がったのはそれほど目立たない、どちらかと言えば線が細くて人前に出るのは苦手そうな少年。なのに声を発したとたんに惹きつけられるような、目を離せなくなるようなこの力は一体……見続けるのは絶対にヤバい奴だよなアレ?でも俯いたり目を閉じたりしてたら目立つし……どうにかして他に意識を集中しないとっ!

 てわけで近くにいる副会長さんに視線、そして全神経を集中する。決して最初からずっと熱視線を送ってたわけじゃないからね?てか思ったより生徒会長の吸引力と言うか誘引力が強いな!?

 駄目だ、このままだと生徒会長に意識を持っていかれそうだ……仕方ない、ここに閉じ込められてから最大の禁忌事項ではあるが……脳内で副会長さんを脱がすしか無いかっ!!


 壇上では何処かの国のアジテーターの様な演説が続く。

(ああ……副会長さん……そんな、そんな際どい下着を着てたんですね……)

 現状の危険性、団結の必要性、そして生徒会による主導の正しさ。

(ええっ!?いえ、初めてではないです。でも貴女とこうなれると知っていれば……)

 力のある人間は力のない人間を守り、そして導いてゆく事の必要性……『起てよ学生!』

(はい……もうすでに起って……)


 はっ!?いけない、このままだと下半身が目立ってしまうっ!後ろで組んでいた手をそっと前に回す俺。

 という所でそこかしこから拍手がおこり、満足げな生徒会長が壇上から降りていく。

 チッ、あいつのせいで危なく色々な物(社会的な信用とか)を失ってしまうところだった!!

 とりあえず俺も満面の笑みで拍手に加わっておいた。

 ふぅ……何とか意識は保てたようだな。



「それで、さっきの生徒会長の演説どう思いました?やたらと熱い視線で見つめてましたけど……洗脳とかされてませんよね?一応精神安定の魔法とかかけときます?」

「ごめん、実は生徒会長の話とか全然聞いてなかったんだけど。むしろ何の話ししてたのか教えて?」

「いや、それはそれで本当に何してたんですか!?」


 もちろん『精神の均衡を保つために副会長さんでエッチな妄想してましたが何か?』……なんて答えられるはずもなく。

「何となく雰囲気がヤバそうだったので他の所に気をちらしてました」って答えたら「へぇ……思ったよりも悪意に敏感なんですね?」ってちょっと見直した様な顔で言われたので俺の妄想の中の副会長にも『あなたのここ……思ったよりも敏感なのね?』って言われたのを思い出して悶えそうになりました。


「えっと、いきなりくねくねと気持ちの悪い動きで踊るのは止めてもらえます?私もそちら側の人間だと思われたくはないので」


 ……どうやら悶えそうになったんじゃなくて悶てたらしいです。

 そんな感じで明石ちゃんからの信頼度とか好感度が少し下がってしまった気がしないでもない今日此の頃、彼女から聞いた話によると


 ・スキルや能力によって探索班、作製班、雑用班に班分けをする。

 ・探索班は食料になりそうな動植物や素材になりそうな鉱物を探す。

 ・作製班は高炉及び鍛冶施設の建設を目指す。

 ・雑用班は建材として木材の伐採及び学園外周の塹壕掘りと外壁の強化を行う。


 と言うことだったらしい。


「うん、その話を聞いただけでツッコミどころ満載なんだけど?」

「私もそう思いますけどね?不思議と生徒会長の話を聞いてる時は何の疑問も持たなかったんですよね」


 だって高炉を造るって『たまたま』大量の耐熱煉瓦とかコンクリとかがあったわけだし、採集作業をするにも大量の斧とか鎌を仕入れてあるってことだよね?そんな普通学科の進学校って有り得る?いや、無い。

 てか明石さんはあの生徒会長の何かしらの催眠術的な能力から抜け出せてるみたいだけどそのままの状態の生徒さんもいそうだし数回、数十回と重ねがけされたら俺だってどこまで耐えられるものなのかもわからないし。


「……お兄さん、今『一人でとっとと逃げ出そう』とか考えてませんでした?」

「そんなことないよ?……て言うかさ、そもそもこの学校に知り合いとかいないし特に俺が一人で逃げても問題なくない?」

「酷い……私との事は遊びだったんですねっ!?」


「他の人に聞こえるようにそこだけわざと声量を上げて不穏な発言をするのは止めたまへ。異世界じゃなかったら普通におまわりさん案件だからね?いや、一緒に来てくれるなら来てくれるで物凄く嬉しいし心強いんだけどさ、いいの?女子高生が知らない兄ちゃんと一緒に行動しても」

「大丈夫ですよ?だってほら、こういうときって『何の能力も持ってない冴えないおじさんが実は最強!!』ってパターンが多いじゃないですか?それにお兄さんならいざとなったら捨てても心が痛まなさそうですし」

「そんなお約束知らねぇよ……。えっ何、この子、いきなり俺の傷口に塩を塗り込み始めたんだけど?あとおじさん言うな」


 そしてそこそこ高確率で捨てられるのか……女子高生に捨てられるとか……それはそれで心にグッと来る何かがあるな!何だろうこの気持ち・・・もしかして恋?それともM(マゾ)?



 翌日からは生徒会長の宣言通り、各班に分かれての行動となった。

 俺はもちろん雑用班、それも役に立ちそうな『剛力』とか、そのものズバリの『伐採』スキルを持った学生さんたちと一緒に樵仕事と言う。

 確かに見た目は筋肉とかありそうだもんね?でも見た目ほどの体力は無いからね?

 てか切り倒した木材はどうやって運ぶんだろう?大勢でかつぐのだろうか?太さ的に見ても『丸太は持ったか!』で済む重さじゃ無さそうなんだけどなぁ。

 そんな俺含む男子チームと違って女の子は草刈りとか草むしりとかお花摘みとかなんだ?お花摘み、お手洗いの方の意味じゃないよね?護衛についていかなくても大丈夫かな?


「お兄さんはちょくちょく……頻繁に気持ち悪い顔で女子を見つめてますよね……」

「今日も明石ちゃんの毒舌は絶好調だなぁ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る