第11話 不自然な自然
てか『私疲れたから端っこで座ってますねー』的な?空気を出しながら目立たないように自然な感じで集団から離れて他人に声が聞こえない場所まで移動したよこの子。
何その俺レベルのスニーキング技術。ただの素人とも言う。
「それで、お兄さんは私になにかご用、と言うよりも何か気付いたことがありそうですよね?」
「お、おう、察しのいい子、特に女の子は大好きだよ?……まぁ冗談はこれくらいにして。今運動場に集まってる生徒の中に一年生らしき姿が無いんだけど、どうしてかわかるかな?」
「学校の人でも無いのに生徒の数が少ないとかよく気が付きましたね?私も詳しくは知らないですけど、朝から体育館で学年集会、いえ、映画の上映会だったかな?一学年全員が集まって体育館に移動してましたので何かあったのは確かなはず……いえ、仮に学年集会があったとして、もしそのまま消えた――いなくなったんだとしたら、お昼まで誰も気づかないとかおかしくないですか?職員室に一学年全クラスの先生方も戻ってないはずですよね?」
「俺、ただの納入業者だから教職員の行動とか思考まではわかんないけど言われてみれば確かにそうだな。映画の上映会?だとしても長くて二時間くらいで終わりそうなものだからなぁ」
「お兄さん……て呼びづらいですね、お名前は何ていうんですか?私は明石です」
「全然良いと思うけどね?むしろ嬉しいくらいだけどね?お兄さん呼び。俺は水玄。水玄光」
「えっ?ミナモトヒカル?光源氏的な?親御さん、なかなか思い切った賭けに出ましたね?」
「おい、いきなり両親の悪口はやめろ。いや、ただの俺の悪口か?そして光源氏ネタは昔から自己紹介の度にさんざん擦り尽くされてるからな?てか源氏のミナモトじゃなくて、みずと玄室のげんでミナモトだからな?光源氏要素は皆無だからな?なんでやねん、もしかすると皆無ではないかもしれないだろうが!」
ちなみに俺はちゃんと名前まで名乗ったけど明石ちゃんは名字だけで名前は教えてくれないと言う。俺と明石ちゃんの心の距離感がすごい。
「何にしても景色が変化した外の世界。俺が最後に車で街からここに入ったのは午前十一時頃だったからそれ以降に何かがあったんだろうな」
「そりゃ何もなかったらこんな状況には陥ってないでしょうけれども!」
「あれだ、もし良かったらこれからも気付いたこととか質問しても迷惑じゃないかな?」
「大丈夫ですよ?足にしがみつかれるのは顔の脂とかが付きそうなので嫌ですけど」
えっ?俺ってそんな脂ギッシュなイメージなの?ギリギリ加齢臭はまだないと思いたい。
何にしても表立った諜報活動などは行わない、特に『生徒会』が非常に胡散臭げなのでお互いに最大限の注意を払うという事で話がまとまった。
あと隣に腰をおろしていた明石ちゃんからはシャンプーの物凄くいい匂いがしました。
力いっぱい深呼吸してぇなぁ!すでにお気づきかもしれないが俺、結構な匂いフェチなのだ。彼女無し以上にその情報は必要だったのだろうか?
明石ちゃんと離れた後もその場――運動場で残る俺。何故か?もちろん情報収集(盗み聞き)を続けるためである。
他人にバレないコツは『ちょっとオドオドとした感じに振る舞う』である。
うん、共に不審者という意味では相手を警戒させること風のごとくだな。
そんな俺とは関係なく、順調に進んでいくステータス報告の生徒の列。ほとんど終了したので俺も戻る……いや、どこに戻れば良いんだ?教室?学食?トラックの荷台?
「あの、先程の……確かミナモトさんとおっしゃいましたよね?」
「はい!27歳彼女無しの水玄で大丈夫です!どうしました?靴磨きとかしましょうか?」
「いえ、そのようなことは一切求めてないのですが。先程お車の運転が出来るとおっしゃってましたよね?少し学校周りの確認をしておきたいのでくるっと一周回って頂きたいのですが」
「イエスユアハイネス?一周でも十周でも喜んで!」
「どうして疑問形なのでしょうか……あと私は殿下ではないですし一周だけで結構ですよ」
と言うことで突発イベント『副会長さんとドライブデート』が発生である!何でもアピールしておくものだな!
大喜びでトラックまで案内して助手席に座ってもらい、裏門の鉄扉をガラガラと開いて校舎外周を一回り。
「特に変わったところなどは無さそう……いや、そもそもこんな森の中に学校があること、その上明らかに学校の周りだけ人工的に均したように木も草もなく車で走れるのがおかしいですけど」
「確かに……と言うかミナモトさんって普通に話せるのですね?」
「一体俺は何だと思われていたんでしょうか?いや、周りに学生さんがいらっしゃったのでね?おじさんが妙に暗い雰囲気とか出してそれが伝染してもいけないでしょう?」
「なるほど、そこまでお考えだったのですか……さすが年上の男性、これから頼りに」
「それで、副会長さんのお名前、スリーサイズ、彼氏の有無などは伺ってもよろしいでしょうか?」
「前言撤回させていただきますね?」
などと会話も弾ませながら楽しく一周する。外周、出来るだけ辺りが確認できるようにと速度を落とし気味で回ったんだけど、木に囲まれた山の中である事以外にこれと言って目ぼしい発見は無かった。
「何かこう、動物なんかが迷いでてきても不思議じゃない空間なのに一切見かけませんでしたね」
「確かに。まぁ何事も無く幸いでした。ありがとうございます、また何かの際にはご協力お願いいたしますね?」
「喜んで、美しい方」
「そう言うところが無ければ頼りになりそうに見えますのに……」
むっちゃ残念そうなお顔を頂きました。
助手席から降りて丁寧にこちらにお辞儀をしたあと去っていく副会長さん。名字すら教えてもらえず。ちょっと警戒心が高すぎではないだろうか?もしかしたらこの学校、授業で知らない男には名前を教えちゃいけないって教育してるとか?
……まぁ、警戒心が高いのはお互い様なんだけどね?
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