一章 お仕事中だった配達のお兄さん(おっさん言うな)

第5話 異世界はアハ体験とともに

 そう、ことの始まりは5月の中頃、県内でも有数の進学校である『桜鈴馬(おうりんば)学園』に食材の搬入をしていた時の事だった。

 ちなみにこの『桜鈴馬学園』、地元学生の間ではその進学率の高さと通っている学生の顔面偏差値の高さから『おうりんば→おうりんうま→おうりんホース→オリンポス』などとダジャレで呼ばれてたりしたりしなかったり。一昔前なら最後にラジ○ンダリーと付けていたところである。


 まぁそんな俺、『水玄光(ミナモト・ヒカル)27歳彼女なし』にとっては取引先と言う以外は何の関係もない学校なのだが……今回に限ってやたらと食材の搬入量が多い。特に米、小麦粉などのクソ重たい主食関連や塩、砂糖、香辛料などの普段ならそれほどの量が必要無さそうなモノまで大量に注文が入っていた。

 そして俺に彼女が居ないのは特に何の関係もないのにどうして伝えた。


 この荷物量……これはもうアレだよね?完全に籠城戦とか始めるつもりだよね?


 てか普通、進学校だったら始まるのは恋愛モノじゃないの?どうしてヤンキーバトルとか生徒会の野望とかが始まる感じなの?ゲーム化とかされるの?

 もちろんそんな感じのゲームを作るとしたらメーカーは絶対にア○スソフト。完全にエロゲーである。

 業者側としては納品した分の代金さえ支払ってもらえればどうでもいいんだけどな!

 惜しむらくは俺が休みの日で他人(おやじ)が納品を済ませる感じならなお良かった。いや、間違いなく休みの日でも俺が運ばされただろうけどさ。

 大量の米&小麦粉の30キロ袋の積み下ろしとかマジ腰いわすわっ!


 てことで朝から店舗と学校の裏手にある学食の倉庫に荷物を運ぶ事4トントラックで数十往復。

 完全に発注ミスで数字の桁を一桁間違えてると思って電話で聞き返したら間違えてなかった不思議。支払いもちゃんと先払いだったし。俺、この作業が終わったら彼女に会いに行くんだ!うん?彼女なんていないんじゃないのか?ふふっ、知らないのか?お金さえ払えば綺麗なお姉ちゃんが隣りに座って一緒にお酒飲んでくれるんだぞ?少なくともそれ、彼女ではないよな……。


 ああ、もちろん今日一日で往復してるわけじゃないからね?……いや、それでもさすがにこの量の搬入はおかしすぎないだろうか?

 今日も今日とて三往復目くらいでむっちゃ飽きてきたけどぐっと我慢である。

 だって進学校だよ?ほら、可愛い女子高生もいる……いや、昼飯時以外に学食に来るような奴はほぼ皆無なんだけどさ。

 そして最終便、本日のではなく今回の納入のラスト、五往復目には俺の鍛え抜かれた足腰もさすがに悲鳴を上げだす。


 その疲れ、そしてやっと終わりそうと言う開放感から


「はぁ、ゾンビとかテロリストとか襲ってこねぇかなぁ」


 などと埒もない事をボソッと口走ってしまったのは仕方がないことではないだろうか?

 だって学校だよ?

『学園モノ=ゾンビ(オカルト物の定番)』、『学園モノ=テロリスト(薄い本の定番)』を期待してしまうのは男の性だと思うんだ。

 だからそこのたまたま学食の自販機に紙パック飲料(明○のブリ○ク、ヨーグルト味)を買いに来ていた文学少女系女子高生、『うわぁ……このおじさん……気持ち悪っ!○ねばいいのに、むしろ○ね!』みたいな目で見るのは勘弁してください。


 あれだぞ?俺、まだ27歳なんだからな?自称お兄さんで通る年齢なんだからな?おっさん言うな!(多大な被害妄想)

 そして少し離れたところで女の子を五人ほど侍らせてキャッキャウフフしてるクソイケメン、全員一度に○ませて退学になればいいのに。いや、それはそれで羨ましくて俺が血涙を流しそうだから止めてくださいお願いします。


 ……くそう……俺だって……俺だって……女子高生とイチャイチャしたい……。


「うううっ……」


 そちら(イケメン)を睨みつけ目から心の汗を流す俺のことを先程の文学少女が道端に放置されたままの犬のう○こを見るような瞳で見つめていた。

 あれ?君はどっかに行ったんじゃないのかな?ああ、自販機に忘れたお釣りを取りに戻ったと。

 ちょっとお願いがあるんですが、どうか、どうか担任の先生に『何か業者の人が気持ち悪いんです』とか告げ口するのだけは勘弁して貰えないかな?

 納入を止められるとお兄さんがお父さんとお母さんに怒られるんです!


 あっ、ほら、お小遣い、お小遣いあげるからね?

 いや、落ち着け俺、学園内で女子高生にお金を渡すとかもうそれ言い逃れの出来ない『困ってるなら助けますよ的なアレ』になっちゃうから!犯罪だから!

 そして財布の中には数千円しか入ってないという。もちろん数万円ならどうにかなったとか思ってないからね?


 さすがにこれ以上遊んでると今後の取り引き停止的な意味で危険な気がしてきたので急いで残りの荷物を食材倉庫に積み上げていく。うん、疲れた、マジ疲れた。後は数量の確認してもらって帰るだ……け……。


 いやいや、いやいやいや。

 森?森林?むしろ密林?

 むっちゃ校舎が深い森に囲まれてるんだけど!?


 この学校ってNR県の県庁所在地からほど近い某駅から徒歩で三分くらいの場所にあるはずなんだよ。だから必然的に校舎を囲む塀やフェンスの向こうは背の低いビル群と住宅街だった。

 なのにそれがいつの間にかボヤーっと変化して樹海のど真ん中って何事なの?アハ体験なら全員一致で異常に気付くレベルの変化なんだけど?


 マジかよ……なんだよこれ……。

 とりあえず俺の精神状態だとか脳内状態だとかがオカシクなってる可能性も微妙なレベルで、むしろそうじゃないと説明が付かない状況なので他の人、学食のおばさん……ではなくいつも検品の時などにお話してくれるお姉さん、『さざなみ』さんに声をかける。


 さざなみさん、漢字で書くと『漣』さん・・・初見で読めるかどうかギリギリのライン攻めてきたな!って感じの漢字である。ダジャレではないので念のため。

 だってパッと見ただけだと『滝』と『連』がつらなってるんだよ?これはもう『たきれん○ろう』と言っても過言では無いのではないだろうか?意味がわからない?せやな。あと『たろう』どこから連れてきた。

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