第4話 目指せ!少女のヒモ男!

 そしていつの間にか二度寝して翌日の朝。不味い、非常に不味い。

 だって、俺の状況が、昨日の夜と何も変わっていないんだもの。

 夜明けと共に追い出されなかっただけ少女は有情だと思いました。

 あれだ、硬い板敷きのベッドの上で寝たと言ってもここしばらくはトラックの荷台、それも扉を閉めれば真っ暗な密室での寝泊まりだったから普通のお家の個室、ちゃんと干されている毛布付きの寝床だったので体調はそれほど悪くはない。

 まぁ風呂に浸かってないのはこっちの世界に来てからずっとだから仕方がないけど歯磨きをしていないので少し気持ち悪い。てか歯ブラシがないんだよなぁ……。


 あ、ケガの方は昨日もらった軟膏でほとんど治ってるみたいだ。

 初めて使うけどすげぇな異世界軟膏、メンソーレとは訳が違うな。軟膏じゃなく沖縄の挨拶になっちゃってるけど気にしてはいけない。

 まぁそれでも俺は三度寝の体制に入るんだけどね?だって起きてるのがバレたらお家から追い出されそうなんだもん。俺は、この家でっ、粘れるだけ粘るのだっ!そう、自然薯みたいにっ!


 そんな俺の計略(?)に気づいたのかその後直ぐに家主に起こされたんだけどさ。


「あなた、居候のくせしてずいぶんのんびりとしたお目覚めですね?わたしが若い頃はニワトリが起きるよりも、小鳥さんが囀るよりも、フクロウが寝るよりも早く起き出して働いたものですが」

「リアちゃんって俺よりも結構年下だよね?てか小さい子が早寝早起きなのはただの生活習慣じゃないかな?」

「わたしはすでに妙齢の女性ですけどね?見た通りピチピチ十七歳のお姉さんです。まぁ良いです、今日も忙しいのでとっとと準備をしてください」


 あ、リアちゃんて十七歳だったんだ?俺のおっぱい予想では12歳だったんだけど。……本人に言うと追い出されそうなのでもちろん心の中に閉まっておく。

 寝る前にも使わせてもらった井戸で頭に水をかぶって顔を洗い、出してくれた手ぬぐいで軽く体を拭ったあと、リビング――昨晩質素な夕食を頂いた部屋の昨日と同じ席に座る。

 テーブルの上には既に朝ごはんが並び、お向かいにはもちろんリアちゃんが腰掛けている。ちゃんと俺のことを待っててくれたとか、昨日より少しは心を開いてくれたのではないだろうか?


「もうこれは新婚さんと言っても良いのではないだろうか?」

「寝言は稼ぎが出来てから言いやがれです」


 まぁ既に自己紹介は済んでるのに未だに名前では呼んでもらえない距離感なんだけどさ。

 これはアレかな?怪我をした野生動物を保護してやったけど情が移らない様に名前は付けない感じのやつ?いかん、もう少し可哀想な子と認識して貰わないと近日中に野に放たれちゃう!

 ちなみに朝ごはんも当然の如く色味がとても地味である。


 てか目の前には『焦げ茶色をした液体の入ったどんぶり』がひとつだけなんだけどさ。

 匙でその液体をすくってみると中には米の様なつぶつぶしたものが……。

 これ、モザイクとかかけなくても大丈夫なやつだよね!?

 直視したらSAN値が削られる系のヤツじゃないよね!?


 植物性タンパクだよね?動物性タンパク(つまりは何某かの幼虫)じゃないよね?

 大丈夫、たぶん大丈夫、食感は味噌汁ご飯的な感じだったし、素材にプチプチした感じも無いし。噛んでないけど!

 でもコレがナニかを質問するのは止めておこうと思いました。


「さて、世の中にはこんなことわざがあります。『食べさせてやったんだから働け』」

「たぶんだけどそれはことわざではなくただの命令だと思うんだ。いや、もちろん頑張って働かせていただきますが」


 よし!仕事を振られたと言う事はどうやら直ぐに追い出される心配はなくな……ってはいないけど少し減ったみたいだな!



 と言う訳で朝ごはんの後はリアちゃんと二人で川に洗濯と山に芝刈り……ではなく、薬効の有る草花及び食事用の山菜採りである。

 てか昨日は陽がほとんど落ちてた上に満身創痍だったから辺りを確認する余裕もなかったんだけど、リアちゃんのお家は山の中にある一軒家というわけじゃなく村外れに建つ一軒家らしい。

 ポツンとしてることに変わりはないんだけどね?なので朝になると近くの畑で野良仕事の為に家から出てくるおっちゃんおばちゃんも居るわけで。


「おー、俺、むっちゃ怪訝そうな顔で見られてるな」

「まぁ見たこともない変わった格好をした余所者が、村外れの胡散臭い薬師見習いと一緒にいたらそんな顔にもなるでしょう」


 黒いジャンパーとか見方によれば邪教の司祭っぽく見えなくもないかもしれないしな。いや、特にフードが付いてるわけでもないしそんなに怪しくはないだろ?

 服装、建物、使ってる農具なんかを遠目で見ても中世的と言うか江戸時代な感じの田舎だし?フレンドリーさのかけらもない視線を向けられてもしかたないっちゃしかたない。

 いや、それ考えるとリアちゃんの装備品、鎌にせよ鉈にせよちゃんとした鉄製だよな?やはり薬師=お金持ちなのだろうか?



 お家から道なりに、村の中心部から反対方向に歩くこと一時間、そこから山の中に入り獣道を歩くことさらに一時間。

 これ、田舎のじいさんが犬とか猫とか山の中に捨てに行く感じのやつじゃないよね?俺、捨てられないよね?ちょっとドキドキしてきたゾ。

 てかお家を出発する時に渡された収穫物を入れるために背負ってる空の籠が山歩きには思ったより邪魔になるんだよなぁ。


「はぁ、はぁ、はぁはぁ(まだ歩くの?)はぁ、はぁはぁはぁ(俺、リアちゃんが思ってる倍くらい体力がないんだけど?都会の人間なんで)」

「何言ってるのかわかんない上にハァハァされてると生理的に気持ち悪いんですけど?あといくらなんでも体が弱すぎじゃないですかね……」


 だって俺、スニーカーじゃなく革靴なんだよ?それも通称スリッポンって言われる脱ぎ履きしやすいやつ。だから平地は平気だけど上り坂とか下り坂だと中敷き敷いてても靴の中で足が滑るんだよ。つまり非常に歩きにくいのだ。


「なんて言うかもう全く期待は出来ませんけどせめて邪魔だけはしないでくださいね?」

「あっ、はい、なんかすみません、とりあえずお詫びにリアちゃんの足の指とか舐めといたほうがいい……怖いので無表情で鎌をこちらに向けるのは止めて?」


 大丈夫だから!俺、やれば出来る子だから!

 現地に付いたら俺のターンだから!草刈りだけは大得意だから!

 てことで、山の中腹にある開けた広場の様な場所に到着。

 よく研がれた草刈り鎌を片手に採集に励むこと……半時間。


「えっと、意味がわからないんですけど……あなた、もしかしたら『草刈り神』とかそんな感じの人なんです?」

「いえ、ごくごく普通の社会人さんだったはず?」


 俺の籠の中はすでに山の幸と薬草の類で満杯になっている。当然分別も完璧だからな!もちろんこんなに早く採集出来ることには理由があるんだけどさ。


「まぁ何にしてもこっちの籠と交換して引き続き頑張ってください。わたしはあなたの籠の中身を懇切丁寧に確認しますので」

「そこは素直に俺の頑張りを信じて褒めてくれても良いんじゃないかな?」


 まぁ見た感じ背中の籠にポイポイと収穫物を放り込んでただけだから仕方ないけどさ。


 さて、ここで少し……でも無いな、俺がこの世界に来る前まで戻る。

 うん、そこそこ昔、って言ってもひと月も遡らないんだけどさ。

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