第3話 これはワーム(みみず)ですか?

 クスシ?

 何?数十年前のオタクっぽい変な笑い声?

 クスシ、クスシ、クスシ……あ、薬師さんかな?家の中に充満する青臭い臭いから鑑みて。

 なるほど、ご家族が薬屋さんなのか。

 てかそれならそれなりに裕福そう佇まいをしたお家なのも納得……出来るような出来ないような。


 イメージ的にボッタクってそうじゃん。薬屋。ソースは時代劇。あと独り言が多そうな感じ。もちろん事件解決も出来る。高性能すぎだろ薬師。

 てか薬師って高麗人参とか葛根湯とか龍○散とか高値で売ってるんだよね?俺の中ではちょくちょく仕○人に殺されてる悪役のイメージしかないんだけど。

 でも夕方過ぎてる、むしろ屋内は真っ暗なのに明かりがついてる様子もないし料理をしてるような匂いも音もないし何よりも人の気配がない。


「もしかしたらリアちゃんって一人暮らっっ!?」

「ええ、お師匠さまが亡くなられてからは一人暮らしなんですよー。でも不埒な事を考えちゃ ダ メ だ ぞ っ ★」


 心配しなくても薄暗い家の中で薄ら笑いを浮かべながら人様の首元に鉈を突きつける女に欲情も愛情も抱かねぇよっ!!

 てか「へぇ君って一人暮らししてるんだ?」程度の軽い会話のキャッチボールで生命の危険を感じないといけないとか異世界どうなってんだよ!ホント勘弁してください。

 俺、今日だけで、、むしろこの子と出会ってからだけでも何度か死ぬような体験してるんだからね?


「とりあえずごはんの用意をしてきますのでそこのテーブルの前に腰掛けててください、いいですか?勝手にお家の中を物色したりしないでくださいね?ああ、もしかしてですけどあなたもご飯がいる感じなんですかね?」

「わ、わかりました、全力で椅子にしがみつかせていただきます。あとごはんももちろん頂きます!」


 いただけるものは是非ともいただきたい。だって朝食べたきりで水も飲まずに動き回ってたんだもん。

 仕方なくお家の中に入れて貰ったは良いものの、不信感満載の待遇で待たされること……小一時間。

 てかそこそこ小さな怪我とかいっぱいだからお薬とか欲しいな?ここ、薬屋さんだよね?

 そんな俺の何かを期待した視線など全く意にもかえさず、目の前の机の上に並ぶのは……これ、ごはんで合ってるんだよね?

 木で出来た短い二股のフォークとスプーンを使い、出してもらった温かい食事に口を付ける。


「おお?見た目はちょっと、かなりアレだけど普通に美味いな」

「あなたは何かしら文句を言わないと褒められない捻くれた心の持ち主なんですかね?」


 だってさ、食卓に並んでる色味が『深緑』と『焦茶色』なんだもの。何この田舎を体現したかの様な色合い。

 アレだよ?もしこれを米軍の捕虜とかに食べさせたら戦後に『虐待された、沼のようなものを食べさせられた』って言いがかりつけられて裁判にかけられるよ?

 お腹が空いてて可哀想だからと親切でゴボウを食べさせてあげた田舎の人みたいに!唐辛子の効いた甘辛いキンピラ食いてぇなぁ。


 いや、まぁ色味はいいんだよ。

 俺も日本人だから季節の山菜とかたまには……天ぷら以外ではほとんど食ったことねぇな、うん。

 好んで食べようとも思わないし、煮物とかもあんまり好きじゃないし。

 高野豆腐の卵とじなんかは好きなんだけどね?


 山菜、母方の実家のばぁちゃんが何かと理由をつけて食わそうとするけどさ、あんなもの極論ただのその辺に生えてる草だからな?

 わらびとかゼンマイとか見た目も食感も味も好きになれない。

 なんだよあいつら、サイズが小さくなっただけでただのジュラ紀じゃねぇかよ。

 で、話は戻ってここん家で提供された料理(晩ごはん)なんだけどさ。


 ペースト状の焦茶色の液体にひたった深緑のヌルヌルしてそうなうどんっぽいもの。

 ナニコレ、煮込んだ蔦?もしかしてミ○ズ?動物性たんぱく質は大好きだけどソレ系はちょっと……キツイです。

 ちなみにお味はほうれん草のパスタの煮込みうどんみたいな感じでした。どんな食い物だそれは。

 見た目に反して普通に美味いのが逆にモヤっとするわ。


「それで、あなたが山から転げ落ちて来た理由とか聞いてもいい感じですかね?」


 質素な食事の後、ハーブティ、否、何かの草の煮出した汁を頂きながら向かい合って座り、まったりしてるリアちゃんからそんな一言。


「おお、聞いちゃう?ちょっと、いや、そこそこ長くなりそうだけどそれ聞いちゃう感じ?」

「いえ、長くなるならいらないでーす。ではわたしは明日の朝も早いのでおやすみなさい?」

「それほど興味がないのはわかるけれどそこは聞こうよ!……あれ?本当に必要ない感じなの?いや、まぁ別にいいんだけどさ」


「んーーーんっ!」と声をあげ、背伸びをしながら薄い胸をはり、席から立ち上がるリアちゃん。

 食べ終わった食器を片付け、中庭にある井戸からタライに水を汲んで顔と汚れた手足を洗った後脱いだTシャツで体を拭う。もちろん最後に濯いで絞って干す。冷たい井戸水が傷に染みるぜっ!


 俺、これでもそこそこ筋トレ(肉体労働)してるから年齢相応には引き締まった体してるんだからね?……特定のお店以外で見せることはまったくないんだけどさ。

 特定のお店?もちろんお風呂屋さんである。あれだぞ?普通の銭湯だからね?お店とお姉さんに別々に料金を払うお風呂じゃないからね?

 そのお風呂では何故だか分からないが従業員のお姉さんと入浴時間中だけ恋に落ちる魔法がかかっているらしい。


 その後はリアちゃんに案内してもらった空き部屋と言う名の物置でズボンも脱いで半裸で眠りに落ちてゆく俺だった。

 あ、その時に「これ、擦り傷とか打ち身に塗っておくといいですよ」って少し色味の悪い軟膏をもらったんだけどさ。ふっ、このツンデレさんめ!

 惜しむらくはリアちゃんに背中とか手の届かない所に薬を塗って貰えなかったことだが贅沢は言うまい。


 それから……たぶん数時間が経過。いや、ホントに興味ないのかよ!!

 後で部屋に話を聞きに来るとかそういうイベントじゃなかったのかよ!!

 ドキドキしながらベッドと言う名のかったい板の上で待ってた俺の五分の一の純情な欲情を返せよ!!

 待ったって言うか寝てた、むしろ熟睡してたから扉をノックされていたとしても気付いてない気がするけれども!!

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