第2話 ここは俺の体でひとつ

 少女と出会った山道から徒歩で約半時間。日もほぼ昏れた舗装されていない荒れた道を年下の女の子の後ろをついて歩く俺。守ってもらうつもり満々である。

 そして到着したのは少女――道すがら聞いた所によると『リア』ちゃんと言う名前らしい――の住んでいる家。思ったよりもしっかりとした感じの古びた平屋のログハウスっぽいお宅に到着する。

 ログハウスって言うと洋風な感じを想像するかもしれないけどそこまで洋風でもないしかと言って和風や中華風でもないし……しいて言うならアジア風だろうか?

 あれ?この子、地味な見た目によらずそこそこ裕福なご家庭の娘さんなのかな?


 てか『いきなり刃物を向けてくる程度には警戒心も猜疑心も強そうな女の子の家によく招かれたな』って?


 この子、最初は完全に俺のことを置き去りにして帰ろうとしたんだよ?

 山から転げ落ちてきてひと目で分かるくらいには傷まみれで満身創痍のこの俺のことを!

 むちゃくちゃじゃね?どう見ても要救助者だよ?これだから田舎者は……相変わらず無駄に偉そうな俺である。

 でもさ、こんなわけのわからない場所で放置されたら……明日の朝まで生き残れる自信がないじゃないですか?ご飯は朝食べたっきりだし迷子になってあてもなく放浪してたら化け物に追いかけられたしメンタル面もギリギリじゃないですか?


 山の中にはさっきのあいつら以上の変な化け物もうようよいそうだしさ。だって少なくとも追いかけてきてたヤツ、三匹はいたんだからね?

 その他にも俺が山中を彷徨う原因になった、巨大な、そう、巨大な……今は思い出すのはやめておこう。何故なら膝が震えて立っていられなくなるから。

 そりゃもう超懇願したよ。年下の女の子に恥も外聞もなく一緒に連れて帰ってくれと!見捨てないでくれと!自分がどれだけ可愛そうな立場の人間なのかを必死に説明した。土下座姿ででリアちゃんの足にギュッとしがみついたさ!

 十代の少女に縋り付く二十代後半の男、完全に事案発生である。


 でも、そこまでしてもスルーされたんだけどな!

「へぇそうなんですかー、大変そうですね―。じゃ、わたしはこのへんで」

 とか酷すぎじゃないですかね?もっと互助精神とか持って?

 で、次に自分が相手にとってどれだけ有益な人間かをこんこんと……説こうとしたけどどう考えても俺はこの子の役に立てそうにない。


 だって軽い感じの投石だけでバケモノを追い払う女の子だよ?

 半泣きの傷まみれで逃げ惑ってた男にどうしろっていうのさ?

 てことで最終的には金の力でと思ったんだけど。

 いや、財布の中身三千円くらいしか入ってないし。


 それに見たこともない化物が徘徊してる場所で日本円が使えるとは思えないじゃないですか?

 色男、金と力は……そもそも色男ですらないんだけどな!根本的な次元で詰んでるじゃん!

 あれか!『異世界人は親身で親切(ただしイケメンに限る)』なのか!?

『胸囲の格差社会』ならぬ『顔面の格差社会』、世知がれぇな異世界……。

 そんな葛藤に苛まれる俺を横目に「はぁ……」と、これ見よがしにため息をつく女の子。もうね、この時点で俺も吹っ切れたからね?


「わかった。わかりました。そこまで言うなら……俺の体を自由にすればいいじゃないですかっ!?」

「わたし何も言ってないですよね!?て言うかあなたの体になんて何の興味もありませんよっ!!」


 てな感じで恥も外聞もなく頭を下げまくり数少ない所持品であるポケットに入っていた『ハンカチ』をプレゼントすることで一晩だけお世話になる契約をとりつけたのだった。

 身だしなみは大事。そして女の子ウケが良いのはハンドタオルじゃなくハンカチだぞ?たぶん。知らんけど。

 てなわけで俺的には命からがら到着した女の子の家なのである。


 てかさ、あのままあそこで放っておかれたら命の危険がありそうだったから勢いだけで家に泊めてくれなんて懇願したものの……ご家族にどんな目で見られるかを想像するだけで胃が痛くなりそう。

『迷子の所を拾われました』で通るのはイヌかネコ、大目に見てウサギとタヌキくらいのモノである。

 キツネ?理由は分からないがこの業界では埋められるらしい。


 まぁ親御さんにどんな目で見られようと死ぬよりはマシなんだけどね?あわよくばお義母さんにでも取り入ってしばらく衣食住の提供もしてもらいたい。

 うん、案外前向きで強欲だな俺。

 時代劇に出てくる蔵を開けるときに使うような大きな鍵で『がっちゃん』と大きな音を鳴らしながら鍵を開けるリアちゃん、心の底から嫌そうに屋内に招き入れてくれる。

 人のことはまったく言えないけどほんっとうに失礼な子だよな!

 ここまで話しながら二人並んで歩いて帰ってきたんだからもっとお互いに打ち解けようぜ!


 そしてリアちゃんのお家に入った俺の第一印象。


「……なんていうか……とても……くさいです」

「……出ていってもらってもいいんですよ?」

「いや、だってさ!なんていうか濃縮した青汁みたいな臭いするんだもん!ナニコレ、他人の家って独特の臭いがするもんだけど田舎の家屋ってこんなにも臭い感じなの?」

「本当に無礼な人だなー。まぁ確かに少しだけ臭いはキツイですけどもっ!うちはクスシなんですから!仕方が無いんですよっ!」

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