第6話聞き取り調査

黒井川警部はキャンプ場関係者と、宿泊者の聞き取り調査を始め、ワトソン君は隣に座り矛盾点がないか、考える役目に徹した。

まずはキャンプ場にいた職員に話を聴いた。

昨夜は、初老のおばさん1人が事務所で待機して、夜の10時には寝たらしい。

細い体つきで、「事故じゃないんですか?」

と、言うので

「色んな可能性を調べるのが警察の仕事でして」

「早く済ませてちょうだい。今日も5組の宿泊客が来るの。こんな、パトカーだらけじゃ、お客様に不快な思いにさせてしまうから」

「はい。心得ております」


次は老夫婦だ。

生田いくたさんでいいですよね?お名前は」

「はい、生田信二です。妻の洋子です」

「昨夜の事ですが。昨夜はキャンプファイヤーは参加されていましたね?」

「はい」

「その後は?」

「シャワーを浴び、2人ビール飲んでから、9時頃には寝ました」

「そうですか~」

生田は立ち上がると冷蔵庫から、缶コーヒーを取り出した。シャツの下から、黒い腹巻き状のものが見えた。

「刑事さん、喉乾くでしょ?どうぞ」

「お心遣いありがとうございます。あの~、黒い腹巻き状のモノは?」

生田はシャツを捲ると、

「コルセットです」

「腰痛ですか?」

「はい。脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょうの手術を先月受けましてね」

「だから、夫が動けるうちにキャンプにいくことにして。私たち、夫婦は何でも協力しますから」

と、妻の洋子は言った。


次は、昨夜のOLだ。

「いや~、あおいちゃん、ひとみちゃん、昨夜は楽しかったね?」

「はい。やっぱり黒井川さん刑事っぽい」

「1時で解散したあと、何をされていましたか?」

「交代でシャワー浴びて、寝ました。今日まで宿泊なので。大丈夫ですか?キャンプは?」

「後は、鑑識の作業だけなので、間も無くパトカーもいなくなりますよ」

「良かった。ね、ひとみちゃん」

「……うん」

「黒井川さんたちは?」

「一応、休暇中なので、ある程度めどが付いたら、部下にまかせます」

「刑事さん、戸川先生、今夜も一緒に飲みましょうね」

「もちろん」

ワトソン君はニコリとした。


続いては宅間進一だ。

「あの~、宅間さん、少しお話いいですか?」

「……勘弁して下さい。警察の方から同じ質問ばかりされて。僕は夜のキャンプファイヤーの前に酔い潰れて、朝起きたら、由理がいなくて……」

「すいません。山根さんは、夜中まで飲んでいたのを我々は目撃しています。しかし、死亡推定時刻と矛盾がありまして」

「な、なんでしょうか?」

「検死では、夜中の時刻よりもっと前に亡くなった可能性がありまして」

「僕は本当に、何もしてません。現に夜中まで刑事さんたちは由理を見たんでしょ?」

「はい」

宅間の目は涙で充血していた。余程、ショックだったのだろう。

「すいません。少し休んで下さい」

「あ、ありがとうございます」

「必ず、犯人を逮捕しますから」

と、黒井川が言うと、

「犯人?事故や自殺じゃなくて?」

「はい」

「な、何故分かるんでしょうか?」

「近くに石床川がありますよね。普段は清流ですが、昨夜から川上で雨が降っていたのか、水が濁ってましてね。司法解剖の結果、由理さんの肺からは真水しか見つからなかったのです」

宅間は震えながら、

「さ、殺人じゃないか!」

「必ず、犯人を探します」

「お願いします」

「かしこまりました」


黒井川とワトソン君は、コテージに戻り部下の川崎にある指示をだして、2人は頂いた缶コーヒーを飲みながら、喫煙した。

「犯人は、女ですかね?」

「何故?」

「よく推理小説で、思いがけない人物が犯人なので」

「はぁ~、ワトソン君は推理小説の影響受けすぎ。死体はね、女には運べないよ」

「じ、じゃ、生田信二さん?」

「無理無理、脊柱管狭窄症の患者は死体は運べない」

「ま、まさか……」

「宅間の耳見た?」

「い、いえ」

「耳だこがあったでしょ。あれは、柔道してると出きるタコなんだよ」

「ま、まさか……」

「顔はシュットしてるけど、力はあるね」

「決まりじゃないですか~」

「直感通り」

「逮捕状を取りますか?」

「まだ、証拠と動機がねぇ。それと、死亡推定時刻との差が分からないんだ」


2人は、2本目のタバコに火をつけた。

黒井川は思いっきり煙を吸った。

「警部、依頼された調査がまとまりました」

と、川崎刑事は黒井川に渡した。

黒井川、ありがとうと言うと全ての謎が解けた。


さて、読者諸君、死亡推定時刻の謎、殺人の動機、そして犯人は誰なのか考えたまへ。

解決編は次回。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る