優璃の気持ち

 それ以上の事を聞く事ができずに私は柳一郎りゅういちろうさんの部屋を後にして自室に戻った。それからもさっきの会話が頭から離れない。

 ホントに些細な事で好きあっていた二人の思いが揺らぐんだ。それにこのままだったら二人が別れちゃう。

 少しの間だけ悩んでから莉子りこ姉さんに電話をかける。

 莉子りこ姉さんが今どう思ってるのか確認しておきたかった。

 でも、呼び出し音が鳴るだけで出ない。アルバイト中なんだろうか?

『あとで連絡を下さい』とメッセージを送ってスマートフォンを机の上に置く。


 午前中はずっと柳一郎りゅういちろうさんと莉子りこ姉さん、二人のことを考えていた。いくら私が考えていても仕方がない事なのに、どうしても、こうなったのは私のせいのような気がしてならなかった。

 気がついたらお昼前になっていて、慌ててご飯の準備に取り掛かる。

 時間もないから余っていた野菜と豚肉で野菜炒めを作る。ご飯は冷凍していたものをレンチンする。

 お昼になっても柳一郎りゅういちろうさんは部屋から出てこなかった。部屋に呼びに行っても「あとで食べるから、先に食べてて」と言って出てこなかった。

 一人で昼食を済ませて自分の部屋に戻ると丁度鳴っていたスマートフォンの着信音が途切れた。履歴は莉子りこ姉さん。

 すぐに折り返して電話をかける。

「もしもし、莉子りこ姉さん。どうしても聞いておきたい事がありまして」

『なに?優璃ゆりの聞きたいことって』

柳一郎りゅういちろうさんは莉子りこ姉さんの事が好きで玲香れいかさんとは何も無かったのです」

『何かあったとかじゃないのよ』

「それなら、仲直りしてください」

『どうして優璃ゆりがそんな事を言うの?柳一郎りゅういちろうに頼まれたの?』

「いえ、私が二人に仲良くしていて欲しくて……」

『そう……でも、今はお互いに距離をおいた方がいいと思うの』

「本当にそれでいいんですか?柳一郎りゅういちろうさんに莉子りこ姉さんの事を今どう思ってるか訊ねたら『好きだった気持ちはあるのに、わからない』と言っていました。このままだと取り返しがつかなくなるんですよ。それでもいいんですか?」

『良いも悪いもそれを決めるのは優璃ゆりじゃない』

「それはそうですけど……」

『なら、もう私達の事は放っておいて』

「そんなこと言うんだ……」

 素直じゃない莉子りこ姉さんに段々、苛立ちを覚えた。

「じゃあ、柳一郎りゅういちろうさんが他の人と付き合っても良いんですね」

『っ、そ、それは柳一郎りゅういちろうが決める事よ……』

「それは……、信頼ですか?柳一郎りゅういちろうさんは信用されてないって言っていましたよ」

『私は柳一郎りゅういちろうの事、どう思ってるんだろ……』

「なんですか、それ……、私の気も知らないで……」

『それって、どういう事?』

「私はっ、柳一郎りゅういちろうさんも莉子りこ姉さんも、お互いに好き合ってると思って、諦めたのに……」

『それって、優璃ゆり柳一郎りゅういちろうの事が好きなの……』

「あっ……、も、もう、切ります」

『あっ、ま、プッ・ツー・ツー』

 口にするつもりのなかった想いが口をついて出てしまった事で慌てて通話を終えた。この気持ちは誰にも伝えるつもりがなかったのに……

 スマートフォンをマナーモードにして机の上に投げ出し、ベッドに突っ伏して枕に顔を押し付けて「わあぁ〜〜〜〜っ」と叫んだ。

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