莉子と二人で

 夏休みに入ってからも暫くの間は莉子りこはバイトのシフトがあって会える日はそれ程多くなかった。それでも、僕の方が休みだから会いに行こうと思えば行ける。


 今日はバイトが休みと言っていたので莉子りこの部屋に来ている。

 遊びに来ているのではなくて勉強を見てもらう為に来ている。


 一応、受験生でもある訳であんまりハメを外しすぎると莉子りこの通う大学に合格出来ないなんて事になりかねないので、主目的は僕の家庭教師という事になっているが合間をみて休憩を挟み、今も肩を寄せ合って寛いで過ごしている。


 手を握るくらいの事はしているけど、その先にはまだ進んでない。

 別にヘタレている訳じゃなくて莉子りことの約束で模試でB判定(合格可能性評価65%)になればデートしようと約束をしているからだ。今の僕の判定がC判定(合格可能性評価50%)程度らしいのでまだまだ頑張らないと厳しいのだ。


「ず〜っと、机に向かうだけが勉強じゃ無いからね。ちゃんと休憩をとってリフレッシュしないと頭に入らないぞ」

 これは莉子りこの体験談らしい。

 受験が近づくにつれて休憩を取らずに机に向かっているとそれまで覚えられていた内容が頭に入って来なくなったらしい。それに気がついて休憩を挟むようになってからは効率が戻ったというもの。

 一人で勉強しているとついついキリのいいとこまでと休憩を挟まず続けてしまう。それで振り返ってみると案外抜けているという悪循環に陥る事があった。


 何度か休憩を挟んでいたんだけど昼食後、莉子りこにもたれたままついうつらうつらとしてしまった。


「眠い?それなら少し眠る?」

「ごめん、チョットだけ眠らせて」

「膝枕にする?それともベッドに行く?」

 頬を染めてどうするか聞いてくる。

 膝枕だと莉子りこが動けなくなるからなあ、そんな風に考えた僕の答えは、「ベッドに行く」だった。


 僕がそう答えると莉子りこは頬を膨らませて不満を表す。

 その膨らんだ頬にそっと人差し指を押し当ててみるとぷしゅ〜っと空気の抜ける音がした。それが恥ずかしかったのかそっぽを向いてしまった。

「ごめん、でも膝枕だと僕が寝てる間、莉子りこが動けなくなるから」

「もう、仕方ないなあ。じゃあ、ベッドで寝ようか?30分くらいでいい?」

「うん、ありがとう」


 莉子りこのベッドを借りて少しの間眠る事にした。

 ベッドに入ってタオルケットを掛けるとふんわりと莉子りこの香りがした。

「まるで莉子りこに包まれてるみたい……」



 ベッドに潜り込んだ柳一郎りゅういちろうはすぐに寝息をたてはじめた。

 スマホの充電器を取りに寝室へと入っていくと気持ち良さそうに眠るその顔が目に入ってきた。

「遅くまで勉強してるのかなあ」


 勉強を教えている限りでは成績は上向いているのでは無いかと思えた。

 このままの調子だとB判定は問題無くいけると思う。けど、A判定となるとまだ努力が必要だろう。本音を言えば、折角、両思いになれたんだからもっと柳一郎りゅういちろうと遊びに行きたい。もっと一緒にいたいという思いはある。

 それでも、同じ大学に通うために頑張っている柳一郎りゅういちろうをみるとその気持ちを我慢しなくちゃと思う。

「今はこうして一緒にいられるだけで我慢しなくちゃ」

 眠る柳一郎りゅういちろうの頬をそっと撫でる。


「こうして見ると男の子って感じじゃ無くなったなぁ」

 ベッドサイドの床に座ってついつい寝顔を眺めてしまう。



「ん、うわっ!?」

 薄暗い部屋の中で目を開けると目の前に莉子りこの寝顔があった。


「やっぱり、莉子りこの事、好きだなあ……」

 あの告白以来、照れ臭さもあって言えてない『好き』という言葉が口をついて出た。本当は起きてる時に言えればいいんだけどこれが中々そういう雰囲気にならない。勉強ばかりしてるから仕方がないと言えばそれまでかもしれないけど。


「B判定とってデートする時には言いたいな」

 付き合いだした後は好きとかいう事を口に出さないっていうのはよく聞く話。だからこそちゃんと伝えたいと思う。


 そのまま莉子りこの顔を眺めていたらその瞼がゆっくりと開く。

「おはよう」

「ん、んん!?」

 莉子りこは目を見開いて慌てて身体を起こす。

 ベッドの縁についていた手が滑って顔からマットレスに突っ込む。

 ボフッという音と共に「いった〜い」と言う言葉が聞こえてきた。

「大丈夫?」

「ん、大丈夫」


 さっきまでよりも顔が近い、僕達はお互いに頬を朱に染めて笑い合った。


柳一郎りゅういちろう……」

莉子りこ、好きだよ」

「私も……」

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