待ち伏せ
振替休日を挟んで今日は文化祭の片付け。
それ自体は順調に進行して昼過ぎには終わりそうな感じだった。
「木材は纏めて持ってきた所に返してきてね」
委員長の号令で運搬班が紐で縛った木材を持ち出し始める。
僕も運搬班として運び出す。
「じゃあ一度持って行ってくるよ」
「おう、いってら〜」
◇
木材を運んでいると向こうから
「
「
「はい、うちのクラスはもうすぐ終わりそうです。そちらはどうですか?」
「うちは順調にいって昼過ぎかなあ」
「そうなんですね」
「お互い、もう一息頑張ろうか」
「はい、それでは失礼します」
そう言って彼女は教室の方へ歩いて行く。
僕は彼女の来た方へ木材を片付けに行く。
◇
「あ〜、ドキドキしたぁ……」
私、普通に話しできてたかなあ?
まさか
今日、
計画もなにもない、出たとこ勝負。
何をするのも、どこに行くのも何も思いついてないけどそれも含めて相談する為に連絡先を手に入れる。うん、おかしなことじゃない。
「でも、いきなり二人きりだと警戒されるかな」
私達のクラスの片付けを終えた後、先輩のクラスの様子を見に行く。
もしもこれで先輩のクラスの片付けが終わってたら、今日はどうする事もできない。
三年生のクラスのある階に向かっていると数人の上級生とすれ違う。
カバンを持っている事から片付けが終わって下校している事がわかる。
「あれ、先輩のクラスも片付け終わってるんじゃない……」
そんな事が頭によぎったけど近づくにつれてざわざわとした音が聞こえてくる。良かった〜、先輩のクラスまだ終わってなかった。
そっと、教室の中を伺ってみると箒で床を掃いている人の姿が見えた。
「もう少しかかるかな」
ここで待っているのも憚られるので場所を移動する。
どこで待とうか?正門それとも下駄箱の見えるところ、確実に先輩を捕まえるなら下駄箱の見えるところの方がいいかな。そう結論を出してそこへ向かう。
塀側にある自転車置き場からなら入り口が見えた筈。それに日除けになる屋根がある。
30℃を超える炎天下で待っていると熱中症で倒れる自信がある。
その場所で先輩を待っていると同学年の男子から声をかけられた。
今、あなたに構っている余裕は私にはないの。素気なく話を逸らそうとしているのだけど私が移動できないのをいい事に食い下がってくる。
ああ、もう鬱陶しい。けど、私のイメージというものがあるからそうも言えない。
そうやって対応に困っていると先輩のクラスの人が下駄箱にやってきたのが見えた。ほんとにこんなことしてる場合じゃない。先輩が出て来るところを見逃してしまう。
焦りを感じてその場所を離れて下駄箱の移動することにした。
「あ、
私の中では親しい間柄でない異性が名前で呼び合う事を許容できていない。
碌に会話もした事のない男子に名前で呼ばれた事が悍ましく思えた。
ゾクっとした。嫌悪感が湧きあがった。そして思わずその男子に向かって声をあげた。
「あなたに名前で呼ぶ事を許した覚えはない!!」
周りからの視線を気にする事もできなかった。本当にこの人に名前で呼ばれる事が嫌だった。
でも、振り返って声をあげたのは失敗だった。
立ち去る足が止まり男子に距離を詰められ、腕を掴まれた。
「離して下さい」
「話を聞いてよ」
「あなたと話す事はありません」
「そんな事は言わないで話を聞いてよ、
掴まれた腕を振り払おうとするけどできずにいるとまた名前を呼ばれた。それにそのセリフ、気色悪い。
周りの生徒は遠巻きに見て過ぎ去って行く。
面倒ごとに巻き込まれない様に普通はそうするよね。私もそうすると思う。
でも、今は誰かに助けて欲しい。
自分勝手なことを言っているのはわかっているけど、それでも。
視線の先、下駄箱で靴を履き替えて外に出てくる先輩の姿が見えた。
「
◇
「水着キャラって微妙でもつい欲しくなるんだよねえ」
「あれなあ、一から育てる事を考えるとアバターか衣装にして欲しいよなあ」
下駄箱で靴を履き替えた僕は
「
その声がした方を見ると
「
「ああ」
まだ靴を履き終えていなかった
「どういう状況?」
「この人がしつこくて」
涙ぐんだ彼女はそう訴えてくる。
「先輩には関係ないでしょ」
「僕は
そう言って力を込めて男子の目を見る。渋々と言った様子だったけど彼は
そこへ
「落ち着くまでは一緒にいてあげたら。俺は予定があるから帰るけどね」
僕の裾を掴んだ
「
このまま彼女と別れるのもあの男子が戻って来たらと考えると気が引けたので彼女が落ち着くまでは付き添う事にした。
コンクリートの基礎部分に腰をかける。彼女はずっと僕のシャツの裾を掴んで離さないでいた。
ぼんやりと下駄箱の方を眺めていれば
何かを言いかけた様に口が動いたけど、何も言わずに立ち去っていった。
後でちゃんと説明しないと誤解されてそうだ。
「先輩、ありがとうございました……」
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