文化祭

 文化祭当日。

 莉子りこは予定があるという事で来てはいない。

 少し残念に思うけどそこは無理を言っても仕方がない。


 そして僕たちのクラスは予定通りに執事服を纏った男子がロシアンたこ焼きを提供していた。

 因みにこのロシアンたこ焼き、定番のワサビ、カラシの他に山椒とハバネロがある。僕はその他の具材を把握していない。

 一応どれも食べられないという程の量は入れていない。

 その辺は試作段階で調整済みだ。……最初のは酷かった。


 開店から暫くの間は女子ウケがいい男子が呼び込み役になっていたから来客が多かった。

 6個1パック200円という値段で提供している事もあって結構な数が出た。ソースの匂いなんかも集客の役に立ったとは思うけど。


 見ているとハズレを食べた人も笑っているから中々良かったんじゃないかな。


 それといつの間にか『執事と一緒に撮影できます』という立札までできていた。これにはイケメン男子がひっきりなしに呼ばれて給仕が間に合わなくなる事があった。僕?たまに撮影相手に呼ばれたけど誰と撮ったかまでは覚える余裕は無かった。


「一班、先に休憩行ってきて」

「了解」

「後、宜しく」


 昼前、僕たち一班は休憩に向かう事になった。

 みんなそれぞれに連れ立って教室から出ていく。



 僕は文化祭のパンフレットに載ってたオムライスを提供する2年生のクラスを目指した。写真通りなら結構なお得感がある。

 オムライスとハンバーグのセットがワンコイン500円というのは気になるところだ。


 2年生の文化祭はこれが最初で最後になるから気合が入ってる。

 目的の教室も飾り付けからして僕たちのクラスより気合いが入っている。一見すると洋館風の外見。段ボールに色を塗ったものみたいだけど中々凝ってる。

 結構お客さんも並んでいて休憩時間中はここにいる事になりそうだ。


 列に並んでいる間も何人かの女子に撮影の許可を求められた。

「やっぱり、執事服が珍しいのかな?」



「りゅ、ん、んんっ、嵩賀谷かさがやさん、写真を一枚いいですか?」

「いいですよ」

 また、撮影の許可を求められた。反射的に了承するとそこにいたのは優璃ゆりだった。クラスメイトの女子と一緒に回っているところだったんだろう。

 二人とも大正時代の女学生のような衣装が似合っている。


「あ、じゃあ私が撮ってあげる」

「うん、お願い」

 少しだけ照れた様子でスマホを友人に渡す優璃ゆり

「もっと、くっついて。は〜い、撮りま〜す」

 カシャっというシャッター音の後、

「もう一枚撮りま〜す」と言って撮影された。

 優璃ゆりのクラスメイトとも写真を撮った。

「ありがとうございます」

 そう言って彼女達は去っていった。

 これは、帰ったら揶揄われるかなあ。


「三名さまどうぞ」


 漸く僕を含む三人が呼ばれて教室に入る。

 教室の中もソレっぽく飾り付けられていて雰囲気はいい。


 他の席に提供されている料理を確認した感じでは女性に丁度いいか少ないくらいのボリューム。他のクラスにも食べ物の提供がある事を考えるといい判断。だけど今の僕には物足りないかも、でも二つだと多いんだよなあ。


 席について渡されたメニューに目を通す。

 うん、最初に決めたのでいいかな。

 さっと手を上げるとメイド服を着た女子が近づいてくる。

「ご注文、承ります」

「ハンバーグとオムライスのセットを」

 注文の復唱をした後「失礼します」と言って戻って行った。


 このクラスは接客は女子がメインで男子は少ない。ただ、その男子は皆んなイケメン。それ以外の男子は教室の外で誘導をしていたり厨房要員になってるのかな?うちのクラスとは逆だな。


「お待たせしまし、た……」

 料理を運んできたのは山梨やまなさんだった。彼女は僕を見て言葉を失った。

 そんなに似合ってない、僕の執事服?


 机の上に料理を置いてペコリと頭を下げる。

 周りに聞こえないくらいの声で「後で一緒に写真撮って下さい」そう言った後、「ごゆっくりどうぞ」と声をあげて戻って行った。


 料理は普通に美味しかったです。

 昼食を済ませた僕は余裕を持ってクラスに帰る事にした。



 午前中ほどでは無かったが午後からも僕たちのクラスは忙しくしていた。

 うちのクラスのイケメンたちは相変わらず撮影に呼ばれている。僕たちフツメンは時々撮影に呼ばれるけどほぼ給仕要員だった。


「撮影、いいですか?」

「はい?」

嵩賀谷かさがや先輩、撮影いいですか?」

「どうぞ」

「あ、スミマセン写真撮ってもらえますか?」

「はい、承ります」


 本当に一緒に撮るつもりだったのか。かじくんにスマホを渡して髪型を整えている。ついでに僕の服も整えられた。動いていると少しは乱れてくるのかな。

「はい、撮りますよ」

 かじくんがそう言ったのと同時に山梨やまなさんが僕に抱きついて来た。

 横から抱きつかれる様な形で写っている。今時のスマホって結構動いてるものでもブレないんだな……

 その写真を見て山梨やまなさんは満足気な表情を浮かべてロシアンたこ焼きを買っていった。


 残された僕に向けられる視線は様々だった。

 それでもクラスの皆んなは僕と山梨やまなさんが付き合ってない事を理解していると思いたい。


 盛況のうちに食材が無くなり僕たちは一時間程時間を残して片付けをしていた。本格的に教室を片付けるのは後日だけどホットプレートやその他の食器類は今日のうちに片付けて引き上げる予定になっている。

 女子が先に洗い場に向かい、男子が重い物を持って行く。この辺りの連携も取り決め通りにできていてかなり順調に片付けは進む。


 振り返って考えても今年の文化祭は今までで一番楽しかった。

 今まで積極的にクラスに馴染まずにいたのは自分なんだけど、文化祭が楽しかった分、少しだけ寂しく思う。


「このクラスでする大きなイベントはもうないんだなぁ」



 ロシアンたこ焼きを買ってクラスに戻った玲香れいかはバックルームでクラスメイトとたこ焼きを分け合う。


 無事にを回避した玲香れいかは一人呟く。

「やっぱり嵩賀谷かさがや先輩の事、諦められそうにないな」


 クラスで執事服の嵩賀谷かさがや先輩を見た時に不覚にもときめいてしまった。ずっと胸の奥で燻ってるこの気持ち。

 打ち明けたいけど、このまま打ち明けても彼氏になってもらえるとは思ってない。何か関係を進める方法を考えないとダメだ。


 山梨やまな 玲香れいかはこの時に気づいた。

 自分はモテるけど誰とも付き合ってこなかったから恋愛についての知識が欠落している事に。


「うわぁ〜、私、ポンコツじゃん……」


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玲香れいかの買ったロシアンたこ焼きのはカカオ99%チョコ入りの物です。

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