思い出
家に帰った
「あの時の
「なんか言った?」
「いえ、何でもないです」
「そう?」
夕飯作りは
私は踏み台に身体を預けて下拵えをして、
茄、椎茸、南瓜を適当な大きさに切り、魚屋さんが薦めてくれた鱚を背開きにした後、冷水、薄力粉、卵を使って天麩羅の衣を用意した。
後は
温度調整機能が備わっているガスコンロだから火加減を気にする必要もない。私が隣で見ていれば揚げ過ぎになる事もない。はず。
「あ〜、なんか緊張するなあ〜」
「大丈夫ですよ。隣で見てますから」
緊張した
茄には鹿の子飾り切りをしているけれど
「そろそろ取り出してください」
「わかった」
うん、いいんじゃないかな。
「揚げ物って丁度良い加減が分からないんだよなあ」
「何分て言う人もいますけど、私は泡のでかたと衣の色で判断しています」
「そこがわからないんだよなあ」
「見て覚えてくださいね」
「はあ、分かったよ」
やっぱり、普段料理をしてないと揚げ物は難易度が高く感じるんですかね?
要領が分かればそんなことは無いと思うんですけど。
◇
「どうですか?」
「う〜ん、いつもより衣が硬いのがある気がする」
「揚げ過ぎましたかね」
夕飯の天ぷらをいくつか食べて僕が顔を
おっかなびっくり油はねに気をつけながら調理に向き合っていたんだけど結果は見ての通りの有様……
「やっぱり、普段から料理している
「そうですね」
「僕も料理覚えようかなあ」
「えっ!?」
「そんなに驚くとこ!?」
「いえ、そのう、後片付けもちゃんとして下さいね?」
「あ、ああ……」
片付けかあ……、料理をする男性が増えているのにパートナーの女性がその事を手放しで喜んでないというのをなんかで見た事がある。
確か、その理由として料理をした後の片付けが理由の一つにあった気がする。
「努力します……」
「はい、そういう事なら、時々手伝ってもらうようにしましょうか?」
そんな会話をしながら夕飯をとった。
やっぱり、
◇
「片付けは僕がやっておくから、先にお風呂入りなよ」
油は既にポットに移されて今は濾過中。
食器や調理器具の数は多くないから
「良いんですか?」
「うん、いいよ。あ、慌てなくていいから、ゆっくり入ってきなよ」
「それでは、お先にいただきますね」
「うん」
◇
湯船に浸かって天井から落ちてきた水滴を眺めていると幼い頃の事を考えてしまう。夕方、
「あの時の私、無理してたなあ……」
両親を亡くしてこの家に引き取られた最初の夏。
優しくされる事にも戸惑ってどういう風に振る舞えば良いのか分からなくていた私を
遠くなかったから三人でこっそり家を抜け出した。
少し強引に手を引かれて向かった小さなお祭りに私ははしゃぎ過ぎて二人と逸れてしまった。
不安になって一人で途方に暮れていたら雨まで降り出してきた。
神社の境内でポツンと佇んでいると両親と行ったお祭りの事をどうしても思い出してしまった。
『あの時は楽しかったなあ……』
楽しいはずのお祭りに来て一人で涙をこぼして今はもういない両親の事を思い出す。いつの間にか涙が溢れて視界が滲んでいた。
私は両親の事を思い出しても
「あの頃の私は可愛くなかったんじゃないかなあ……」
結局、あの時はお祭りが終わりに近づいた頃に
『
怒られると思って目を瞑って身体を縮こませているとふわりと身体を包まれた。何が起こったのか理解が出来なかった。それでもあの時の言葉は今も思い出せる。
『よかった〜。家に帰ろう』
「あの時も私は足を挫いていたんだよねえ……」
帰ろうと言う
動かない私を見かねて少し強引に私の手を引いて帰ろうともう一度言われた。
『っ!』
顔を顰めた私の表情に気づいた
『どこか怪我したの?』
『足が痛いの……』
それだけ言った私の前に
『ん』
『えっ?』
『歩けないんだろ?』
『うん……』
『おんぶするから』
『いいの?』
『いいよ』
私は
途中で
二人ともずっと私を探してたみたいでずぶ濡れになっていた。
その事が申し訳ないという思いと込み上げてくる嬉しさで声を上げて泣いた。
家に帰ったら
お風呂から出たその後は両親達の前に三人で正座させられて、行き先を告げずに子供だけで出かけた事をしっかり怒られた。
今となっては懐かしい思い出。
あの時私は
でも
誰にも話した事のない幼い頃の初恋の思い出。
「二人には幸せになってもらいたいなあ……」
浴室の中に私の言葉が静かに溶けていった。
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