おんぶ
「ただいま」
「あ、お帰りなさい
先に帰って来ていた
「あの、戻られたばかりで申し訳ないのですけど……」
「ん、どうしたの?」
「その、オイスターソースを買い忘れていて、代用レシピを試してみようとしたのです。けど……」
ああ、表情を見る限り代用レシピは今ひとつお気に召さなかったのかな?
キッチンを見てみるけどまだ下拵えの段階で調理に取り掛かっていないみたい。それなら別の料理にすれば良いのにと思ってしまう僕はおかしいのかな?
この話の流れなら買い物を頼まれるのかな?
「それなら買いに行ってこようか?」
「一緒に行ってくれますか?」
「うん。う、ん?」
聴き間違えたかな?
「荷物、置いてくるよ」
「あ、着替えもしてきてくださいね」
言われた様に着替えを済ませてリビングに降りて来てみればそこにはエプロンを外した
「では、行きましょうか」
キッチンにあった食材はすっかり片付けられていた。どういうこと?
◇
何故か
「あら、
「違いますよ〜」
「
「どれですか」
八百屋のおばさんから声をかけられ、魚屋のおじさんには魚をお薦めされている。手を引かれている僕を見てニマニマとした視線を向けてくる。
タノシソウデスネ……
お惣菜屋さんに手を引かれて行く。
「あら、
「もう、違いますよ〜」
ここでも
こうして見ていると普段からこの商店街を利用している事が容易に想像できる。だって、商店街の人が
目的のオイスターソースはこのお惣菜屋さんのオリジナルだったのか。
「もも肉150グラムと合挽きミンチを300グラムお願いします」
ソースの他にお肉も買っていくようだ。
「ちょっとだけど、オマケしておくよ」
「有難うございます。こちらでお願いします」
「はい、お釣りね。こっちは新作、そっちの彼氏と食べてねぇ」
「えっ、あっ、か、彼氏!?」
動揺している
今の僕の手には八百屋さんで購入した茄、椎茸、南瓜、魚屋さんで購入したおじさんお薦めの血鯛と鱚の入った袋がある。
どちらのお店でもオマケをしてもらっていた。
成程、僕と一緒に来た理由が理解できた。
僕は荷物持ちだったんだろう。
その結果商店街の方々に揶揄われたのは誤算だったんだろうけど。
美味しい料理をいつも振舞ってもらっているんだから荷物持ちくらいは喜んで引き受けますとも。
帰り道でも
こうして手を繋いで歩くのって小学校以来だなあ。
「すみませんでした」
「ん、なんで?」
「
「ああ、別に気にしなくていいよ。取り乱した
「っ!?もう、
繋いでいた手を離してプリプリ怒る。そんな姿も可愛い、元が良いと何しても可愛いなあ。ほっこりして見ていると更に機嫌を損ねていく。
そろそろ、機嫌を取らないと。もし夕飯を作ってくれなくなったら僕が困る。
「ごめんごめん、揶揄うつもりは無かったんだよ。ホントに
「もう、そういうところです」
プイッとそっぽを向かれてしまった。
「あっ」
段差に足をとられてバランスを崩した
幸いなことに転ぶことはなかった。
「大丈夫?」
「ええ、
「おい、大丈夫か!」
足を挫いたみたいで体重をかけると痛みが走る様だ。
「ちょっと、見せて」
「えっ、あっ」
戸惑う
挫いた方の足首が少しだけ腫れて熱を帯びている。病院は診察時間は過ぎているなあ。
「それ程酷くないと思うので帰ってから湿布を貼っておけば良いと思うんです」
「ホントに?我慢してない?」
「はい、でも歩いて帰ると時間が……」
申し訳なさそうに呟くけどこんな時はタクシーをって、こんな住宅街の中をタイミング良くタクシーが走っている訳も無く。スマホを取り出してタクシー会社の電話番号を検索しようとしていると
「もし、
顔を真っ赤にしてそう提案してきた
「
「いいよ、これでもお
昔、
「それじゃあ、失礼します」
「ん」
首に腕を回して来た事を確認して、膝裏に手をまわす。買い物袋があるから収まりが悪いけど我慢してもらう。
「しっかり掴まって、立ち上がるよ」
「はい」
ぎゅっと掴まってくると、どうしても背中に感じる柔らかな感触を意識してしまう。慎ましやかな大きさのそれは僕の背中に押しつけられて形を変える。
「いくよ」
怖がらせないようにゆっくりと立ち上がる。
「お、重くないですか?」
「大丈夫だよ」
正直に答える事が不正解だという事くらいは僕でも知っている。
「ホントですか?」
「ホント、ホント。昔、
昔の話で誤魔化して僕達は家に帰った。
多分、誤魔化せたんじゃないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます