テスト終わりと山梨さん

「お、わった〜〜!」

 僕は開放感から机に突っ伏していた。

嵩賀谷かさがやはどうだった?」

「赤点はない、と思う」

「そう言いながら平均点は超えてるんだろ?」

「どうだろ?かじくんはどうだったの?」

「俺はまあまあかな」

大翔ひろと、帰ろうぜ」

悠介ゆうすけはテストどうだった?」

「バッチリ!」

「ホントか〜?」

「それより、打ち上げしようぜ」


 三日に渡るテスト最終日。その最後のテストが終わり、ホームルームも終わって教室内は開放感に包まれていた。

 部活も今日までは休みとなっているらしくかじくんと波木里はきりくんはテストの打ち上げをするみたい。

 波木里はきりくんが指した方には男女が五人いた。


 喜多村きたむら 巴弦はつるくん。

 長身の細マッチョ。

 有岡ありおか 瑠花るかさん。

 ギャル。

 伊吹いぶき 安澄あすみさん。

 童顔ポニーテール。

 谷岡たにおか 李里奈りりなさん。

 黒髪美人。

 遠野とおの 梨花りかさん。

 長身西洋人形。


 僕が彼らに対して持っている感想。接点が無いからこれくらいの事しか知らない。


嵩賀谷かさがやも行く?」

「えっ!?」

 まさか僕が誘われるとは思わなかった。

「え〜と、今日は帰ってやりたい事があるから……」

「わかった。じゃあ、またな」

「うん、また」

大翔ひろと、早く行こうぜ」

「ああ」

 僕がいても気を遣わせるだけだし、折角誘ってくれたかじくんには悪いけど断ってしまった。いや、断る以外の選択肢は無い。はず……

 かじくんが僕を誘った時の波木里はきりくんの信じられないという表情。

 そうだよね。僕なんかがあの中に混ざるなんてできるはずが無い。

 波木里はきりくんより、女子の目の方が怖いけどね。


 賑やかな集団が出て行くと教室内は一気に静かになった。



嵩賀谷かさがや先輩」

 校門を過ぎた所で背後から声をかけられた。僕のことを先輩と呼んでくる人は一人しか思いつかない。振り返るとそこにいたのは。

山梨やまなさん……」

 最近彼女の姿を見ていなかったから油断していた。


嵩賀谷かさがや先輩。改めてお礼をさせて下さい」

 まだ、その話続いてたんだ。これはキチンと話を聞くまで続きそうだなあ……

「ホントに、お礼をしてもらう様な事はしてないんだけど」

「いえいえ、あの時、嵩賀谷かさがや先輩が助けてくれなければ私は家に入れませんでしたし」

 あ、あの時の鍵は家の鍵だったのか。

 それでもお礼をしてもらう程の事じゃ無い気がするんだけど。

「この後、お時間をいただけませんか?」


 諦めそうにないよなあ。僕は折れる事にした。

 校門付近にいるから周囲の視線が痛い。

 不似合いな組み合わせに興味を持つ者、あからさまに僕に嫌悪感を向けてくる者そんな視線にこれ以上晒されたくない。

 はぁ、これが僕じゃなくてかじくんなら、周りからの視線も違うんだろうけど僕じゃあねぇ、山梨やまなさんに悪いけど声をかけて来たのはそっちだから我慢してね。


「分かった。分かりました。でも、ここじゃあ他の人の目もあるし……」

「それなら駅前のカフェに行きませんか?新作のスイーツを食べに行きたかったんです。ご一緒してください」

 上目遣いにそう言われると断りづらい。他に行こうと提案したのは僕なわけだし、そのくらいは妥協するしかないか。

「じゃあ、案内してくれる」

「はい!」

 山梨やまなさんは元気に先を行く、何故か僕の手を握って。

「や、山梨やまなさん、別に、手を握らなくても……」

「先輩、逃げるじゃないですか」

「あ、ソウデスネ」

 返す言葉も無い。僕の日頃の行いが原因だった。



 結局、僕はカフェまで山梨やまなさんに手を引かれていく事になった。周囲にいた生徒からは奇異の目で見られているに違いない。変な誤解を生みそうで嫌だなあ。


 そうして連れてこられたのはクラスの女子の間でも時々話題に上がるお洒落なカフェ、僕一人なら絶対に来ないようなお店。今もうちの生徒が何人かいる。同じ高校の制服を着た僕と山梨やまなさんに視線が飛んでくる。帰りたい……


 山梨やまなさんは新作スイーツのセットを紅茶で頼み僕はアイスオレを頼んだ。場違い感がハンパない、嗚呼帰りたい。


「改めてあの時は鍵を探す事を手伝って頂きありがとうございます」

「そんな、お礼を言われるような事はしてないよ。あれも僕の自己満足だったんだから、もう気にしないで良いからね」

 もうこれ以上、この話を続けてくれるなという思いを込めた僕の返答の意図が伝わって欲しい。

「あの日は両親の帰りが遅くなると連絡を受けていたので本当に嵩賀谷かさがや先輩に探すのを手伝ってもらえて助かりました」

 僕の意図は伝わらなかったらしい……

「そうなんだね」

 一応、彼女が食べ終わるまでは話に付き合うしかない。流石にまだ食べてる彼女を置いて帰るのは失礼だろうし。モテない僕でもそのくらいの事はわきまえているつもり。でも、本心では今すぐ帰りたい。帰って良いですか?


「……先輩、嵩賀谷かさがや先輩、聞いてますか?」

「あ、ゴメン。そろそろ帰りた、いや、帰らないといけないんだ」

 つい、本音が、取り繕うのも失敗した。帰るっていっちゃたよ。

「分かりました。それでは今度の日曜日にお礼をさせて下さい」

「えっ、い、いや、それは……」

「先輩、連絡先の交換して下さい」

「えっ!?連絡先!?」

「はい、スマホ出して下さい」

「いや、今日、スマホ忘れてて……」

 嘘です。本当はカバンに入ってます。

「そうですか。それなら……」

 山梨やまなさんは手帳にサラサラと自分の連絡先を書いて僕に渡してきた。これ、受け取らないとダメ?ダメなんだろうなあ……

「家に帰ったら、連絡して来て下さいね。日曜日の打ち合わせをしましょう」

「あ、うん……、それじゃあ、僕、帰るね……」

「はい、連絡待っていますね♪」

 なんでか分からないけど山梨やまなさんから向けられた魅力的な筈の笑顔は僕にとっては背筋に冷たいモノを押し付けられた時の様にゾクりとした感覚を覚えるものだった。



嵩賀谷かさがや先輩の連絡先、手に入らなかったなあ。でも、学校からここまで手を繋いでるのみんな見てるから、明日には色々聞かれるんだろうなぁ」

 連絡先を聞けなかった事は計算外だったけど、周りに先輩と付き合ってると思わせる事はできてると思う。こうやって周りから攻めていけば優柔不断そうな嵩賀谷かさがや先輩なら私と付き合う事を認める筈。


 きっと上手くいく。そうしたら、私好みに先輩を変えてあげる。

 ふふっ、楽しみ。私も帰って先輩の連絡を待っていよう。


====================================

このお話しの前から書いていたものに一区切りがついたので順次投稿していこうと思います。


転生聖女は元ゲームキャラ。私ってVRMMOの中から出てきたの?いや、転生と言っていいのか?

https://kakuyomu.jp/works/16817139558186189649/episodes/16817139558186195581


宜しければ読んでみて下さい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る