山梨さんとカフェに行った日のこと

 家に帰った僕は何故かリビングで正座させられていた。

 目の前の床には優璃ゆりのスマホがあり、その画面には僕と山梨やまなさんが手を繋いでいる姿を写した写真が表示されていた。


 学校のSNSに悲報というタイトルで投稿されていたもの。

 教師や親も見る事があるところに投稿するのはやめて欲しい。

 でも、そうだよね、これが普通の反応だよね。

 僕と山梨やまなさんじゃあ学校での立場が違い過ぎるからこんな反応されるよね。


柳一郎りゅういちろうさん」

「ひゃいっ!?」

 いつもと違う温度を感じさせない声で優璃ゆりが僕の名前を呼んだ。おかげで変な声が出た。


「これはどういう事ですか?」

「いや、その、見たままというか……」

山梨やまなさんと付き合っていたのですね」

「そ、そんな事は無い、です……」

「それでは、これは、どういう、こ・と・で・す・か?」

 優璃ゆりはスマホの画面をスクロールして投稿された何枚もの写真を僕に見せてくる。暇人がこんな投稿するくらいなら他の事してれば良いのに!


柳一郎りゅういちろうさん」

「ハイっ!」

「兄妹や幼馴染でもこの歳になって手を繋いで歩くことは無いですよね?」

「はい……」

「それを踏まえた上で、これを見た人がどう捉えると思いますか?」

「それは……」

「そ・れ・は?」

「付き合ってると思われます……」

「そうですよね」


 どうして優璃ゆりはこんなに怒ってるんだろう?優璃ゆりと僕が家族という事を知っている生徒は殆どいないから、僕が非難されても優璃ゆりには影響は無いはずなのに。ホントどうしてなんだろう?


 この後も如何に僕のとった行動が軽率だったかをコンコンと諭された。なんかゴメン。


 優璃ゆりから解放された僕は風呂に入ってさっさと寝る事にした。起きてると明日学校に行った際にどんな視線を向けられるのかと考えてしまうから。



「連絡が来ない……」

 既に夕飯を食べ終えて早く入浴するように言ってきたお母さんの言葉に従って入浴を済ませてお風呂から出て来たところ。スマホを確認しても嵩賀谷かさがや先輩からの着信履歴もメッセージの通知も無い。代わりにクラスメイトからのメッセージは沢山来ていた。

 どれも学校のSNSを見たけどどういう事か問うものばかり。


 ネットリテラシー意識が低い者が学校のSNSに画像をアップロードしていた。

「あ〜あ、これは明日、先生から注意を受けそうだなあ」

 もちろん私を注意してくる事は無いだろうけど、こういった画像を投稿した事については注意されるという意味でなのだけれど。


 半分は思惑通りに嵩賀谷かさがや先輩と私が付き合っていると周りに思わせることができたと思う。

 私の思惑を外れたのはSNSでここまで一気に拡散された事。こんな風に広まればきっと嵩賀谷かさがや先輩の性格なら私との距離を取ろうとするはず。


 嵩賀谷かさがや先輩もSNSを見たんだと思う。連絡をとってこないという事は多分後者だ。私との距離をとって何も無い事をアピールしようとすると思う。


「まったく、嵩賀谷かさがや先輩を私好みに変えていく計画が台無しじゃない……」



 柳一郎りゅういちろうさんが入浴中にさっきまでの事を振り返る。


 優璃はどうして柳一郎りゅういちろうさんと山梨やまなさんが手を繋いでいた画像を見てこんなにモヤモヤした気持ちになったんだろうか。


 思い当たるの事は多くの人が目にするSNSに画像を上げられている事でまた柳一郎りゅういちろうさんが周囲から奇異な目で見られるという事。

 中学の頃はそれで私と莉子りこ姉さんから距離を置くようになった。それまで一緒に過ごしてきた私は、ううん、私達は凄く悲しかった。

 あの時の私達は幼くてどうすれば良いのか分からなかった。だから気が付いた時にはもう、元の関係に戻る事はできなくなっていた。


 その頃からだったと思う。柳一郎りゅういちろうさんが色々な事に諦めた様に接する様になったのは。テスト勉強にも力が入っていない、ただ赤点を取らない様にしているだけ、小さい頃、あれだけ活発に運動もしていたのに今ではすっかり引きこもっていて体力測定も平均以下になっていた。


「あの頃の様に意欲的になってくれないかなあ」

 頼れるお義兄にいちゃんだったあの頃の柳一郎りゅういちろうさん。

 あの頃の私は柳一郎りゅういちろうさんと莉子りこ姉さんと一緒に過ごす事が好きだった。二人は塞ぎ込んでいた私に色々な事を教えてくれた。そのおかげで前向きになる事ができた。時々、振り回される事もあったけれど、今ではそれも良い思い出にする事ができた。


 だからこそ柳一郎りゅういちろうさんには今のままじゃなくて前向きになって欲しいと考えている。


 でも、私の勘では山梨やまなさんの存在は柳一郎りゅういちろうさんにとってプラスになる様には思えなかった。だからずっと彼女の事を警戒していた。

 それなのに最近接触が無いと言っていたから油断していた。

 まさかSNSを利用してくるなんて、これは外堀を埋めにかかっているんだろう。


「明日は柳一郎りゅういちろうさんに色々聞いてくる人がいるんでしょうね。どうにかしたいけど、私まで柳一郎りゅういちろうさんの近くにいたら余計に悪化するのは目に見えています」


 騒ぎになる事は目に見えているんだけど私ができる事は何も思いつかない。せめて家の中くらいは寛げるようにしてあげたい。さっきは感情のまま問い詰めてしまった。注意しないと駄目ね。


 自身にできることが殆ど無いという無力さを感じながらも家事を済ませる。


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このお話しの前から書いていたものに一区切りがついたので順次投稿していこうと思います。


転生聖女は元ゲームキャラ。私ってVRMMOの中から出てきたの?いや、転生と言っていいのか?

https://kakuyomu.jp/works/16817139558186189649/episodes/16817139558186195581


宜しければ読んでみて下さい。

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