愚か者?

 今日は朝から変な目にあったから学校でも何か無いかと身構えて過ごしたのだけれど何事も無く放課後を迎えた。


 いつもの様に部活に向かうかじくんと挨拶を交わして僕も帰る事にする。早く帰ってソシャゲしたい。



「ただいまあ」

 玄関の鍵を開けて家に入る。誰もいないのは分かっているんだけど癖になっていて『ただいまあ』と言ってしまう。

 これで返事があったらホラーだなあ。まあ、そんな事は当然無いんだけどね。


 優璃ゆりからは『帰りに買い物をして帰ります』とメッセージをもらっている。スーパーに寄るのなら荷物持ちくらいはすると返信を返したのだけれど断られた。変にもめるのも嫌だから大人しく優璃ゆりに従う事にした。別に優璃ゆりが怖かったわけじゃない。ホントだよ。


「ただいま帰りました」

 僕が家に帰ってから一時間ほど後に優璃ゆりが帰宅した。

「おかえり」

 リビングのソファーでソシャゲをしていた僕は顔を上げて優璃ゆりに言葉を返す。

「すぐに夕飯の用意をしますね」

「先に着替えて、ゆっくりで良いよ」

 制服のまま夕飯を作り始めそうだったから着替えてくる様に促してみた。そんなに家事を優先しなくても良いのに。

「そうですか、では、買ってきた物を片付けてから着替えてきます」

「うん」

 それに関しては僕の出る幕はない、完全に役立たず。どこに片付けるのかがわからないから仕方がない。あ、普段からやれっていう事ですよね。でも、僕がそういう事をすると優璃ゆりの機嫌が悪くなるんだよね。昔の僕、何したんだろ?


「ホント、できた義妹いもうとだよなあ」

「何か言いましたか?」

「ううん、なんでもない」

「そうですか」

 心の声が漏れてたみたい。でも、ホントにできた義妹いもうとだと思う。毎日、朝早くから夜遅くまで働いている両親、特に母親の代わりに家事の一切を引き受けている優璃ゆり。両親が僕より優璃ゆりを高く評価するのも納得できる様になった。

「それに美人だしなあ、多分、モテるんだろうな。僕と違って……。はぁ」

 嘆いても仕方がない、努力を続けている者とそうで無い者の違い。そんな事はわかっている。けど、つい卑屈な考えが頭によぎりそうになる。

 はぁ、ソシャゲに集中しよ。



 さっきから柳一郎りゅういちろうさんの呟きが聞こえてくるけれど、思わず聞き返さないと信じられない様な事を言われている気がする。

 だって、私の事を『できた義妹いもうとだ』なんて恥ずかしい。

 頬と胸のあたりがぽかぽかとする。これはきっと感謝の言葉を素直になれない柳一郎りゅういちろうさんは聞こえないだろうと思って呟いてるに違いない。きっとそう。


 そう自分に言い聞かせてお肉、お魚、野菜と順に冷蔵庫に片付けていく。今はちょっと照れくさくて柳一郎りゅういちろうさんの顔を見ることができそうにない。


 美人!?今、柳一郎りゅういちろうさん美人って言ったの、私の事!?

 そんな風に思われてる事に頬が熱を帯びる。嬉しい、けど恥ずかしい……


 あの後、なんとか平静を装って部屋に行って着替えと一緒に頭を落ち着かせる。冷静に、冷静に。私達は家族なんだから。

 この時の私は、義理の兄妹である私と柳一郎りゅういちろうさんが結婚できる事を知らなかった。だから、柳一郎りゅういちろうさんに寄せている想いや美人と言われて嬉しく感じている事に背徳的な喜びを感じている自分が信じられなかった。



「ご馳走様」

「はい、お粗末様でした」

 さて、食器を流しに持っていって部屋に戻ろうかな。

「ところで柳一郎りゅういちろうさん、来週からのテストは大丈夫です?」

 はっ、テスト!?

「その顔は忘れていましたね?」

「ソンナコトナイヨ……」

「本当は?」

「はい……、忘れていました……」

 そういえばそんな時期だった……、すっかり忘れてた。

「まさか、テスト範囲が分からないって事は無いですよね?」

 スゥーっと僕の視線は優璃ゆりから右へと流れていった。これだけで皆んなはわかるよね。僕はなんて愚かなんだろうか……


「分かりました。今日からテストまでの間、私が柳一郎りゅういちろうさんの勉強を見る事にします」

「いや、それは、悪いというか……」

「このままだと、補習もあり得ますよ?」

「んっ!?」

 僕は優璃ゆりと違って真面目に勉強に取り組んでいるとはいえない。それでもそこまで頭が悪いとは思っていない。だって、通っているのは一応、進学校として名の知れている高校だし、普段は中の上くらいの成績を維持していたからね。でもね、範囲が分からないのはマズイ、優璃ゆりが教えてくれるというのならそれに越した事は無いんだけど、ちょっと情けないよね僕……、だから、


「よろしくお願いしますっ!」

 僕はビシッと音がしそうな勢いで優璃ゆりに頭を下げた。

 はい、役に立たないプライドなんて要らない。それよりも補修を受けないことの方が重要。ソシャゲの時間が減る。


 優璃ゆりは呆れているのか、ふうっと息を吐いた。

「はい、それでは片付けが済んだら始めましょうか?」

「ああ、お願いする」



 優璃ゆり先生の授業は初日の数学から。

 僕のとりあえず詰め込む勉強と違って理解を積み重ねていく様な勉強だった。理解してから次の問題に進む事で応用力が身に付いてくるという教え方だった。まあ、僕が公式をきちんと覚えていなかったりで優璃ゆり先生には迷惑をかけているんだけどね。



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明日からちょっと忙しくなるので更新ができないかも知れません。

すみません。

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