32_『まだ見ぬあなたへ』
「……あと、何体ですか?」
「スロットを考えるに、7体は欲しいな」
「普通に多いじゃんっ!」
リリィちゃんの口から漏れる不満。
わたしの思考を代弁しながらも、彼女は《シーカー》の柄を強く握りしめたまま視線を次の敵へと向けます。
『素材集めがしたい。それも、一人じゃ狩りきれないぐらいの——そうだな。【リザード】ぐらいのを』
本がどこにあるか——という情報の代わりに彼女が提示してきたのは、素材集めの手伝いをすること——そこそこの上位素材を求めてのもの、でした。
けれど、カルカさんたちを待つにせよ、どれくらいかかるのかを彼女は教えてくれません。また、狩りをすること自体も、さほどデメリットではありませんでした。
“未開域”もですが、スイさんの目的であるレベリングも兼ねたいと思っていたところです。
パーティーを組めない以上、経験値は共有できませんが、アシストやトドメをさすだけでも経験値自体は入ってきます。
相談ののち、結局最後は全員折れてしまって。わたしたちは、洞窟のすぐ外——砂漠地帯で狩りをしていました。
彼女が対象としていて、実際に今相対しているモンスター——【リュビアル・リザード】はその名の通り、全身が金属質の砂で覆われたトカゲ型のモンスターです。
それも、ギルドホームもとい洞窟のすぐ近く“未開域“からそう遠くないエリアに出るだけあり、決して弱い相手ではありません。
「——《フレイムバレット》っ!」
機動力こそあまりありませんが、耐久も攻撃力も全身の硬度故か、そこそこ高いもの。その上、魔法にも最低限の耐性があります。
だからこそ——。
「リリィちゃん! 《見切り》をもう一度お願いしますっ!」
「りょーかいっ!」
すぐさまHPバーの隣に表示される《見切り》のアイコン。
同時に【リザード】の表面に浮かぶクリティカルサークル。
表示箇所は三つ。あまり多いものではありません。
「——《ドゥ・フレイムバレット》っ!」
二ヶ所同時に放たれた炎弾、そのうち反応したのはゼロ。ということは、残っている箇所——首元が弱点であるはず。
「《フレイム・バレット》っ!」
こちらが硬直している最中に接近すると同時に、その鋭爪で一撃食らわそうとしてくる手前、放たれた三発目の炎弾は残ったクリティカルサークルに命中し、青いダメージエフェクトを飛び散らせると同時に、残ったHPを一気に空にします。
すんでのところで【リザード】はポリゴン片へと変化し、霧散しました。
ちらとHPバーを一瞥します。
やはり《共依存》のデメリットは大きいもの、もうすぐ半分を割りそうです。移動がてら回復薬を飲み干して、再び次の【リザード】の元へ向かいます。
隙を見てリリィちゃんが《共振の天秤》を使ってくれたのか、減っていたMPは多少回復していました。
お礼の念も込めて、わたしも軽く指輪を撫ぜて《天秤》を発動させ、こちらからはHPを送ります。
これで互いにある程度HP・MP管理は十分。
「——《ドゥ・フレイムバレット》」
口先で呪文を唱えながら、わたしは次の【リザード】へ攻撃を仕掛けました。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「あとどれくらいっ!?」
「二体っ!」
「——じゃあ、あと少しだねっ!」
コリスちゃんが送ってくれたらしいHPバーを見て一息吐きながら、もう
視線の先ではトカゲ——コリスちゃん曰く【リュビアル・リザード】がちょうどこっちを捉えたところだった。
ちらと隣を見てみれば、スイさんとベラちゃんも戦闘中、あたしが倒せばいいのはこの【リザード】一体だけだ。
予備動作はもう済ませた。表示されている弱点は三つ。
「シャアッ!」
短い足で砂を踏み込むと同時に、雄叫びを一度。
【リザード】は飛びかかってきた。
でも、向こうから来てくれた分、むしろ——楽かも。
僅かに身を捩り、攻撃で受けるダメージを最小限に止まらせる。
幸い、爪は脇腹を少し掠っただけ。そんなに大きなHPの減りじゃない。
そして、できた大きな隙。
——キュィィィィン!!
引き絞った《シーカー》が纏う青い光と振動。
そのまま、ターゲットを一ヶ所目——腹部に合わせて、瞬きをする。
「——シャッ!?」
少しの抵抗こそあったけど、剣先はしっかりと一つ目のサークルを捉えて、貫いた。
弱点じゃなかったせいか倒すまではいかなかったけど——これなら削り切れる。
剣を引き、硬直をキャンセル。
もう一度レイピアが光を纏うと同時に、衝撃で弾き飛ばされた【リザード】に合わせたサークル、瞬きと共に、強く踏み込んだ足場。
——パキィンッ!
勢いづいた剣先、飛び散る青い火花。
一切の抵抗がなくなって、【リザード】は素材を残して飛散した。
「リリィちゃん、大丈夫でしたか?」
思わずふと一息吐いた時、ちょうど視界の端に、リザちゃんを連れたコリスちゃんがこちらに向かってきているのが映った。
「うん、わたしは特に。リザちゃんは?」
「ええ。もうすぐで終わりだと聞いたので連れてきました」
「……ごめんね、待たせちゃって」
コリスちゃんが安全地帯から連れて来てくれたリザちゃんに、待たせたことへの謝罪をしながら、軽く頭を撫でる。
「……別に。そんなに待ったわけじゃないもの」
まだ口先で言っていることこそ、少し刺々しいけど、態度は案外素直だ。
頭を撫でられることにも特に抵抗する素振りは見せず、されるがまま。
「……でも、髪、少しクズれちゃったみたい。あとで直してくれる?」
それに、髪型も。
最初は結構嫌がってたのに、なんだかんだで髪型は今日もツインテール。むしろ、最近は自分からせがんでくるようになっていた。
「もちろんだよ。すぐ洞窟に戻るから——でも、その前に……」
そんな少しばかりの触れ合いの時間に思いを馳せながらも、少しだけ不安があって。ベラさんの方に視線を向けた時だった。
ナイフと小柄な体。
見た目に違わず、すばしっこく動き回りながら、ベラちゃんは【リザード】に攻撃していた。
だけど、動きが激しい分、砂に足を取られて。
小柄なせいでその僅かなミスが大きく響いたみたいだった。
一瞬、崩れたバランス。【リザード】がその隙を逃さず、襲い掛かろうとした時——。
「——やああああっ!!」
一閃。
真上から振り下ろされた剣によって、飛散する【リザード】。
「……まったく。もう少し周りに注意しなさいよ」
散った粒子を跳ね除けながら前に出たスイさんは、少し嫌味っぽく言いながらも手を伸ばす。
余計なお世話だったみたい——なんて、軽く考えながら。
まだ尻餅をついたままのベラちゃんの方に向かう。
「……むぅ、一人で立てるし」
ベラちゃんは、伸ばされた手から視線を逸らし、一人で立とうとして——また尻餅をつく。
「——別に。一応はアタシの方が年上みたいだから。これぐらいはするわよ」
スイさんは自分から手を掴みに行って。
ベラちゃんは少し、バツの悪そうな顔をしたあと、結局は自分からもう一度手を掴み直して、それからようやく立ち上がった。
「……年上だからって……どんな理由……」
「ほら、そういう素直じゃないところ。なんだか、ちょっと放っておけなくなっちゃうのよね」
「——っ。……余計な、お世話」
消え入りそうな声だけが聞こえてきて。
ちょうどスイさんとは真反対。こちらを向いたベラちゃんの顔は、随分と赤くなっていた。
「あ、コリスさん。集まったの?」
「ええ。二人合わせてノルマ達成です」
スイさんの質問にコリスちゃんが返事をする。
「じゃあ、確認しよっか」
言い出しっぺのくせに少し縮こまっているベラちゃんはさておき。一度、みんなで集まったアイテムを確認しようとした時だった。
「——ベラっ!? アンタ、何を——!?」
そこら中にドスの効いた声が響いて。
そっちを向いた時——そこには、鬼の形相をしたカルカさんが立っていた。
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