第14話 一朝一夕の魔導士
「フリンは呪文がつかえないんだってさ!」
「何それ!?私たちは難なく使えるっていうのに」
「それはそうだよ!俺たちは貴族の子でフリンは平凡な庶民の子なんだから当然さ!」
フリンが勇者のおとぎ話の絵本を読んでいる最中に急に三人の貴族の子供からフリンは呪文が使えないから勇者の仲間になんて慣れやしないと呪文が使えないことで罵られしまいには関係のない身分のせいだともいわれてしまった。
周りの子もフリンと同じように呪文を使える子が多かった訳ではないけれどフリンは貴族の子供たちにそういわれたことが悔しかった。
家に帰るまでの道でフリンは泣きそうになるのを堪えながら歩いていると離れの湖がある方向から物音が聞こえてくるとフリンはその物音が鳴る湖の方向へと向かった。
湖に着くとそのほとりで一人の少年が両手を湖に向けて出していて何かをしようとしていた。
フリンはその少年の動向を観察するために近くの木の陰でじっと見ている。
しばらくすると少年は火の呪文の中で中級である【ファラン】を唱えると手のひらの先に火を集中させてそれを湖に向けて放つ。
するとその呪文によって放たれた火は湖に直撃して大きな噴水みたいな水しぶきを上げた。
フリンはファランによって起きた水しぶきのデカさに驚いていた。
その呪文はいじめていた貴族の子たちの誰よりも凄い威力があったからだ。
少年は貴族が呪文を使った際に振るっていた杖を持っていないようだがこの時のフリンは特に気にしてはいなかった。
あれほどの呪文を放ったからなのか少年は立っていることができず地面に膝をつく。
フリンは心配して少年のもとに寄ろうとしたが少年は再び立ち上がり先程ファランを放ったときと同じ姿勢を取る。
この時フリンは自分もあの少年が使っていた呪文が使えるようになればいじめられることもないだろうかと考えていた。
そして自分もあの少年と同じように努力すればきっと……。
フリンはそう信じてすぐに家に帰り母親から呪文について聞いてみた。
母親に聞いてから気がついたのだが魔道士は基本杖を通して呪文を放っている。
先程の少年がやっていたみたいに杖を使わなくても呪文は放てるには放てるのだがそうしてしまうと呪文を対象に放つ際の精度が落ち、更には魔力の消費も多くなるため杖を使うことによってそれらを制御しているようだ。
ただ魔道士が使う杖は店で買うにも値が張るので魔力がまだ成熟していない子どもの内から杖を買う必要はなく持っているとしても貴族ぐらいしかいないらしい。
それでもあの少年とと同じように呪文を使えるようになりたかったフリンは母親に杖がなくても呪文が使えるようになる方法を教えてもらった。
その後フリンは自室で呪文の勉強を始め、一ヶ月ぐらい経った頃にまたあの少年がいる湖に向かい実際に呪文を使ってみることにした。
子供が呪文を使う際、魔力がすぐに無くなってしまい体が動けなくなってしまう場合があるため保護者が同伴する必要があるがあの少年は一人で呪文を放っていたから大丈夫と思っていた。
湖に着くといつも呪文を放って練習をしている少年の姿は無かったがフリンは気にせず呪文を放つ構えを取る。
フリンは目を閉じて前に出している両手の掌の先に魔力を集中させる。
少年は中級の呪文のファランを放っていたがフリンはまだ初めてであり魔力の消費を抑えるためファラの呪文を放とうとする。
放つ対象である湖を目視するために目を開けて詠唱する。
「ファラ!!」
フリンが呪文を唱えると掌の先に火が出現してそのまま湖の方へと放たれる。
放たれた火はやがて湖の水面へと当たり白い蒸気と共に消える。
できた!あの少年ほど威力は出ないけど初めて呪文が使えるようになったんだと思っていたフリンは喜んではしゃいでいると急に全身の力が抜けていく感覚に陥り視界もぼやけていきその場で倒れ込んでしまった。
フリンは気がつくと先程の湖の近くにある木の下で寝ていたようだ。
確かつい先ほどフリンは呪文を湖に放った後気を失って倒れてしまったはずなので誰かがフリンに気が付いてここまで運んできてくれたのだろうかと考えていると自分の体にいつもここで練習をしていた少年の上着が寝ていたフリンに掛けられていたことに気が付き、あの少年が運んでくれたのだと思い周りを見渡すがその少年の姿は見つからない。
「気がついたか……調子はどうだ?」
急に木の裏の方から声がしてその方向から姿を現したその少年はどうやら気を失っていたフリンをこの場まで運んでずっと様子を見てくれていたようだった。
「ありがとう……楽になったよ、あっこれ返すね!うわっ!?」
フリンは様子を見てくれた少年に感謝を述べて上着をその少年に返そうと起き上がるとまだ上手く足に力を入れられずその場で尻もちをついてしまう。
「おい!?大丈夫か?……杖もなく呪文を放ったせいで魔力が暴発したんだ、しばらくは安静にしておいた方が良い」
「ごめん……呪文の練習の邪魔になっちゃったよね……」
フリンはそう言って申し訳なさそうに借りていた上着を少年に返した。
「俺がここで密かに練習してたの知ってたのか……親にばれないかな……」
「ここで君が呪文の練習してたのは誰にも言わないから!」
この少年は親には内緒でここで呪文の練習をしていたことをフリンが他の人に言いふらすのではないかと考えていたのかフリンは少年に他言はしないことを口で約束した。
「まぁそれならいいか……」
意外とこの少年は他人を疑うことをしない性格なのかすんなりフリンの言葉を信じた。
「それとあんまり気にするな、呪文の練習はいくらでもできるし」
その少年はフリンから上着をもらってそのまま羽織りフリンの横に座って話を聞いてきた。
「それにしても俺以外にもこの町で杖無しで呪文を放てるやつがいるとは知らなかったな…………いつから使えるようになったんだ?」
「……ついさっき…………」
フリンがそう答えるとその少年はあぁそれでかとフリンが倒れていた理由に納得したようだった。
「お前が呪文を放つ瞬間をここから見ていたけど魔力もほとんどないのにさすがに放つ呪文の魔力の制御ができていなさすぎだ……お前今までどうやって呪文使ってたんだよ」
「私ついさっき初めて呪文使ったんだから呪文の魔力の制御の仕方なんてわかるわけないじゃん!」
少年から説教じみたことを言われたフリンだがつい先ほど初めて呪文を放ったのだから魔力の制御なんてできるわけないと少し怒りながら言った。
「えっ!?お前さっき放った呪文が初めて放った呪文なのか?」
「そうよ!何か悪い?」
フリンはこの少年が呆れてまた説教でも何か始めるんじゃないかと考えていたが全く違う答えが返ってきた。
「お前天才かよ!?ファラの消費魔力量がどれくらいか分からずに自力で制御してはなったっていうのか?」
「う~ん……自力で制御したのかわかんないけど感覚で魔力を掌の前に集中させたら撃てたけど……」
「そうなると……無意識で魔力の制御を行っていて呪文が撃てるのか……けどそれだと精度は落ちるはずだ、君は掌に魔力を集中するために確か目を閉じていたから対象を捉えられないはずだ!」
「ええと……それは……呪文を放つ際に目を開けていたからかな?」
「なるほど……そういうことか……」
急に少年は何かのスイッチが入ってフリンに入念に質問攻めをしてくるようになりフリンも若干引き気味になっていた。
それでもこの時のフリンは真剣に呪文のことについて考えているこの少年をみてこの前見た噴水ほどの水しぶきを上げるほどの威力がある呪文がつかえることも納得がつく。
「なぁ!おまえこの町で呪文について学べる施設に入学しないのか?」
「えっ!?」
確かにこの少年の言う通りフリンはもうすでに呪文は使えるので問題なくこの町で有名な呪文を学べる施設に入学できるのだが今まで貴族の子たちから呪文がつかえないフリンは魔道士にも慣れないと馬鹿にされてきて魔道士になることすら考えていなかったのでその道をあきらめていたのか少年が言ったその言葉に素直に驚いていた。
フリンは少し考えるが小さい時から憧れていた勇者の仲間のとして冒険したいという気持ちがすぐに魔道士になるという道を示した。
「うん!私は魔導士になりたい!!だから施設にも入学しようと思ってる」
フリンが立ち上がって魔導士になるという夢を掲げるとその少年も立ち上がる。
「俺も一緒だ!俺も魔道士になって世界に名を馳せるそんざいになるんだ!」
この少年も当然と言えば当然だがフリンと同じように魔道士を目指していたようだった。
「そういえば互いに名前聞いてなかったな……おれは『アイゼン』だよろしくな!」
「私フリンよろしくねアイゼン!」
こうして二人の魔道士は当時互いの夢を約束した。
その後フリンは家へ帰り母親に呪文を研究している施設に学生として入学したいことを告げると杖を買ってもらい入学までの間その杖と一緒に呪文の鍛錬に励んだ。
入学の時互いに魔導士になることを約束した二人は再び出会い、学生時代二人は魔導士としてのレベルを日々高め合っていた。
フリンがふと目を開けてると見慣れた部屋のソファの上で目覚めた。
昨日勇者達は魔王の情報を得るためその道中にあるフリンの故郷ファンデーグの町に到着してフリンの実家で一夜を過ごすことになった。
起き上がったフリンは昨日の夜ベッドの取り合いで勝ち残ったセレーナとエマを起こそうとしたが二人はベッドが狭いせいか仲睦まじく互いを抱き合うような形で寝ていたため起こすのも申し訳ないと思ってしまい二人をそのままに着替えて下の階へと降りて行った。
階段を降りる途中キッチンの方から朝食の美味しそうな匂いが漂ってきてリビングに出るとテーブルには既に起きていた勇者がいてその勇者に母親が何か教えている最中だった。
「おはよ~フリン、朝食もうできてるわよ……そうそうこれがこうなってて……」
フリンは二人が何をしているのか気になりリビングの二人の元へと近づいていく。
「おはよう……二人とも何やってるの?こんな朝早くから」
「おはようフリン!今フリンのお母さんに呪文について教えてもらってたんだよ」
フリンはテーブルの上を見ると数冊の呪文に関する本が開かれていてフリンも何度か読んだことある初級呪文について書かれている本を勇者は読んでいる最中だった。
「また何で呪文なんか……私じゃ力量不足ってことかしら?」
「いやっ!違うって!覚えておくと便利になるかなって思っただけで!」
フリンは冗談で皮肉じみたことを勇者に投げかけたがそもそも勇者は両手に盾と剣を使って戦うスタイルなので杖が使えなくなってしまう。
「呪文を使うにしてもあんた盾と剣を持ちながらどうやって杖を使うのよ?」
「……別に杖が無くたって呪文は使えるんだろ?実際フリンも使えてたって聞いたし」
「それは!!……」
フリンは杖を使わずに呪文を放つのがどれぐらい大変か身を持って経験しているので勇者の意見を否定しようとしたが一度冷静になって考えてみれば今すぐに使えるようにする必要はなく練習を重ねて使えるようにしていけばいいだけなのではないかという考えが思い浮かんだ。
「……分かったわ……呪文がどういうものかは一通りお母さんに聞いたのよね?……それじゃあ今からその杖無しで呪文を使えるようにするためにある場所で少し練習しに行きましょう」
フリンがそう言うとすぐに支度を始めいつもフリンが呪文の練習をしている場所へと向かう準備をし始める。
「よっしゃ!流石フリン先生だ!早く準備して行こうぜ!」
勇者もウキウキで準備を済ませた。
フリンと勇者は呪文の練習をするためフリンが子供の頃から呪文の練習に使っていた場所である湖のほとりにやってきた。
学生時代から久しぶりにこの場所に訪れたがあの時とほぼ景色も変わっていなかった。
「……え~と……それじゃあまずは見本を見せながら教えるわね」
実はフリンも最初こそ杖を持たずに呪文を放ってはいたがそれ以降杖を持ち始めてからは杖を待たずに呪文を放つ機会はほぼ無く、今まで両手で数えるぐらいしか機会が無かったので当時の記憶をたどりながら教えることになる。
フリンはその記憶を頼りに構えを取るとそれを見ている勇者の目も真剣な眼差しを送る。
「まず呪文を放つ位置を確認するために手を前に出す、これは最初は両手でやったほうが感覚をつかみやすいわ……」
フリンは自分にも言い聞かせるように勇者に説明をしながら両手を前に出す。
「次からが重要で呪文を掌の先に伝えるために自分の体に流れる魔力をまずは感知する必要があるの……まだその魔力を感知できない序盤のうちは目を閉じて集中したほうがいいわ……」
すると普段でであれば杖の先から出している火の呪文をフリンは掌の先から出現させた。
「……後は呪文を放つ対象を目で捉えてから呪文の詠唱をすると狙った対象に呪文を放つことができるわ……ファラガ!」
フリンは上級の火の呪文【ファラガ】を唱え湖に放つ。
ものすごい熱量の火が水面に当たるとそれは噴水よりもでかい水しぶきを上げてその水が勇者たちの周りを雨のように降ってきた。
「すっげぇ……」
久しぶりに杖を持たずに呪文を唱えたので上手くいくか心配だったがとりあえず見本としてはよくできたかなとフリンは思った。
「それじゃあ実際に初級の呪文からやってみましょう!」
勇者もフリンが見せた姿勢と同じ姿勢を取り掌を前に上げて目を閉じる。
「……集中して自分の中を流れている魔力を感じる……」
勇者がじっと目を閉じて真剣に魔力を感じようとしている。
フリンは正直勇者が直ぐに魔力を感じることはできないだろうと思っていた。
その理由が杖を使わなくても呪文を放つ際に肝になってくる部分がそこだからだ。
普通の魔道士でも普段感じることができない部分なので一度も呪文を使ったことがない勇者にとっては尚更その感覚は分かりにくいからだ。
すると勇者は何かを察知したのか眉をピクリと動かした。
「見えた!!これか!!」
勇者の口からその言葉を聞いたフリンは驚いていたがさらにこれだけでは終わらなかった。
なんと勇者はそこから掌の先に火を出現させる。
火を出した勇者は目を見開き放つ対象である湖を視認する。
「ファラ!!」
勇者が呪文を唱えると掌に出現した火は湖の方向へ一直線に進んでいきやがて水面へと当たり白い蒸気を出して消えた。
「うそっ!?」
ここまで勇者が魔力を感知してから火の呪文を放つまでの間が驚きの連続すぎてフリンは言葉を失っていた。
「よっしゃー!!できたぞ!!」
そんな喜んでいる勇者を見てフリンはその勇者の姿に当時の自分を照らし合わせた。
まさかアイゼンがあんなに苦労してたことをこんな簡単にやってしまうとは、ましてやフリンでも呪文のことを一ヶ月勉強してやっとできたことなのにこの勇者は一朝一夕でやってしまったことにフリンは驚きを隠せなかった。
しばらく興奮している勇者を見てフリンは魔力の消費の心配をして勇者に声をかけた。
「勇者!!体は大丈夫そう?」
すると勇者は自分の体を見てなんともなそうと言っていた。
さらにどうやら勇者はフリンが初めて呪文を使ったときとは別に無自覚で魔力の制御もできていたようだった。
フリンはあんな勇者が私を超えてくるなんてと思い失望しかけていたが子供の頃に読んでいた絵本のことを思い出したらそれが安心した気持ちにもなっていた。
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