第12話 北の町ファンデーグ
日が昇り始めギルドの店も開店してきたころに勇者一行はギルドを後にファンデーグの町に向かおうとしていた。
「フリン良いのか……あの冒険者と会って話をしなくても……」
ギルドを出る前に勇者は再びフリンにあの冒険者と会って話をしなくてもいいのか確認をした。
「いいのよ……今の私達は魔王の討伐が最優先でしょ、それが達成できればいつでも会いに行けるわよ……」
フリンはそういうとセレーナとエマも待っているファンデーグの町へと続くギルドの出入り口の方に振り返らず歩いていく。
「確かにな……」
勇者も独り言をつぶやくとみんなが待っている所へと向かう。
みんなのいる場所へ来るとエマが勇者のもとへ寄ってきた。
「良かったんですか?フリンさんをあの冒険者と会わせなくても……」
エマももちろんこのことは知っていてセレーナに用事があるから待っていてほしいと話は通してあるのだが当の本人が大丈夫というのでそのままファンデーグの町へ向かうことになったのだ。
「魔王を倒した後だったら好きなだけ話せるだろうってさ……」
「気持ちの整理もあるかもしれませんからね……」
そんなこんなで勇者一行はギルドを後にファンデーグの町へと向かう。
ギルドからファンデーグの町まではそこまで離れておらず徒歩でも余裕を持って日没よりも前に到着する距離にあるとされている。
ただ勇者たちの本来の目的である魔王の情報がある場所は実はファンデーグの町ではなく、その先の山を超えた先にある集落にあるのでファンデーグの町には一泊だけして翌日にはその集落に向かうためファンデーグの町を後にする予定だ。
その集落は昔から勇者を信仰しているような集落らしく勇者に予言を伝えてくれる人もいるとか。
そんな半信半疑の情報をもとに勇者達はその集落を目指す。
「ファンデーグの町って歩いてもすぐに到着するんだよな?」
「あぁ魔物もめったに出ないし町民や子供でも行けるような距離だからあっという間に到着するだろうな、とりあえずファンデーグの町に着いたら宿を確保するところからだな……」
確かにセレーナの言うとおり町の外なのに先程から魔物の気配どころか人が散歩気分でファンデーグの町へと向かう人もいるぐらいだ。
それにしてもギルドの宿は狭いわけではなかったがフリンと同室だったこともあるせいか気持ち狭めに感じていたからファンデーグの町では一日ではあるものの多少マシな宿に泊まりたいと勇者は祈っていた。
「宿なら問題ないわよ、ファンデーグの町には私の実家があるからそこでみんな泊まれると思うし探す必要はないわ」
「実家……!?」
「えぇ、ファンデーグの町は私の故郷の町よ」
ギルドからそう離れていないフリンの故郷でもあるファンデーグの町に着いた勇者たちはそのフリンの実家がある場所へと向かう。
フリンに付いていくととある一軒家の前にたどり着きフリンがその家の玄関の扉を叩き少し待つと中から女性の方が扉を開けてきた。
「おまたせ……あらフリンじゃない!おかえりなさい!」
「ただいま!お母さん、実は今日は用事のついでに帰ってきててさ仲間と一緒に泊まっても大丈夫?」
「えぇ、問題ないわよ……もしかしてあちらの方たちがそのお仲間さん達かしら?」
「初めましてフリンのお母様、私達はフリンさんと一緒に冒険者として活動させていただいているセレーナと申します」
「これはご丁寧にありがとうございます、お仲間さん達もよろしければ中へどうぞ」
勇者達はフリンのお母さんの心遣いに甘えてフリンの実家の中へと入っていく。
中に入ると玄関からすぐ手前に居間のスペースがあり奥にキッチンが備えられている。
「今から泊まれるよう準備してくるわね」
フリンのお母さんがみんなの分の寝床を作ってくれようと寝室があるであろう二階へと向かおうとしていた。
「申し訳ありません……勝手に来た身でありながら泊まれるように手配していただいて……」
セレーナが感謝の言葉を述べるとフリンのお母さんはいいのよ気にしないでと一言いって二階へと上がっていく。
「まだ時間もあるしどうせだったらこの町を見て回ってみる?」
「「さんせー!!」」
フリンの提案に勇者とエマが元気よく返事をする。
二人が行く気満々だったのでフリンも町の案内役としてついていくことになりセレーナも一人残るのもどうしたものかということで気分転換の意味も込めて全員で町を見回ることになった。
ファンデーグの町はテェザータの町ほど盛んな町ではないが以前滞在していたギルドよりも人口は多く規模はでかい。
その理由としてこの町の離れには貴族が多く住んでいる地区がありファンデーグの町は貴族が多く住んでいる町として有名になっている。
町を歩く人の何人かは派手な装飾で着飾っている人が多い印象だ。
そんなファンデーグの町だがそれよりも有名とされる施設があることも市民が多い理由の一つだ。
「それであの建物が呪文を研究している施設になっていて呪文の教育も受けられるの」
フリンが指した建物は王城にも等しいサイズの建造物が建てられておりそこはどうやらフリンやエマが使う呪文を研究している施設であるようで日々呪文の研究をすることによって今に変わる代替の呪文なんかが開発されたりする。
それに伴い冒険者として活動している魔道士なんかも研究施設で教育を受けて冒険者になった人も数知れない。
「私もあの施設で呪文の勉強をして冒険者になったのよ」
「ファンデーグの町の研究施設って呪文の研究として名高い場所じゃなかったか?以外にもフリンは魔道士として有名なんだな……」
「以外ってなによ!私だって当時は学年でも三番目に優秀だったんだから!」
フリンの言葉を聞いたセレーナとエマは凄いとフリンを褒めていた。
勇者は驚きこそしなかったが有名な施設の教育を受けてそこで三番目に優秀だったと聞いて考えてみれば普通に優秀な魔道士ということになるのだろうと感じていた。
勇者たちはその広い土地を占める研究施設から少し離れた場所にある居住区の方へと入っていく。
「それにしてもすごいですよフリンさん!優秀な生徒がいるあの施設出身で三番目に優秀だったなんて!」
「そんなことないわよ、呪文は勉強すれば誰でも扱えるようなものだし私より優秀な魔道士なんてこの世にいくらでもいるわ」
エマが先程の話をまだ引きずっておりフリンもそれを聞き続けて恥ずかしくなっていっている。
勇者とセレーナの前でエマとフリンが仲良く話していると町角から人影が現れる。
「エマ!!」
セレーナが町角から現れた人物とぶつかりそうになりいち早くエマに声を掛けるがすでに手遅れでエマはその人物とぶつかってしまう。
ぶつかってしまったエマはあたってしまった男性の人物と体格差もあってか床に尻餅をついてしまう。
「すいませんでした……」
倒れたエマがぶつかってしまった人物に対して謝罪の言葉を投げるが当たった人物は何も言わなかった。
その後倒れたエマに向かってセレーナが倒れたエマを起こそうと掛けよりフリンはそのぶつかった人物をみて驚いた表情を浮かべた同時にぶつかった人物が急に倒れたエマにめがけて蹴れを入れようとするが蹴られる瞬間に勇者がその男性の蹴りを止める。
「お前……何やってんだ!」
勇者がエマにぶつかった人物に珍しく怒りをあらわにするとその男性がようやく言葉を発した。
「この貴族である僕にぶつかった奴を蹴ろうとした……それの何が悪いんだ?」
最初、勇者はこの男性の言っている意味が分からなかったが勇者はこの男性が貴族という言葉を発していたことに気がつく。
この世界の貴族は一部の地域では市民から忌み嫌われているとフリンが言っていたことを途端に思い出す。
するとフリンがその貴族の男性の前に来ると頭を下げて謝罪をしだした。
「ルッケル……ごめんなさい、私達が悪かったわ……」
「ん……もしかしてお前……あのフリンか?」
お互いが名前を知っている通り二人とも知った顔なのだろうか。
それでもフリンの相手が貴族だということから関係はそこまで良くないのが分かる。
「えぇ、だから今回は見逃してもらってもいいかしら……」
「ふんッ……どうしてやろうかな~……まぁお前には借りもあるから考えてやらんこともないな」
貴族が妬ましくフリンに対して高圧的な態度を取っていると貴族が現れた町角の影からまたもう一人姿を表した
「ルッケル……もうやめろ、格下とやったところで何も得られはしない」
影から現れたその男によって貴族の男も気持ちを落ち着かせた。
「アイゼンにそう言われたら引くしかないよな~」
貴族がそう言い残すと現れた町角の方へと消えていきようやく事態が収まるかと思われたがフリンが貴族の方ではなく付き添いの人に声を掛けた。
「アイゼン!あんた本気であんなやつについていくつもりなの?」
フリンに声をかけられた人物がフリンの声に一瞬足を止めてる。
「俺は最善の選択をしたまでだ……お前こそあいつらからは逃れられないぞ……」
放たれた答えには不穏を感じてしまうように聞こえた。
それだけ言い残しアイゼンというどこか不気味な雰囲気を醸し出している人物は貴族が消えていった町角と同じ道を辿って消えていった。
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