第11話 別れ


 数週間、勇者たちはギルドに滞在しながらクエストを受けつつ旅の資金を貯めていった。

 そしてようやく臨時の報酬が貰える勇者とエマのシルバーランク昇格の時がやってきた。


 勇者とエマはクエストの完了報告とシルバーランク昇格する際に貰える臨時の報酬を貰いに来ていた。


「はい、それでは手続き終わりましたのでこちらがシルバーランクの冒険者カードになりますのでお渡しします」


 勇者とエマに渡された冒険者カードはブロンズランクとはまた違った装飾が施されていて枠も銀色になっている。


「そしてシルバーランクに昇格した臨時の報酬としてギルドから金貨10枚ずつを差し上げます、これからも冒険者としての活動期待しております」


「「ありがとうございます!」」

 

 勇者とエマは声を揃えて感謝を述べると恐らく金貨10枚が入っているであろう袋を受け取り受付所を離れる。


「これでようやく次の町へ向かうことができますね!!」


「ギルドの生活も悪くなかったけど早く次の町を見てみたいぜ!!」


 二人は子供のようにはしゃぎながら金貨の入った袋を握りしめ宿へ帰ろうとしていた。

 セレーナとフリンは別で道具の買い出しに向かっているので先に宿につくことができるであろうと思っていた矢先、突然勇者とエマの背後からある男性に声をかけられる。


「あっ!……おい!君は確か以前に道具屋でフリンといた人じゃないか?」


 声を掛けられ振り返るとどこかで見たことがある男性の冒険者がいた。


「あー!前のフリンの仲間だった人か」


「あっ……あぁその通りだ……ていうことはフリンはもうお前らに話しているのか……」


 勇者とは別に知らない人から声を掛けられ勇者と何の話をしているのか分からずオドオドしているエマに気が付き勇者が状況を説明する。


 

「そういう事があったんですね……」


 エマもようやく勇者とこの冒険者との関係が分かって納得した。


「そうか……フリンは俺が以前の仲間だったことは話してあるんだな……まぁそんな訳で今回お前らを止めたのは他でもねぇ、俺たちとフリンのことを話しておきたくて……」


「そういえば、フリンの話によると以前のあんた達の仲間内に貴族の人が入ったのが原因でフリンは仲間を抜けたって聞いたけど……」


 冒険者は視線を下に向けて話始めた。


「フリンが言ってた通り貴族が入ったのが原因で抜けたっていうのは事実だ……当時は俺がフリンのことをもっとよく知っていればとか思っていたけど今ではその貴族を見たら考えが変わってフリンの取った行動が正解だったかもなって思っちまう……」


「フリンさんが正解って……その貴族の方は冒険者さんになにかしたんですか?」


「何かしたってほどではないが何か上手くいかないことがあれば全部仲間のせいにするようなやつでな……毎日まいってるよ……」

 

 この冒険者はどうやらまだその貴族と同じ仲間として活動しているらしく日々苦労していることがうかがえる。


「今の話を聞くに別にお前はフリンのことを嫌っているとかはないんだな」


 勇者がそう言うと冒険者は勇者に向かって大声で話す。


「そりゃそうよ!!フリンは俺達仲間の救世主みたいな存在だったんだ!そんな人のことを仲間から抜けたからといって嫌いになるわけないじゃないか!!」


 その冒険者は勇者とエマに熱弁するのでそれを聞いていた二人はそんな彼に若干引いていた。


 「それで……一つ聞いておきたいんだがフリンは変わらず元気にやってるか?それだけ聞いておきたかったんだ……」


 この冒険者が勇者を見つけて声をかけた理由はこれで仲間から向けた後のフリンのことが気になって状況を知りたかったのだ。

 それを理解した勇者はその冒険者にありのままを話す。


「フリンは今も元気に冒険者やれてると思うよ、ただ変わらずやれてるかどうかは自分で直接合って聞いてみろよ」


 勇者の言葉を聞いた冒険者は喜んだ表情を浮かべていた。


「あぁそうするよ、今日はもう遅いからフリンによろしく伝えておいてくれ!じゃあまたな!!」


 そしてその冒険者は元気よく二人と別れた。


「じゃあ俺達も早く宿に戻ろうぜ」


 エマも頷き宿へと戻るとセレーナとフリンも買い出しを済ませすでに戻ってきていたのでセレーナとエマの泊まる部屋でシルバーランクに昇格したこととその際にもらった臨時の報酬のことを二人に話して明日の朝ギルドを旅立つと決めた。


 自身の泊まる部屋に戻った勇者とフリンは明日も朝からこのギルドを出るので早めに寝る準備をする。


「これでようやくギルドを出てファンデーグの町に向かうことができるのね、二週間でシルバーランクまで行けるなんて思ってたよりも格段に早かったわね」


「確かに……最初は一ヶ月ぐらい滞在することを考えてて絶望してたのがある意味良い記憶だよ」


「ふふっそれもそうね、それじゃあ明日も早めに出発するんだしもう寝ましょう」


 思い返すとこの宿も二週間しか使わなかったけど今日で最後になる。

 初日の翌日にフリンの平手打ちを豪快に頬に打たれたのがちょうど二週間前だとは考えられない。


 そこで勇者はギルド初日で出会った冒険者と今日話をしたことを思い出す。


 「そういえば今日、あの冒険者の人とまた会ったよ」


 「……そう」


 フリンは返事だけ返してベッドに横たわり布団をかぶる。


「フリンが抜けたことなんて気にして無かったしフリンは変わらず元気にやってるかって言ってたぜ……一度合って話してみてもいいんじゃないか?明日は特に急ぎでもないんだしさ」


 勇者がそういうと多少の沈黙の後にフリンが言葉を返す。


「……いいわよ、また会える日はあるだろうから……」


 それだけ勇者に言ってフリンは眠りにつこうとした。


「……分かった、じゃあおやすみ……もし明日気が変わったらいつでもいってくれていいからさ」


 勇者も最後にそれだけ言ってベッドに横になり眠りにつこうとする。


「……うん」


 眠りにつく前のフリンの言葉にはどこか安心したかのような気持ちがこもっているような気がした。

 

 かつての仲間と別れた後でも互いを思い合っており良い冒険者達だなと勇者は思い安心して眠りにつくことができた。

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