第10話 クエスト完了
窓から陽の光が差し掛かり小鳥のさえずりがかすかに聞こえてくる。
「お~いフリン!起きろよー」
フリンはまだ寝ぼけておりなぜ勇者の声が聞こえてくるのか理解できないまま体を起こそうとした途端。
「早く起きろってばっ!」
勇者がその掛け声とともにフリンにかかっている布団を引っ剥がすとフリンは驚くと同時に勇者の頬めがけて強烈な平手打ちが繰り出され早朝から宿全体に響きの良い音が鳴った。
勇者たちは今日からこのギルドでクエストを受けながら生活していくことになるため朝早くから受付所に集まり朝食を済ませたところだった。
「で……お前ら朝早くから宿で何があったんだ?」
「こいつがレディが寝ているベッドの布団を引っ剥がしたのよ!!」
「良いだろ!別に!フリン全然起きないし」
朝から言い争っている勇者の顔には分かりやすくビンタされた後がくっきりと残っており更には朝食を食べる前から二人はずっと言い争っていたのでそろそろ何があったのか現在セレーナが二人が言い争っている理由を二人に聞いているところだった。
「そんなことで朝からずっと喧嘩してたのか……」
セレーナがやれやれといった表情を浮かべ隣に座っていたエマに援護を求めた。
「エマからもコイツラに言ってくれないか私だけじゃ収まりきらん」
それを聞いたエマは仲裁役となり二人の喧嘩を鎮めようとする。
「二人とも落ち着いてください!まず勇者さんはダメですよ女性相手にそんなことしたら、嫌われてしまうのも当然ですよ!」
「ご……ゴベンナサイ……」
エマに叱られた勇者はしょんぼりした表情を浮かべ肩を落とした。
「フリンさんも昨日勇者さんと一緒の部屋でも大丈夫って言ってたじゃないですか」
「それはそうかもしれないけど……あんた達が勇者と一緒でもこうならないとは言えないじゃない!」
エマとセレーナもフリンにそう言われると同感してしまい言葉が出なかった。
それでもフリンも勇者が反省してる姿を見て自分も多少は反省の気持ちがあったのか少し落ち着きを取り戻した。
「まぁ……私もあのときは起きてすぐだったから気が動転して手を出しちゃったのは謝るわ……ただ今後同じことしたら許さないから」
勇者はフリンが自分のやったことを許してくれたことに対して嬉しそうな顔をしていた。
とりあえずこれで朝の一件が事なきを得て終わることができ勇者たちは今日の目的であるクエストを受けるため受付のカウンターでクエストを受けに行った
初めて勇者たちが受けたクエストの内容は商人が販売するアイテムの元となる材料を採取してくるといったものなのだが実際に商人がその森へ趣き材料を集めるので勇者たちはその森や道中で遭遇する魔物や盗賊から商人を護衛するのが主な依頼内容となっている。
勇者たちはクエストの依頼通り商人が襲われないように魔物を退けながら目的の森へとやってきていた。
商人が必要としている材料はたくさんあり集めるには時間がかかってしまいそうだ。
この森にいる魔物達はいるにはいるが襲ってくる魔物も少なく多少弱いので難なく倒せてしまう。
「皆さんお強いんですね、到底ブロンズランクの方もいる混合の人達だとは思えないぐらい見事な連携ですよ!」
「ありがとうございます、襲ってくる魔物も私達の手では物足りない手強さで良かったです」
セレーナが商人相手と丁寧に会話をして依頼人の気分をそぐわなくしておりどこか堅苦しく感じる。
「これだと依頼料払って貰っているのに報酬に見合う働きができなくなっちゃうわね」
フリンの何気ない一言で勇者が早くクエストを終わらせたいと思っていた考えに気づきが生じる。
「これなら必要な材料を別れて探した方が早く終わるんじゃないか?」
勇者がそう発言するとみんなが一斉にその場で立ち止まる。
「勇……ユーシア、私達はあくまで今回は商人の護衛が任務だ、分断してしまってはもしものとき商人に怪我をさせてしまうぞ」
確かにセレーナの言う通り依頼内容は商人の護衛であり早めにクエストを完了することができても商人の安全が保たれなくなってしまっては元も子もない。
「確かにセレーナの言う通りだわ……だけどここの森の魔物はさっきの戦闘でも分かったと思うけど対してレベルの高い魔物は存在しないと思うわ」
「セレーナさんとフリンさんのおっしゃっていることはごもっともですけれど決めるのは依頼人である商人様ですよ!」
エマの言う通り今の勇者達は商人から依頼を受けた冒険者であり決定権は商人にある。
「頼む!爺さん!あんただってさっきは俺達の強さは認めてくれただろう」
「もちろんですよ、あなた達のことは十分に強いことは承知していますのでユーシアさんの意見は賛成しますよ!」
商人が勇者の意見を受け入れると聞いて他のみんなも喜んだ表情を浮かべる。
勇者の意見を取り入れた商人は早速自身の材料が入っている袋の中から一枚の葉っぱと蕾を一つ取り出し勇者に渡す。
どうやらこの渡された葉っぱと花の蕾がアイテムを作るのに必要な材料となっており二手に分かれて片方が別の場所でこの材料を取ってきてもう片方は商人と一緒にある場所で材料を集めることになった。
そこでセレーナとエマが渡された材料と同じものを取ってくる組と勇者とフリンが商人と一緒に材料を集める組に分かれることとなった。
勇者達と分かれたセレーナとエマは渡された葉っぱと蕾を頼りに材料を探していく。
エマは故郷に渡された蕾がたくさん咲いているということで実物がどういったものかは瞬時に分かるということで少し離れた場所で蕾を集めに行った。
「……あれか?」
その一方でセレーナは葉っぱを採取するのだが今ようやくその目印となる花を見つけた。
その花はきれいな紫色の花が咲いておりセレーナが採取する葉っぱというのがその花の葉っぱを取ってくるというものだった。
セレーナは花についている葉っぱを取るとその花が周りのいたるところに咲いているのに気がつく。
「……綺麗だな」
この森はギルドからそう遠くない場所にある森だがこんなに緑豊かな場所が近くにあるなんてセレーナは思いもしていなかった。
風景に浸っていると蕾を採取し終わったエマがセレーナの元に戻ってきた。
「凄いきれいな場所ですね!」
「あぁ、ただここはまだ中心から外れた場所になるから勇者たちが向かった中心部はもっと凄いんだろうな」
セレーナの言う通り商人と一緒に向かった勇者とフリンはここよりも更に森林の奥深い場所に向かった。
「二人を一緒にして大丈夫でしょうかね?今朝あんなに喧嘩してたので心配です」
「心配ないだろう、二人はなんだかんだ言って気が合いそうだからな」
セレーナとエマはクスクスと笑いながら材料を集め始めた。
「ここがそのアイテムの材料が存在する場所になります」
勇者とフリンがやってきた場所は森林の中心から外れた場所よりも木の高さが高く地面も見えないぐらい苔が生えている場所だった。
「そんなに歩いた記憶ないのに随分と雰囲気が変わるわね」
「えぇここら一帯は【世界樹の種子】に近い場所になりますから」
「世界樹ってどこかで……あー!【世界樹の枝】か!でもなんで種子なんだ?」
商人が指をさした所には枝部分に一切葉が生えてない一本の木が立っていた。
「あれが世界樹の種子であり世界樹から落ちた種が大地を伝ってここに生えたものだと言い伝えられてきました……皆さん冒険者さんも一度は見たことがある世界樹の枝はこの種子から自然に落ちたものを使っているんですよ」
商人がその世界樹の種子のもとに寄り枝を拾う。よく見るとその枝は商人や勇者たちの周りにもたくさん落ちている。
商人が拾い上げた枝を持ちながら世界樹の種子に向かって祈るように両手を合わせた。
「本来の世界樹にはありとあらゆる生命に力を与えるとも言われておりその域は世界や時をも超えるとされています……最近ではこの地に勇者様が召喚されたと噂されておりますからきっと魔王を倒してほしいというみんなの祈りが世界樹に届いたのでしょう……」
商人はすぐ隣りにいる冒険者が勇者であることは知らずにこうして世界樹に感謝の祈りを捧げていた。
「……安心して商人さん、勇者は絶対に魔王を倒すから、商人さんの祈りもきっと世界樹の種子を通して勇者に届くわよ」
フリンはそう言うと商人と一緒に世界樹の枝を拾い集める。
勇者はさっきのフリンのセリフが自分にも向けられて話していたのではないかと思うとその役目を果たすために勇者も急いで世界樹の枝を拾い集めた。
世界樹の枝を必要数拾い集めた勇者達はセレーナたちとの合流場所へと来るともうすでに集め終えていたセレーナとエマが勇者達のことを待って待機していた。
「セレーナ、エマ!おまたせー!」
フリンがセレーナたちに声をかけるとその声セレーナたちは気がついて手を振った。
「勇……ユーシアたちの方は無事だったか?」
「おう!魔物も一切遭遇しなかったし商人も無事!」
「お二方が手伝ってくれたおかげでこんなにたくさんの世界樹の枝を拾い集めることができましたので」
商人は袋の中の世界樹の枝をセレーナたちに見せる。
「それは良かった、こっちも必要数の材料は揃ったから後は商人様を無事に町まで送り届ければクエスト完了だな」
「よし!早く町まで戻ってギルドで報酬を受け取りに行こうぜ!」
勇者達は商人と共に森を離れ近くの町に向かっていった。
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