第8話 冒険者集うギルド

 朝早くからテェザータの町を出発してギルドへと向かって歩き続けていた勇者達はようやくギルド周辺の場所までやって来ていた。

 勇者だけでなくそろそろみんなの顔にも疲れが見え始める頃だった。

 今日は一日、テェザータの町から歩いてきてその周辺までやって来ているというのにいまだそういった人がいそうな建物らしきものも見えてこない。

 

「今俺たちがいる場所ってもうギルドの近くらへんなんだよな…………周りにこれといったものは見えてこないけど…………」


「えぇそろそろ見えてくるはずなんだけど…………後は道を間違えていなかったことを祈るしかないわね…………」

 

 勇者でさえみんなの気を遣い聞かなかったことをフリンがつぶやくといよいよ限界も近づいてきていることが分かる。

 

 そんな時、遠くの方にうっすらと何かしらの建物の影が見えてくる。

 それを見た勇者は一瞬だけ目を疑ったがすぐに目の前に見えた影を指でさしてみんなに知らせる。


「……なぁ!みんな!あれってギルドじゃないのか!?」


 みんなが何事かと思い勇者が指をさす方向を見る。


「……えぇその通りね……ようやく私たちが目指していたギルドに到着したわ!」


「どうやら道も間違えずに無事につけたようだな!」


「日が暮れる前に到着できてよかったですね!」


 するとみんなの表情にも柔らかな明るい笑みが浮かんでくるようになった。

 それとエマの言った通りもうそろそろお日様は夕暮れ時に差し掛かろうとしておりすぐに日は沈んでしまえばすぐに夜になり周りも暗くなってしまい町の外では歩くこともできなかったと思う、そのため想定よりも早くギルドに着いたことは素直にうれしいことだ。


 長い道のりを経てギルドへとやってきた勇者達の目の前にはテェザータの町ほど大勢ではないがいかにも冒険者といったような装備を身に着けた人たちが大通りを会話しながら歩いてたり武器屋や防具屋といった専門店から冒険者に役立ちそうな道具が売られている店が大通りにあるの勇者も今すぐにいろいろな店を見て回って楽しみたいと思っていたのだがフリンが即座に勇者が思っていることを感じ取りどこかへ行かせないように勇者の肩を掴む。


「ちょっと!勇者少し待って!ギルドに来て今からお店見て回りたいって気持ちはわかるけどまずは【受付所】へ行ってあんたの冒険者登録を済ませるようにしましょう!」


 ちなみに『ギルド』というものなのだがこの世界の人々にとってはどうやら『町』という扱いをしておりギルドというのがクエストを受けられる場所のようなものを示すのではなくこの町の名称がギルドになっているという認識になっているらしい。

 なので先ほどフリンが言っていた受付所というのはこの町のクエストを受けられる場所のことを指していることになる。


「冒険者登録って……勇者の俺がそんな登録していいのか?」


 勇者には本来の目的である魔王を討伐するという使命があるので世間的に考えて冒険者として活動しているのはどうなのかと思っていた。


「それについては問題はない、冒険者というのはあくまでクエストを受けられる人のことを指すだけのものだからな……ただ自分が勇者だってことは隠しておいた方が良いかもな……いろいろと面倒になるかもしれないからな」


 結局は自分が勇者であることは隠さないといけないことになるのだが他より正義感が強そうなセレーナがそういうのだし問題ないだろうと思うことにした。


「今の内に冒険者の登録さえしておけばどこであろうともクエストを受けられるようになるわ、そうすれば旅の途中で今回みたいにお金に困ったとしても周辺のクエストボードから依頼を受ければ済む話だし」

 

 フリンの言う通り今回みたいに馬車を借りずに徒歩でこの世界を渡ることは大変だということを知った勇者は二度と歩きたくないと思い仕方なくフリンの言った受付所に行き冒険者の登録をすることになる。

 そこでエマが意外なあることをみんなに伝える。

 

「あの……実は私も冒険者登録は済ませていないんです……」


 エマから発せられた言葉にエマ以外のみんなが驚く。


「えっ!?……エマって冒険者登録まだしてなかったの!?……すでに冒険者として活動してたものかと……」


「そういえば初めて出会ったときも僧侶としては経験が浅いとは言っていたが……意外だったな戦闘の際は未経験とは思えない動きをしていたからな」


 フリンとセレーナがそういったように勇者も自分を除いたみんなはすでに冒険者の登録はしているものだと思い込んでいたものだから少し意外だなと思っていた。


「そうなると……エマは僧侶になってからはすぐに王城の酒場に来て俺たちの仲間になったってことになるのか?」


 勇者がエマに聞くとエマはすぐに返事を返す。

 

「はい!その通りです……すいません今まで黙ってしまっていて……」


 エマは申し訳なさそうに頭を下げるがみんなそこまで気にしていない様子だった。


「気にしなくていいわ、私も聞かなかったんだしお互い様よ」


「フリンの言う通りだ、むしろこちらが謝なければいけないな……」


「いえ!お気になさらずに!」


 セレーナが頭を下げようとするところをエマが抑えるように言っている。


「えっと……そうなると俺とエマの二人でその受付所に行って登録を済ませてくればいいんだな?」


 その二人は同時に頷いて冒険者登録はすでに済ませていることを勇者に伝える。


「それじゃあ早速受付所まで行きましょう、登録はすぐに終わるから問題ないはずよ」


 クエストが受けられる建物にやってきた勇者とエマは冒険者登録を済ませるために一旦セレーナとフリンとは別れ二人は受付所の前へとやってきた。


「ようこそ!こちらはクエストを受けられる受付所になります!ご用件は何でしょうか?」


 受付にいるお姉さんが笑顔と元気いっぱいな声で勇者達に話しかけてきたので勇者はここにやってきた目的である冒険者の登録をしたいことをそのお姉さんに尋ねる。


「えっと……冒険者の登録をしに来たんだけどここで登録できます?」


 勇者が尋ねると受付のお姉さんは瞬時に状況を理解して受付所の横にあるカウンターで登録することができることを説明すると勇者とエマを登録の準備に必要なものを持ってくるとのことでそのカウンターで待っていてほしいとだけ伝えるとそのお姉さんは受付所の裏の方へと姿を消していき勇者達は受付のお姉さんに言われた通りの場所に行くとちょうどさっき受付所の裏に行ったお姉さんが一瞬にしてその登録を済ませるカウンターの裏からを現した。


「お待たせいたしました!それでは今からこちらの紙の方に書かれている記載事項に沿ってご記入していただけますでしょうか?」

 

 受付のお姉さんの手から渡された紙を見ると勇者でもわかる文字で何やら名前や職業などを書く欄が存在していた。

 勇者は書いてある通り書きだそうとするも名前の欄を見て勇者はあることを思い出した。

 そういえばセレーナは自分が勇者であることは隠しておいた方が良いと言っていたことを思い出しそのことについてどうしようか考えていたところ勇者は隣で同じく名前を書いているエマに聞くことにした。


「なぁエマ……名前はさすがに勇者って書くのはまずいよな?」


「名前はどう書いてもいいらしいですよ……例えば私が聞いた話によりますと……イザヨイっていう人がカナタって名前で冒険者をやってるって聞いたことがありますよ!」


 エマが言っていた人が一体どうなってイザヨイからカナタって名前になったのかは分からないが自分の名前を変えて冒険者として活動することも大丈夫だということは分かった。

 ということで、とりあえず勇者はいろいろ考えた末に名前を【ユーシヤ】という名前にすることに決めた。


 次の欄には職業と書かれておりさすがにここにも勇者という風に書くこともできないのでどうやって書けばいいの分からなかったので仕方なく再びエマに聞いてみた。


「えっとエマ……ここに職業って書いてあるんだけどさ……」


 またもや勇者に質問されたエマはペンを止めて勇者が書いている紙を見るがエマもどのように書いていいのかわからず仕方なく受付の人に尋ねると無理に書く必要は無いとのことでその職業の欄は何も書かないことにした。


 結果全ての箇所をエマと受付のお姉さんに見てもらいながら書く羽目になってしまった。


「お疲れさまでした!それでは今からユーシアさんとエマさんの冒険者の証にもなる冒険者カードを発行いたしますので少々お待ちください」


 するとカウンターの上に置かれていた不思議な機械の上に先ほど勇者達が書いていた書類と一枚のカードが置かれるとその機械が動き出し一瞬にして書類に書いてあった文字と同じ文字がカードの方へと転写されていき二人分のカードが出来上がる。


「こちらがお二人の冒険者カードになりますのでどうぞ受け取ってください!」


 受付のお姉さんは機械からそれぞれの【冒険者カード】となるものを手に取ると二人に手渡す。

 冒険者カードに何が書かれているのかというと先ほどの書類に書いた情報の一部が書かれていてそれ以外には【ランク】という文字の横には【ブロンズ】という文字が書かれていた。

 

「そちらの冒険者カードには先ほどお二人が書いていただいた情報と他にランクという項目が書かれていると思いますので今からそちらの説明をさせていただきますね……まずお二人のランクの横にはブロンズと書かれていると思われます」


 勇者は自分の冒険者カードと隣にいるエマの冒険者カードを見比べると受付のお姉さんの言った通りブロンズと書かれていた。

 

「ランクについてなんですけれどもこのランクは下からブロンズ、シルバー、ゴールドのランクに分けられていてそのランクによって受けられるクエストが変わっておりブロンズランクの人はクエストの条件がブロンズ以上のクエストを受けられ、シルバーの人はシルバー以上のクエストを受けられるようになっております」


 勇者とエマは丁寧に説明をしてくれている受付のお姉さんの話を相槌を打ちながら聞いている。

 

「ただ例外がございまして、もし二人のパーティーを組んでいるとしてもう一人の方がシルバーランクの人で自分がブロンズランクの場合だとしてもクエストの条件がシルバー以上の方一人以上の条件であれば二人の内一人はシルバーランクの方がいるのでそのクエストを受けることができます……ただしブロンズからシルバーのクエストの難易度は急激に上がりますので受ける際には最善の準備を整えてからから受ける必要があります……場合によってはクエストを受けることができなくなることもございますので注意してください。」


 ブロンズランクの俺たちがシルバーランクのクエストを受けるにはブロンズランクの人だけでは受けることができずシルバーランクの人も同行してクエストを受けなければいけないということになり、そうなるとセレーナとフリンのランクも後で聞いてみる必要があることに勇者は気が付く。

 

「こちらからのランクの説明はこれで以上になりますが他に聞いておきたいことはありますか?」


 受付のお姉さんが真剣に話を聞いていた二人に聞くと勇者とエマは首を振る。


「分かりました!それでは良き冒険の旅を!」


 受付のお姉さんはお辞儀をして勇者とエマの冒険者としての門出を見送ってくれた。


 これにて冒険者カードを貰えた勇者とエマはセレーナとフリンが待っているテーブルに戻ってくるとそこにはフリンはいなかったがセレーナがこちらに戻ってくる二人に気が付き声をかけてきた。


「二人とも無事に登録を終わらせられたみたいだな!」


「勇者さんが少し特殊すぎて大変でしたよ……」


 エマが深いため息をつくとセレーナが隣の席を軽く叩きエマを隣に座らせ休ませる。

 勇者も向かいの席に着こうとすると席を離れていたフリンがちょうど戻ってくる。


「あら、今終わったの?結構時間かかってたみたいだけれども……それよりもさっきあなた達が来る前に食事を注文しておいたわ」


 フリンがいなかった理由はどうやら俺たちが冒険者の登録を終えるのが長くなりそうだと判断してその間に料理を注文をしに行っていたからだった。


「みんな今日は一日徒歩で移動したからお腹も空いただろう……それにさっきフリンと次に向かう【ファンデーグの町】までの今後のことを話し合っていたからそのことについても二人も加えて話したいと思っていたんだ」

 

 勇者達はこのギルドに着くまではほぼ歩き続けていたので空腹になっていることにも気づいてなくその直後、勇者と向かいに座っていたエマのお腹から情けない音が鳴りだしみんなクスクスと笑いだした。

 

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