第7話 北の町までの道のり

 勇者達は魔王の情報の手がかりがあるとされるテェザータの町よりはるか北の町へと向かうことになったわけなのだが、いろいろな事情によりその北の町へは馬車も引かずに徒歩で無かくことになってしまったわけだがその距離は何と言っても勇者達が歩いたシットの村からテェザータの町までの距離を丸々往復しても足りないような長距離な道のりになっている。

 そしてもちろん町の外には人間を襲う魔物もいるわけで馬車を使わず生身で歩いていればその分魔物と遭遇することも多くなってきてしまうため勇者達は回り道をして北の町より近場にあるギルドへと向かうことになった。

 ただ近場に行くにしろ魔物と遭遇しないということでもなく現在勇者達はテェザータの町から三度目となる魔物との戦闘を繰り広げている。

 

 「勇者、セレーナ今よ!」

 

 フリンは火の攻撃呪文【バルフ】の詠唱を開始すると同時に前にいる二人に合図を送る。

 勇者とセレーナの前衛組は目前の魔物の行動に集中しなければいけないため後ろのフリンとエマがどういった呪文を唱えているか確認することができないので基本的には戦闘の全体が見てとれるフリンとエマがこのパーティーの指示をだす役割となっている。

 そして勇者とセレーナはその二人の指示を信じて魔物との攻防を繰り広げる。

 

 「私も後ろから援護します!」


 「「了解!!」」


 勇者が襲い掛かってくる魔物の攻撃を防ぎそこにセレーナが側面から魔物に生じた隙をついて攻撃を繰り出しのけ反ったところへ最後のダメ押しのフリンのバルフの呪文がその魔物に命中するとその魔物は塵となって消えていくがまだ戦闘は終わってはいない。

 もう片方の魔物は先ほど塵となった魔物が攻撃を仕掛けている間に呪文を唱えておりその詠唱が終わるとその魔物からフリンが放ったものと同じバルフの呪文が後方にいるエマがいる方へと向かって放たれる。

 そこへセレーナが咄嗟に魔物が放った呪文バルフとエマの射線上に入ると片手に持っている盾でバルフの呪文を受けきる。

 呪文を放った後で隙が生まれている魔物に勇者がとびかかり攻撃を与えると加えてフリンがバルフの呪文を魔物に放ちその魔物を倒しきる。


 「セレーナとエマは無事?」


 「はい!二人とも大丈夫です」


 フリンがすぐさまセレーナとエマの元に駆け寄ると以外にも元気そうにしていた二人を見てフリンは安心していた。

 そこに最後の魔物に攻撃を仕掛けてきた勇者も三人の元へ戻ってくる。

 

 「勇者、最後の攻撃やるじゃない!」

 

 「フリンもとどめの呪文ナイスタイミングだったぜ!」


 勇者とフリンは互いにハイタッチを交わす。


 「やっぱりみなさんの装備が強くなったことで私たちの動きもよくなってきていますよね」


 確かにエマの言う通りテェザータの町からここに来るまでに3回ほど魔物と遭遇して戦闘になったが明らかにシットの村からテェザータの町までの間の戦闘時よりも動きが良くなっている。

 さらには先ほどの呪文を唱えてくる魔物に対しても難なく戦えるようになっていっている。

 これはもちろん装備だけでなく勇者たちの魔物との戦闘の経験も増えていっている証拠でもある。


 「この調子なら今日中にもギルドに到着することができそうだな」

 

 セレーナは空を見上げて太陽の位置を確認するとまだ頭上を過ぎたあたりの位置にあることがわかるとまだ日が沈むまでは時間に余裕があることをみんなに告げる。

 途中休憩をはさみながらも馬車を使わずに徒歩での長距離移動もいよいよクライマックスに差し掛かろうとしていた。


 勇者達が魔物達との戦闘を終えて再び歩きだした後に勇者が突然何かを思い出したかのような表情を浮かべるとセレーナに質問を問いかけた。

 

 「急になるけどセレーナがテェザータの町で言っていた魔王討伐軍について聞いてもいいか?」


 勇者がセレーナに聞きたかったことは偶然にも再開したシットの村の商人との会話の中でセレーナが言っていた魔王討伐軍のことであり大体の組織の役割みたいなのは理解したのだが、勇者自身まだ詳しいことは分かっていなかった。

 

 「魔王討伐軍のことか……まぁ構わないが」


 「魔王討伐軍って召喚される勇者のために魔王を捜索……そして勇者と共闘で魔王を討伐することを目的に作られた軍なんだよな……それなら俺を魔王討伐軍の元に連れてって同行させた方が良かったんじゃないかと思うんだけど……」


 勇者のその質問には三人ともすぐにはその理由を言うことはできなかった。


 「う~ん正直な話、今の勇者のレベルだと魔王討伐軍と一緒に魔物達と戦うことが難しいからじゃないかしら……勇者だって召喚された瞬間から最強レベルってわけでもないだろうし……」


 フリンが言う通り勇者も召喚された瞬間から魔王を簡単に倒せるほど強いわけではなく、なんなら王城にいた見回りの兵士よりも戦闘レベルはごく下だったと言えるだろう。


 「確かにフリンの言った通りかもな……さらに魔王討伐軍はこの西の地方よりも強敵な魔物もうじゃうじゃいるからな……そう考えると西の地方で経験を積んでから向かってほしいと王は考えたんじゃないのか?」


 セレーナとフリンが勇者に少し現実的な理由を告げると勇者は少し腰を落とした。


 「まだ未熟だから経験を積んで魔王討伐軍と合流しろってことか……少し悲しくなるぜ……」


 フリンはそんな腰を落としている勇者を茶化し、エマは励まそうとしていた。

 

 セレーナはそんな光景を見ながら勇者に王様から何も聞いてないのかと尋ねると『王様からは酒場で仲間を集めて世界を冒険しろって言われただけだ』と言っていた。

 そのことを聞いたセレーナは少しだけ不思議に思った。

 どうして王は最後に冒険をしろなどと言っていたのか、勇者は魔王を討伐する存在であり今この国の現状を考えると一刻も早く魔王を討伐した方が良いのではないのかと考えはしたが王にも何かしらの考えがあるのだろうと思いセレーナはこれ以上考えても仕方ないと思い気持ちを切り替えてギルドまでの道のりを歩いていくことにした。

 

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