第6話 人々の暮らし

勇者達は次の町へ向かう際の移動手段として馬車を確保するための資金を得るためにシットの村の商人からもらったホテルクァンタムのVIPチケットを売って資金の足しにしようと考えており勇者達は早速として勇者達の装備を選んでくれたザンバさんに事前に教えてもらった近くの取引所に訪れていた。

 

「お前さんたちこれまたお目にかかれないような品物を持ってきたものだな」


 取引所のおじさんはそのチケットを隅々まで調べまわしていており偽物ではないことを確認している傍らでとても興味深そうに眺めているのを見るとどうやら勇者が想像していたよりも価値がある物なのかもしれないと少し興奮する。

 するとそのおじさんはそっと手に持っていたチケットをテーブルに置くと裏側に置いてある何かが保管されている箱から重そうな袋を取り出すとジャラジャラと音を立てて勇者達の前に置いてあるテーブルにドスン!と鈍い音を立てて置いた。


「金貨二十五……いや二十八枚と交換でどうでしょうか?」


 おじさんはそう言うと追加で横に金貨を三枚置いて勇者達に交渉しようとする。

 勇者の知識上では金貨一枚あたりで千円の値があることは知っていた。

 勇者がそのぐらいならと思い交渉を受けようとしたところでセレーナが割って入りおじさんに対してさらに要求を行う。


「私たち実は馬を買いたいんだけれどもそう少しきりのいい金額にしてもらえたら嬉しいんだけれど、そこを切りよく30枚にまけてくれないか?」


 セレーナが言った要求をおじさんが案外すんなりと受け入れてくれているのを横目に見ていた勇者が少し疑問に思いながらもVIPチケットを金貨28枚のところをさらに2枚追加の30枚で取引することに成功した。


「今後ともよろしくお願いいたします!」


 商人の言葉に勇者達は感謝を告げて取引所を後にすると外は夕日が町を照らしておりもうじき日が暮れる。

 そんな中、勇者は先ほどのセレーナの交渉をおじさんが迷いなく受け入れた理由について考えながらセレーナに視線をじっと向けているとセレーナがその勇者の視線に気が付き勇者の方を振り向く。


「……どうしたんだ勇者?」


 セレーナは勇者が何かを聞きたそうな顔を浮かべていたのでそんな顔をしている勇者にセレーナが心配そうに声をかける。

 

「……さっきのおじさん妙にすんなりとこっちの交渉を受けてくれたなって考えてたら……相手がセレーナだったからなのかと思ってさ」


 それを聞いたセレーナが自信をもって勇者の質問に答えてくれた。


「元々あのチケットは金貨30枚以上の値はあったと思うんだ……」


「じゃあその金貨30枚以上の値を要求すればよかったんじゃないの?」


 勇者とセレーナの話を聞いていた他の二人の内のフリンがそう言うと続けてエマもフリンに同意するように言う。


「フリンさんの言う通りそれでしたら私たちは損をした事になりますよ」


「何も損はしてないさ、私たちはあくまで馬車を買うための資金を手に入れるためにチケットを取引したんだからな」


 そのようにセレーナが言うとフリンがどこか納得がいかないような表情を浮かべる。


「えぇ~それだと元の値より安く売っちゃった訳だから損した気分にならない?」


「最悪のケースは交渉が成立しない場合だから早めに話が済んだんだから良かった方だよ」


 セレーナの意見にフリンは『そういうものかな~』という表情を浮かべて少し肩を落とした。

 するとそこでセレーナが勇者が言っていたことに疑問を感じて勇者に聞き返した。


「そういえば勇者がさっき『相手がセレーナだったから』とか言っていたけれどもそれってどういう意味なんだ?」


 咄嗟のセレーナからの質問に動揺を隠せないまま慌てて言葉を返す。

 

「あっ……いや別に……深い意味は無いんだけど俺たちと比べて少し大人びいた感じがあったからあのおじさんもそれに押されたと思って……」


「私がか?……あまりみんなと変わらないと思うが……」


 セレーナはあまり気にすることなく再び歩き出すと勇者は安堵の表情を浮かべてため息をつくとエマが勇者の肩を横から勇者が気付くように叩いてくる。

 

「あまりセレーナさんをあんな格好しているからってそういう目で見ちゃいけませんよ勇者さん」


「べっ……別にそういう目で見てないし!?」


 エマには勇者の心の内がわかっていたのかエマが言ったことに勇者は動揺を隠せていなかった。

 勇者はこれ以降、自分の発言には気を付けるようにしようと心に誓った。


 夕日が沈み町が暗くなるのと同時にテェザータの町の至る所に置いてある街灯に明かりが灯し始め再び街灯によって町が一瞬にして明るくなる。

 夜が近づこうにもテェザータの町はいまだ活気づいていた。


「今日はもうホテルに戻って明日の朝、テェザータの町を出られるようにゆっくり休もうか」


 セレーナ以外の三人は広く人混みも多いこの町を歩いていたのでだいぶ疲労がたまっておりセレーナの言ったことに『さんせ~』と声を揃える。


 そして勇者達がホテルに戻ろうと大通りを歩いていると大きな荷物を台車に乗せて運んでいる人がいることに気が付きそれに勇者はどこか既視感を抱く。


(あの荷物……どこかで見覚えがあるな……)


 勇者はその既視感を思い出すと途端にその荷物を運んでいる人の元へと駆けつけて行き、突然駆けつけて行った勇者に気が付いた他の三人も何事かと思い勇者の後を追いかける。


 「あっ、やっぱりシットの村にいた商人のおじさんじゃないか!」


 勇者がその大きな荷物を運んでいる人物に声をかける。

 どうやら大きな荷物を運んでいた人物はかつて【シットの村】にて勇者に助けてもらったことのある商人だった。


「おや!?……これは勇者様ではありませんか、シットの村では大変お世話になりました。勇者様もテェザータの町を観光ですかな?」


 商人は運んでいる台車をその場で置く。

 台車を置いた際の重く響いた音かどれくらいの重さなのかが勇者に伝わってくる。


「まぁそんなところかな明日にはこの町を出るつもりだけど…………それにしてもずいぶんと大きい荷物を運んでるみたいだけど良かったら俺たちも協力するよ」

 

 勇者がそういうと商人は最初は申し訳なさそうに断っていたのが後から追いかけてきた三人にも協力させてほしいと頼まれると商人も勇者達の優しさに押されてしまい仕方なく勇者達に店の前まで運んでほしいと頼むことになり合計四人でこの重い台車を商人が言う店の前まで運ぶことになった。

 

 「こんな大量の荷物をどこから運んできたの?」


 フリンは台車の横側から荷物が落ちないように支えるような形で台車を押しながら商人に問いかける。


 「えぇ!?こんなでかい荷物をシットの村から運んできてるの?」

 

 「シットの村からこのテェザータの町までは距離はありますし坂道もたくさんあるはずですからとっても大変なはずですよ!」


 フリンとエマは驚いた表情を浮かべながら台車を押しており後ろの勇者とセレーナも二人と同じ表情を浮かべているのは確認できなかったが会話に入ってこないことから察するに台車を押すことで精一杯なのだろうか。

 横側から推している二人にはあまり気づいていなさそうだが五人で押しているからスイスイと進んでいるのだと思っていたのだが前と後が勢いをつけているおかげで横の二人があまり力を入れずに済んでいるわけで商人と後ろの二人は相当な力を出して台車を押していることがわかる。

 そう考えたときに商人がシットの村からこの町まで一人で運んできたと考えると少し恐怖を覚える。


 「馬車など荷物を運搬する手段が私自身の力しかないもので……」


 そこで後ろの方から少し息を切らしながらもセレーナが話しかけてきた。


 「……毎日シットの村からテェザータの町までこの大量な荷物を持ってきているのか?」


 「はい、シットの村で取れたものは以外にもよく売れるものでこの量でも場合によってはすぐに売り切れになったりするんですよ」

 

 「思ったより繁盛しているそうだな」


 「お客様に満足してもらえることが何よりですから……」


 セレーナが疲れ切った苦笑をしながら商人と話している姿を見ている。

 うちのパーティーで一番体力がありそうなセレーナでさえも息を切らしながら運ぶのにやっとであり勇者に関しては音沙汰もなくなってしまうほどになっているのに対して商人に関しては息の一つも切らさずに話をしている。 

 そうこう話しているとようやく商人が言っていた店の前まで来ると台車をその場に置くことができた。

 

 「勇者様方本当にありがとうございました、この御恩は一生とも忘れません」

 

 「……気にしなくていいって……」

 

 勇者以外の3人もみんな息が上がっておりまともに話せる状態じゃなかった。


「毎日こんな荷物を1人で運んでいるの?」


 どうにか話せるように息を整えてから勇者が商人に話かける。

 

 「そうですね……先ほども言った通り馬を買えば少しは楽できると思うのですが……」


 「どうして買わないの?」


 勇者が突拍子もないことを聞くと商人はこまぅた顔を浮かべておりそこに商人の代わりにどこか不機嫌そうな顔を浮かべているフリンが代わりに話した。


 「今この国ではが結成されたことによっていろいろな場所で馬や武器、防具などが値上がっているのよ」

 

 「って?」


 勇者が聞きなれない言葉がでてきたので問い返すと今度はセレーナがそれについて答えてくれた。


 「魔王討伐軍は勇者お前がこの地に召喚されるより少し前に結成された軍で勇者が召喚されるまでに魔王をつきとめて倒すか勇者が召喚された後に共同で倒すことが目的になっているんだ……そしてその影響で各地の品物がいろいろと値上がりしていることになっているわけだ」

 

 勇者はその魔王討伐軍について説明を受けて関心をしていると先ほど新たに新調したみんなの装備を見て勇者は思った。

 

 「あれっ……でもみんなの武器や防具は普通に買えてたよな」


 先ほどのセレーナの言っていたことが正しければ今自分たちが着けている武器や防具なんかも通常では買えないような価格になっているはずなのだが……。

 

 「それはザンバさんが通常の値で売ってくれたからだよ他の店ではこうはいかなかったさ」


 勇者は自分たちがかつあげ紛いなことをしていたのではと少し不安になっていたところセレーナの一言によってその不安は取り除かれた。

 だがそれでもザンバさんがセレーナや勇者達のことをよく思ってくれていて通常よりも安い値段で提供してくれたのは事実だ。

 

 「う~ん……けれどもこの世界に魔王が現れたって噂されるようになったのってずいぶん前の話じゃなかったっけ?こうして俺も召喚されちゃった訳だし……もしかしてだけどあまり魔王討伐軍って活躍してなかったり?」


 勇者が王国が抱えている痛いところをついてきて民がが少しだけ黙り込んでしまう。


 「……正直なところそのせいで今の王国はいつからか民衆の不満を買うようになってしまいました……王国側は民のことを思い一刻も早急に魔王を討伐しようとしてくれていることはわかってはいるのですが……」


 「そうだったのか…………」


 勇者はこの時商人が教えてくれたこの町の人々が抱えている不満を聞いて胸が痛くなるような感情を覚える。

 自分も正直な話はこの世界に召喚されて今この瞬間までは自分が勇者だという自覚というものはあまりなかった。

 困っている人々を助けていたのも召喚される以前の自分がそういう人格だったに過ぎず自分が勇者だからといった理由ではなかった。

 

 セレーナとフリンも勇者と同じ様に責任を感じているのかどこか暗い表情を浮かべている。

 そんな重い空気を払ってくれたのがエマであった。

 

 「安心してください商人さん、必ず魔王は勇者とその仲間である私たちが倒します、私たちは絶対にやり遂げて見せますなんだって私たちのパーティーは最高のパーティーなので!」


 エマが商人に向けてそのように話すとそれを聞いていたセレーナとフリンも元気を取り戻したかのように首をかしげて頷く。

 それを見ていた商人も安心した表情を浮かべていた。


 「そうですね……勇者様であれば必ず魔王を討伐してくれるでしょう」


 その商人の言葉に勇者は前向きに『もちろんだ!約束する!』と言った。

 

 その後勇者は商人と話した後、明日の朝にこのテェザータの町を出るため早々にホテルに戻る。

 勇者以外の三人は隣の別の部屋で寝ることになっているので1人ぼっちになってしまう勇者は三人に寝るまでの間一緒の部屋にいたいと言ったのだがセレーナに『明日に備えて寝ろ』と言われて閉め出されてしまったので勇者は仕方なく1人で自分の寝る部屋に戻ることになりそのまま部屋に置かれているベッドに横たわり先程偶然にもシットの村の商人と再開したことを思い出す。


 「……王国は人々の暮らしにまで影響を与えてまで一刻も早く魔王を倒したいのか……王様は一体何に恐れて早めに魔王を倒したいんだ…………」


 勇者は商人が話していたことからいろいろと自分なりに考えたが眠気が襲ってきて次第に勇者の意識を奪っていって夢の中へと引きずり込まれてしまった。




勇者達は朝早くからホテルを出てテェザータの町を出て北の町へ向かおうとしていた。

 そのための移動手段である馬車を朝早くから買いに行こうとしていたところ突然勇者が1人で馬車を買ってくると言い出すと駆け足で馬を売っている場所に向かっていった。

 3人はテェザータの町の北門前で勇者が戻って来ることを心配しながらただただ待っているとずいぶん時間が経ってから勇者が戻ってきた。


「ごめん、ちょっと寄り道してた!」


 無事に勇者が戻ってきて三人の不安も和らぐと思っていたのだがそんなことは一切なかった。

 その理由としては勇者が1人で馬も引き連れずに戻ってきたからだった。


 

 その頃シットの村で勇者に助けられた商人は朝早くから店を開くために自分の持つ店へと向かうと店の前で何やら人混みができていることに気がつく。


「一体私の店で何が……」


 商人は心配して人混みを避けて店の前に向かうと一頭の馬が店の前に座って店の入口を塞いでいた。

 その光景が信じられなく一瞬立ち尽くしてしまうが商人は人混みを増やさないために急いで馬を退けようとすると座っていた馬が立ち上がると同時に横腹の毛の部分が剃られていることに気がつきその部分を見るとどうやら文字が見えるように剃られているようだった。

 どこの誰がこんなイタズラをと思いその商人はその文字を読み上げる。


「ダイジニツカッテ」



 その一方、勇者達は北の門を出て歩いてテェザータの町を離れる。


 「早くい次の町に行こうぜ!」


 勇者が三人を置いて北の町がある方角へ向かって先へ先へと歩いていく。


 「ここからは歩いて北の町へ向かうことになるのか~」


 フリンは少し肩を落としながら先に進んでいく勇者の背中を見ながらつぶやく。


 

 話は少し戻り勇者が一人で馬を買いに行って三人のもとに手ぶらで帰ってきたところまで戻る。


 「ちょっと!?馬はどうしたの勇者?」


 フリンが慌ただしくしながら勇者に問い詰めようと詰め寄るがそんな中でセレーナは冷静に物事を捉えて勇者に問いかける。


 「あの商人に馬を渡したのか?」


 「うん……ごめん……あのおじさんのためにと思って……」


 珍しくというか初めて真面目に落ち込んでいる勇者の姿を見てフリンも心を痛めたのかそれ以上詰め寄ろうとはしなかった。

 勇者の気持ちに誰よりも早く気が付いていたセレーナが優しく勇者に話しかける。

 

 「別に謝らなくてもいいさ……ただ同じパーティー仲間として相談をしてほしかったとは思っているが」


 「そういうところは勇者さんらしいですね……ただし今後は私たちに言ってくださいよ」


 セレーナに続いてエマも勇者に優しく声をかけるとフリンも釣られて勇者に申し訳なさそうに謝る。

 

 「そういうことだったのね……私も勇者の気持ちを汲み取れなくてごめんなさい……」


 「別に気にしてないって……」


 勇者は急に優しく接してくれる三人にどう接していいかわからずに咄嗟に冷たい態度をとってしまう。

 それが三人にはすぐに照れ隠しでとった態度だと見抜かれてしまう。


「勇者さんもこういうところは可愛いですよね」


「……確かに少しはそう思ってしまうな」


「本当だよね〜いつもこうだったら良かったのに」


「お前ら俺のことからかうのもいい加減にしろよ!」


 

 そんなことがテェザータの町を出る前に起きており勇者達は結果、徒歩で次に向かう予定の北の町まで歩いていくことになった。

 元気よく北の方角へと歩いていく勇者には落ち込んでいた姿は無く元の勇者に戻っていて少し寂しくもあり安心もする。

 そんな勇者にセレーナが遠く離れた場所から声をかける。


 「勇者そっちは確かに北の町に向かう道だがここから北西のギルドにいったん向かってから北の町に行くからそっちの道じゃなくてこっちの道に進もう」


 セレーナが北の町へ続く道とは違う道を指さし勇者に戻ってくるように声をかける。


 そして勇者達は北の町へ向かう途中の地点にあるギルドへと向かうことになりその方向へと向かって歩いていく。

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