第5話 次の町へ向けて

 勇者達は現在、西の町テェザータのとある武器と防具が揃っている店で次の町へ向けた装備を調達していた。

 そこの店主はどうやらうちのパーティーのセレーナと知り合いのようでその店主が勇者達のおすすめの装備を提案してくれるらしく勇者とエマ、フリンの三人は店主ザンバの提案の元各々装備を整えていた。

 

「そうだったのですか!?」


 ザンバは勇者の着る防具のサイズを採寸している途中に勇者の発言に対しておどろいた表情を浮かべていた。


「ほらこれがその勇者の証ってやつ」


 勇者はザンバさんが腹回りの採寸を行っているのでその邪魔にならないように自分の首から下げられている勇者の証を店主に見せるとそれを見たザンバは驚きの表情を浮かべていた。


「本当のようですね……もしかしてそれでセレーナさんは…………」


 勇者はザンバの口からセレーナの名前がでてくると初めて酒場で仲間になった時のことをふと思い出した。

 

「そういえば……セレーナは俺が酒場にやってきた時に誰よりも早く俺が勇者ってことに気が付いてたな」


 勇者が頭を傾けながら考えている中、ザンバは一瞬ではあるが焦りの表情を浮かべてはいたがすぐに冷静になり勇者に語りかける。


「勇者様……セレーナさんは時に厳格な方でしてパーティーの皆さんを不満にさせてしまうことなどあるかもしれませんがそれでもどうか仲良していただきたいのです」


「なんかセレーナの親みたいな言い方だな……そんな仲になるぐらいのことが過去にあったのか?」


「そこまで深いことではないのですがセレーナさんがテェザータの町を拠点に活動していた時期にこのお店によく来ていただいたのでそのたびに武器や防具の改良のアドバイスもしてくださったりで立派な常連さんでしたよ」


 店主の言う通りセレーナが優しい性格だということはすでに勇者は知っている。

 まだセレーナや他の二人だって一緒に旅をしてまだ日は浅くほぼ毎日苦労ばかりかけてはいるがそれでもこんな勇者と一緒に旅を続けてくれる最高の仲間たちだ。

 勇者にとってはセレーナ、フリン、エマは誰一人かけてはならない大切な存在となっていた。

 

「大丈夫だよ爺さん、セレーナや他のみんなも俺の大事な仲間だ!セレーナがいなかったら魔王も倒せない……俺には欠かせない仲間なんだ!」


「そうですか……」


「あぁ誓うよセレーナは一生俺たちの仲間だ!」


 自信満々で元気いっぱいの勇者の言葉を聞いた店主のザンバはほっとした安堵の表情を浮かべた。


 そしてようやく各々採寸を済ませ終えるとザンバの意見を参考に装着する防具とそれに合う武器も選んでいく。


「……私の装備前のより露出高くなってない?」


「……そうでしょうか?」


 エマの言う通り現在フリンが着ている服装は肩から肌を出し切ったノースリーブのワンピースを着ており下の方は膝より上の高さのものとなっている。

 確かにフリンが言っている通り露出は高いと思うのだが、以前の服装はロングスカートを履いていて下半身の露出はほぼ無いに等しいのだがその代わり上半身の方が胸の上部まで露出している服装ではあったので見る人によっては以前の服装の方が過激に見えてしまう。

 どうやら着る人と見る人によって色々変わってくるらしい。


「エマも以前と比べてだいぶ変わった印象ね」


「はい、服の素材を厳選してもらって見た目より動きやすい感じになっているんです!」


 そしてエマはというと以前の水色と白を基調とした普通の村人の服装にフードが付いていたが今エマが着ている服装は全身白いローブに袖の部分が水色となっておりおなじみのフードもついているといった感じになっている。

 見た感じ以前よりかは重そうな服装をしているが本人が言っていたように軽い素材を使っているおかげで動く際にも支障が出ないようになっている。


「二人とも着替え終わったみたいだな…………後は勇者だけか……」


 店の表で待っていたセレーナがフリンとエマが着替え終わったことに気が付き裏側へとやってきたがそこでまだ勇者がいなかったことに気が付いた。


「あれ、みんなもう着替え終わってたのか」

 


 そこにちょうどのタイミングで奥の部屋から着替えを終えてきた勇者がこちらの三人がいる部屋の方にやってきた。


 「あらなんだか以前よりも勇者っぽさが出ていいんじゃないかしら?」

 

 そこへ来た勇者の姿は以前の旅人感満載な服装から一新され王城の兵士が身にまとっていそうな青を基調とした服装になっており上半身のいたる部分には目を惹くような黄色の王国を象徴するエンブレムが施されており前より目立つような服装に出来上がっている。

 後は追加で新たな剣と盾も用意してもらっている。

 

「本当!?あんまり勇者っぽく見えないかなと思ってたから安心したよ」


「これで少しはまともな勇者になればいいのだけれども」


「おい!それじゃあ俺が前までまともじゃなかったみたいな言い方じゃないか!」

 

 勇者がフリンと口喧嘩していると勇者が出てきた部屋の方から遅れてザンバが現れて勇者とフリンの口喧嘩を止めるべく勇者たちにある話をする。

 

「皆さん着替え終わったようですから1つだけ皆様に伝えておきたいことがあります」


 セレーナとエマがザンバの方を向くと口喧嘩をしていた勇者とフリンも喧嘩をやめてザンバの方を振り向く。


「大した情報ではないのですがここから北に向かうと【ファンデーグの町】に行くことができるのですが、そこからさらに北へ進んでいくと【ロウ・ぺスタ】という町に到着いたします」


 ザンバは奥の部屋から持ち出した地図を広げて指で追いながらその場所を勇者達に説明してくれた。


「そのロウ・ぺスタという場所ですがそこでは勇者を崇拝している者たちの集団があるらしく勇者様たちであれば魔王についての何かしらの情報は得られるかもと思います」


「ロウ・ぺスタか……ここからそこまでは結構な距離が離れているな」

 

 そこのロウ・ぺスタという町はどうやら地図で見ると今勇者たちがいるテェザータの町から遥か北の位置にありさらにはその途中のファンデーグの町の場所もここテェザータの町からは結構離れておりこの地図で見る限り長い旅が予想される。


「王城からこの町でも結構な距離じゃなかったか?」


「その倍以上の距離はあるな……さすがに馬車などの移動手段が必要になってくるか……」


 勇者がセレーナの発言に対して大きなため息をついている横でセレーナは腕を組んで真剣な表情を浮かべながら考えている。


「それでも馬車を借りるには相当な金額が必要になってきますよ」


「そうよ!私たちにはそんな馬車を借りられるようなお金は持ってないわよ……ただでさえ装備をそろえるのにお金を使っているんだから……」


「そうだよな……今の私たちには手に入らないか……」


 テェザータの町よりはるか北にある町へと向かうための手段を考えるがいい手段が思いつかずやむなく徒歩で向かおうとみんなが考えようとしたときにふと勇者がポケットに入っていたホテルクァンタムのVIPチケットを取り出して眺めていると勇者の口からある手段が今ここにいる人たちに告げられる。

 

「このVIPチケット売ればいいんじゃね?」


 その勇者の発言に思っても見なかったとばかりにその場にしばしの沈黙が流れる。


「……そうか!?勇者の言った通りそれをどこかの商店で高く売れれば相当な値が付くはずだ!」


「そうよナイス勇者!少し手放したくない気持ちはあるけれども……それができれば次の町までなんてほんのすぐよ!」


「そうですね私もフリンさんと同じく抵抗はありますけれども次の町へ向かえば戻ってくることもないでしょうしいいアイデアですよ勇者さん」


 このパーティーに入ってから初めて三人に褒められた勇者は嬉しさのあまり鼻を高くしながら満足げな表情を浮かべる。


「それでしたら私が知っているコレクターの者が店を出している商店がございますのでそこで取引をしてみてはいかがでしょうか?」

 

「よしっ!早速そのコレクターがいる店に行ってこのVIPチケットをお金と交換してもらおう!」

 

 ザンバさんがそのVIPチケットを買い取ってもらえそうな人物を紹介してくれたので勇者たちは早速そのチケットをもってザンバさんが教えてくれた商店へと向かうこととなった。

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