第4話 西の都市テェザータ

勇者達がいたシットの村から西に進んでいくとそこには西の都市とも呼ばれている【テェザータの町】が存在する。

 テェザータの町は西の地方でいくつもの店や露店の商業施設が多く集まっており、遠く離れた地方からもこの町に訪れる人たちがたくさんいるほどだ。

 そして勇者一行もまた魔王の情報を得るためにこのテェザータの町に訪れていた。

 

「すっげ~人がいっぱいだ!」


 勇者達はテェザータの町でも特に人通りが多いとされる市場の盛んなエリアを散策していた。

 ここでは各地から取り寄せてきた食材や道具、装備などが売られている出店が多く存在しこの地方ではあまり見られない珍しいものが並んでいる。

 

「あんまり遠くに行くんじゃないわよ!」


 フリンが後先考えずに出店を転々としている勇者に気を付けるように声をかけるが聞く耳を持たずに勇者は次の出店へと向かっていってしまう。


「さすがに迷子になることもないだろう……それにしてもこんな大勢の人達がいる中、魔王がどこにいるのかいちいち声をかけていくのは骨が折れるな……」


「そうですよね……とりあえず今夜泊まる予定のホテルにいってみませんか?そこで泊まる場所を確保してからこれからの計画を立ててみてはどうでしょうか?」


 確かにエマの言う通りこの町で聞き込みをしていたらすぐに日が暮れてしまうだろう。

 そうなると、商人からもらったチケットで今夜泊まるであろう高級ホテル【クァンタム】の部屋の確保ができなくなってしまう可能性が出てくるかもしれない。


「そうだな、エマの言う通りまずは商人からもらったあのチケットで部屋を取るのを済ませてからこの後どうするかを考えようか」


 セレーナがそういいエマは首を縦に振ると遠くで勇者が迷子にならないように見張っているフリンに向かって叫んだ。


「フリン!今からホテルの予約を済ませに行こうと思ってるからあのどうしようもない勇者を連れてきてくれ!」


「わかったわ!今からその勇者連れて来るからちょっと待ってて!……ほら勇者!店回るのは後にしてホテルにとっとと向かうわよ!」


 セレーナは子供みたいにはしゃいでいる勇者とその母親みたいに勇者を引っ張って来るフリンを見ていると不意にもため息をついてしまう。

 

 勇者達は市場が並ぶエリアを抜けて宿泊施設が多数存在するエリアに足を運んでいた。

 こちらのエリアは市場があるエリアと比べて人通りが少なく、さらに今夜泊まる予定のホテルはその市場があるエリアと宿泊施設があるエリアを分ける大通りの手前にあるからすぐにそのホテルの前に到着する。

 

 ホテル【クァンタム】は他の建物よりも一層高く周りの普通よりも高いホテルでもここのホテルのせいで低く見えてしまうほどだ。

 

 そして早速勇者達は商人からもらったVIPチケットを受付の人に見せて部屋がとれるかを確認をする。


「VIPルームであれば空いておりますが何部屋ご用意いたしましょうか?」


「え~と一部屋で……」

「二部屋でお願いします!」


 勇者が頼もうとする寸前にフリンがそれを遮るような形で二部屋を確保するように受付の人に頼んできた。

 少々受付で荒ぶりはしたがVIPルームの部屋を借りることができた勇者一行はそれぞれの部屋のチェックインを済まそうと泊まる部屋に向かう。

 借りられた二部屋は隣同士となっており勇者が片方の部屋に泊まり、残りの女性陣がもう片方の向かいの部屋に泊まることとなっている。

 

「じゃあ、準備できたら集合するような感じでお願い」


「了解」


 勇者はそう言うと隣の部屋に入っていき、それを見送った女性陣も自分たちの泊まる部屋へと入っていく。

 三人はその部屋に入った瞬間に商人からもらったVIPチケットがいかにすごいものかを実感することになる。

 普通の宿とは比べ物にならないほどの広い部屋がまず最初に目に入りこんできて、そして床には高級そうなじゅうたんや王城にしか飾られてないようなシャンデリアが天井から明かりを灯していた。


「さすがテェザータの町でも名高いホテルだけあるわね!」


「窓から眺める町の景色も素敵ですよ!」


「そうだな、ベッドもちょうど三人分だしあの商人からは本当に良いものを頂いたんじゃないか?」


「こっちの部屋はベッドは三人分なんだな俺の部屋は二人分だったけれど……」


「へぇーそうなんだ…………」


 しばしの沈黙の後、三人は驚いてその声がした部屋の入口の方を見るとちょうどそこには勇者の姿があった。


「いつからあんたそこにいたの!?」


「ついさっきだけど……準備終わったら集合って言ってたから……」


 するとセレーナがすかさずに勇者を部屋の外に追い出そうとする。


「ちょっ!?……何するんだよセレーナ!」


「いいから!私たちの準備が終わるまでおまえは部屋で待ってろ!こっちにはいろいろ準備があるんだよ!」


 そう言った後セレーナは勇者を部屋の外に追い出してから部屋の扉を閉めて鍵をかける。

 勇者はしばらく追い出された部屋の前で佇んでいると扉越しに勇者のことを酷く言ってくる声が聞こえてきた。


「全くあいつにはデリカシーってのが無いの!?」


「あれが魔王を倒せる存在なんて言い伝えの信憑性がなくなるぞ!」


「……私も今後このパーティーでやっていけますかね……」


 勇者はその会話の内容を聞いた後、一人寂しそうに自分の部屋へと戻っていった。

 

 勇者が自分の部屋で少し暇をつぶしているとすぐに隣の部屋から三人が来てそのまま勇者の部屋でこの後の行動について話し合った。

 話し合いの結果、とりあえず今日は町を見て回ることにして明日から情報収集に徹することとなり勇者達はホテルを出て市場が多く集まるエリアにやって来ていた。

 

「こっ……これは似合っているのか……」


「とっても似合ってますよ!セレーナさんスタイル良いですからどれも似合いますね!」


「ねえエマ、これなんてどうかしら? ほらセレーナ着てみてよ!」


 女性陣三人が洋服屋で買い物をしており勇者は店の外のベンチに腰掛けており退屈そうにしながら女性陣の買い物が終わるまでただただその光景をじっと見ていた。


「……主役の勇者は今日は蚊帳の外ですか……はぁ~このままじゃこの町周る前に日が暮れちゃうよ!」


 しばらく勇者がベンチに座ったままでいると三人が店から出てきた。


「勇者ごめんこの荷物もってくれない?」


 フリンは二つの洋服が入った袋を勇者に手渡す。


「はぁ!?なんで俺が持つんだよ!」


「あぁごめん一つは私が持つから」


 フリンは二つは片手がふさがったりと大変そうだと思い気を使ったのか勇者の手から一つの袋を手に取る。

 

「そういう問題じゃない!!」


 勇者達は洋服屋で買い物を終えてテェザータの町の中央に位置する広場のテーブルにて休憩をしていた。

 この広場は円形に広がっており中心のテーブル席を囲むようにして周りには木々や花々が備えられていて和やかな気持ちになりそうなのだが勇者だけはふてくされながら椅子に深々と腰かけていた。


「ねぇこの後はどこにいく?そろそろ次の町に向けて装備とか見ておいた方がいいんじゃない?」


 いまだ不機嫌な勇者と紅茶をすすっていたエマの代わりにセレーナが答える。


「そうだな……ここから北に行けば魔物もだいぶ強さを増すはずだからな…………今のうちに装備を調達してから次の町へと迎えるようにしようか」


 セレーナの発言にフリンとエマも賛同して紅茶をすすり、勇者も椅子の背もたれに寄れかかりながらも賛同する。

 

 勇者たちは広場で紅茶を飲み終えてから早速、武器と防具が売っている店へと向かう。

 セレーナがこの町で武器と防具が揃って売られている店を知っているそうなので他の三人はセレーナについていくような形でその店へと向かっていく。

 大通りからだいぶ抜けて人通りが少ない通りまで来ると武器と防具が描かれた看板が目印の店に着くことができた。

 勇者はその看板が目に入った瞬間に先ほどの態度とは打って変わって目を輝かせていた。

 

「ここが武器と防具が売っている店か~早く入ろうぜ!」


 するとすぐに勇者はその店に入ろうとするが寸前でセレーナが勇者の襟元をつかみ止める。


「さっきも言った通りここの店主は私と知り合いなんだ!あまり変なことはしないでくれ……」


 勇者は少し肩を落としながらもセレーナが言ったことに頷く。


「とりあえず店に入ったら私が店主と話をつけるようにするから」


 セレーナがそういうとまず最初に一人店の中に入っていきその後から三人も続くようにして中に入っていく。

 

 店の中は思っていたよりも広く店の壁際に置かれている棚には武器や防具がきれいに立てかけられて並んでいた。

 勇者とエマ、フリンの三人がたくさんの種類の武器や防具が置かれている棚を眺めている中、セレーナは一人店主がいるカウンターへと歩いていきそこにいた店主はその寄ってくる人物がセレーナであることに気が付くとすぐに笑顔を浮かべる。


「これはこれはセレーナさんじゃないですか!またこの店に立ち寄ってくれて光栄です」


「いえ、こちらこそいつもお世話になっていますよザンバさん」


 セレーナとその店主のザンバっていう人が手を取り合っている光景を見ていた他の三人が不思議そうにそれを見る。


「あぁ紹介するよこの方はザンバさんというお方でいつも私の武器や防具の整備をしてくれている方なんだ……そしてこちらの三人が私のパーティー仲間です」


 セレーナにそういわれてエマとフリンは頭を下げたが勇者はそのザンバさんを見つめていた。


「セレーナさんのパーティー仲間の人ですか、いやこれはセレーナさんいつも一人でしたから喜ばしいことです」


「あまりそういうことみんなの前で言わないでくれよ…………それよりザンバさんに私たちの装備を次に向かう町に向けて整えておきたいんだ、良ければザンバさんにそのおすすめを選んでもらいたいんだ」


 セレーナがザンバさんにお願いをするとザンバさんはかけていた眼鏡を取りカウンターの上に置いた。


「分かりましたぜひみなさんには私から良き装備を選ばせていただきます」

 

 

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