第3話 最高のパーティー

王城から隣の村へと訪れた勇者一行はそこで道具の調達と魔王に関する情報を仕入れようとしていた。


「なぁなぁみんな!! さっき村の入り口にいた人にさこの町の名前なんていうか尋ねてみたら【シットの村】ってこの村の名前をちゃんと答えてくれるんだな!!」


 勇者は何故か先ほどから目を輝かせながら訳のわからないことを言っていた。


「そりゃこの村に住んでいる人が村の名前を言うことは当然のことでしょ……ってそっかあんた別世界から召喚されたからこの世界の常識もあっちと違ったりするのか」


 フリンが言った通り勇者は王族直々に伝わる召喚魔法により勇者として別の世界からこの世界に召喚されたのであっちの世界とこっちの世界での常識が違うこともあるのだった。


「いや、あっちの世界でも村の名前を言ってくれたりはするんだけども…………それでもこの世界だからこそ言われてうれしいこともあるんだよ!」


 先ほどから訳が分からないことばかり言っている勇者に他の三人は完全に呆れていた。


「とりあえず道具屋にでも行って道具類の調達と魔王について何か知っていることはないか聞いてみるとしよう」


 セレーナがそういうと勇者たちは道具屋へと向かうことになるのだがその道具屋の前ではなにやら商人らしき人物が頭を抱えて立ち尽くしていたので勇者が声をかける。

 

「そこの商人さん、何かあったの?」


 すると商人が勇者に気が付くと答える。


「あぁ冒険者の方々か……実はここから西に少し行くと【テェザータの町】があるのだがそこの道具屋で出すはずの物資を載せた荷車が道中の魔物達に襲われてしまったんだ。無事に荷車は持って帰って来れたけれども……その道具屋にこの物資を渡しに行けなくなってしまって困っていたんだよ…………」


 その商人が指をさすとそこには大量の荷物を載せた荷車が置かれていた。

 この商人が持つにしても相当な重さになるだろうと思った四人はそれをみて少し驚いていた。


「こんな量の荷物を荷車に載せてテェザータの町まで運ぶのも相当大変そうに思うけれども……」

 

 フリンが言った通り荷車だけでも運ぶのは大変そうなのにそこでさらに魔物に襲われたとあってはどうしようもない。

 そこへ勇者は何も言わずに思い悩んでいる商人の前に立った。

 

「なぁおじさん、俺たちが今からその魔物達をやっつけて通れるようにするからさ、どこでその魔物達に襲われたか教えてくれない?」


 勇者の言葉を聞いた商人は途端に目を輝かせながら勇者に踏み寄る。

 

「おぉ……いいのか冒険者さんたち!? それはとても助かる! その魔物達なんだがこの村から西に行きテェザータの町へ向かう途中の山道の麓でその魔物達に襲われたんだ……」


「分かったおじさん! とりあえずそこへ向かえばその魔物達がいるかもしれないしみんなで早速そこへ向かおう!」


 勇者がそういうと勇者たちは早速商人が言っていた場所へ向かおうと足を進めた。

 思っていたよりすぐに村周辺を囲っていた木々を抜けて商人が言っていた山道の麓らへんまで来ることができた。

 商人が言うにはこの辺りで魔物達に襲われたはずだ。

 その魔物達を探すために勇者達は足を進めるとフリンは先頭を歩く勇者の背中を見ながらエマに問いかける。

 

「……ねぇエマ、代々勇者っていうのは魔王を討伐するためにこの地に召喚されるって話よね?」


「はいその通りです……闇を支配する魔王を倒すことによってこの世界に光を灯すと言い伝えられてましたけれども……それがどうかしました?」


 フリンはエマからそう言われると勇者を不思議そうに見て話す。


「さっきまでの自由奔放な態度とか見るとどうしても私たちが思っていた勇者とは全く別の存在に見えない?」


 それを聞いたエマも深く考える。


「確かに……今はまだあの勇者さんが魔王を討伐する姿というのは想像もつかないですけれども……」


「伝説はあくまでも伝説か~」


 二人がそんな勇者にのことを話して歩いていると後ろからその二人の姿を捉えている影があった……。


 そこで勇者がその先ほどからこちらを見ている影に感づいてその場で立ち止まる。


「気をつけろみんな! 何かに狙われている!」

 

 勇者の発言にセレーナも警戒して背中の剣を抜くとちょうど勇者達のことをずっと見ていたその影が姿を現す。


 「へっへっへ! 冒険者たち、やられたくなければその場で身ぐるみを置いて逃げることだな!」


 突如として勇者たちの前には小さい体をした魔物達が姿を現し、その体の背中から翼を生やしたインプと全身水色のスライム達が現れる。


「こいつらが商人の言っていた魔物達か!?」


 セレーナは剣を構えると他の者たちも武器を取りだして戦闘態勢に入ろうとする。

 魔物達は勇者たちが戦闘をすることを察すると始めにインプが勇者に向かって襲い掛かろうとするが、そこへセレーナが勇者をかばうような形でインプの爪による攻撃を弾き返す。

 

 さらにそこにスライム達がセレーナへ襲い掛かろうとするが先ほどセレーナに守られた勇者が即座に前に出て素早い斬撃を二匹のスライムに繰り出し一瞬で二匹のスライムを倒すことができた。


 この一連の流れで起こった勇者たちの連携を見てインプは少し驚きの表情を浮かべていた。

 

「へっ!なかなかやるなお前たち」


 インプは後退して火による攻撃の呪文をセレーナに向けて放つ。

 セレーナはインプの攻撃を受けてしまうがエマの咄嗟の判断でセレーナに向けて杖を振り回復の呪文を唱えてセレーナが受けた傷を癒す。

 インプが次の行動に移ろうとするよりも早く後ろで呪文を唱えていたフリンが先ほどインプが放っていた火の攻撃呪文をそのインプに向けて放ちダメージを与える。

 呪文を受けて無防備なインプに勇者が飛び出して最後の追撃を繰り出しインプにとどめを刺す。


「ぐわー!……つっ強すぎるだろ……」


 インプは悔しそうな表情を浮かべながら塵となって消えていく。

 そうしてようやく勇者たちは商人が言っていた魔物達を討伐することができた。


「よしっ!無事に倒せたな」

「やった!私たちの初勝利ね!」

「エマ、さっきの回復助かったよ」

「いえ、セレーナさんもナイスガードでしたよ」


 仲間たちみんながこのパーティーの初勝利に喜んでいた。

 

 無事に勝利を収めた勇者一行は一度商人に魔物達を討伐したことを伝えるために再びシット村へ向かうことになった。


 その商人は店を開いて普段と変わらぬ様子で働いており、そこへ勇者たちが訪れるとすぐに商人が勇者たちに気が付くと急いで店の表へ出て勇者の元へ駆けつけた。


「冒険者さんたち!! よくぞ無事で……それで魔物達は一体?」


 商人にそういわれ勇者は満足気に笑顔を浮かべる。


「おじさん、無事にその魔物達をやっつけてきたよ!これで問題なくテェザータの町まであの荷物を運べるようになったな」


 それを聞いた商人は喜ぶと思わず勇者の肩に手をのせて感謝の言葉を述べた。


「ありがとう!冒険者さんたち、恩に着るよ!」

 

 すると勇者達はその商人から感謝の印として紙切れの券のような物を受け取った。


「そのチケットは最近たまたまある旅人から買い取ったものでテェザータの町では有名な宿に泊まれるチケットなんだ、お詫びとしてどうか受け取ってくれ!」


 すると商人は勇者にそのチケットを強引に渡し、それを見たフリンとエマが大声を上げた。


「【クァンタム】のチケットじゃないですか!テェザータの町では三本の指に入ると言われている高級ホテルですよ!」

「さらにそのホテルのVIPチケットじゃない!本当にいいのおじさん!?」


 フリンとエマが動揺している中、商人は笑顔で答える。


「あぁ君たちのような迷いなく困っている人を助けられる冒険者さんたちに受け取ってもらいたいんだ……」

 

 そういって商人は勇者達にそのVIPのチケットを渡すことをためらってはいなかった。


「そんなにいいホテルなのか?……まぁ商人さんのご厚意に預かりいただくことにしよう」


「ありがとなおじさん!大切にするよ」


「もし宿に泊まって気に入らないようだったら返しに来てもらってもいいけどな」

 

 そうして勇者一行は商人の悩みを解決してその報酬としてテェザータの町で有名なホテル【クァンタム】のVIPチケットを手に入れたのだった。

 勇者達はこの村ではやることを終えたようなので魔王の情報を得るためにここを出ようとする。

 そこでフリンがある提案をする。


「せっかくそのチケットもいただいたことだし、次に向かう場所はそのホテルがあるテェザータの町に向かうことにしない?」


 そのフリンの提案にみんなは……。


「私もテェザータの町に行きたいです!! いただいたチケットで例のクァンタムにも泊まってみたいですし」


「フリンの言う通り日が暮れるのもそろそろだし今日はそこのホテルで泊まろう、町も広いことだから何かしら情報も得られるだろうし」


 みんなフリンの意見に一致賛成だった。

 

「よしっ! じゃあここから西にあるっていうそのテェザータの町へ今から向かうぞー!」


 勇者が元気よく掛け声を上げると他の三人も声を上げてから勇者一行はそのテェザータの町へ向かって元気に歩いていった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る