第24話 プレゼントを探そう


 宿探しのついでに宣伝をしようと思い、二人をカレン亭に連れて来た。

 料金も質も文句は出ないだろう事は、定宿としている俺が胸を張って言える。


「お帰りヤマトさん、今日は遅かった──ん? そちらのお二人はお客様でしょうか」


「うん、俺の友達のマーウとメイベル。今日部屋空いてるかな?」


「──! 呼び捨て……」

 シシリーが何か呟いたがよく聞こえなかった。


「空いてるよ~。いつもうちのヤマトがお世話になっております」

 そう言いながらシシリーが冗談めかしながら頭を下げる。

 

って。確かにほぼ住んでるようなもんだけどさ」 「ホホーホ(ナカマ)」


「ここの受付さんは面白い子だな」


「メ、メイベルです、よろしくお願いします」


「私はシシリーです、こちらこそよろしくお願いします。ダブルとツイン、どちらがよろしいですか?」


「あ──違う違う、俺は既婚者なんだ。別部屋にしてもらえるかな?」


「そうそう。メイベルはそのお嫁さんの親友なんだ」


「それは勘違いを、失礼いたしました。それでは二部屋ご用意させていただきます」


「なんだかいつもと違って硬い口調だね」


「私だって接客の時はちゃんとしてますー。ヤマトさんとだって最初はそうだったでしょ!」

 シシリーちゃんと打ち解けたのはいつ頃からだったか、第一印象は『愛想のいい子だな』と思ったっけ。

 不思議なもので、仲良くなってからは赤の他人だった時の事はあまり思い出せない。


「マーウとメイベルは良い人だよ、それにメイベルとシシリーちゃん、歳が近そうだし、友達になればいいんじゃないかな?」


「わ、私、村以外の同性の友達初めて! よろしくシシリーちゃん!」


「よろしくね、メイベル

 一瞬シシリーの視線が鋭かったように見えたが気のせいだろうか。

 

「? どうしたのシシリーちゃん。私、どこか変かな……」


「う──ううん、なんでもないよ。今晩はゆっくりしていってね!」


「ホー? (テキ?)」


 無事二人の今晩の宿を確保できた俺は部屋へ帰った──。

 ──ちなみに部屋へ戻って数分後、シシリーが俺を訪ねてきて、あれやこれやと質問攻めにあったのだった。


 

 翌朝、ブランへのサプライズプレゼントを買う為、俺達三人は揃って中央広場へとやってきた。

 予算の都合もあるだろうし、とにかく色々とリサーチしない事にはゴールも見えて来ない。

 この街で一番店が集まっているのは、やはり中央広場を中心とした界隈なので、俺達三人はまず露店から探し始めることにした。


「定番だけど花束とかどうかな? ブランさんは普段そういうの喜んだりする?」


「う~ん……あげた事ないなぁ」


「ブランはお花は喜ばないと思う」

 綺麗に陳列された、色とりどりの花で既に組み合わされている花束を手に取りながら検討する。

 今朝シシリーにも何がいいか聞いてみたが『好みなんて結局その人次第』と言われ、正解は得られなかった。


「お! でもこの花なら喜ぶんじゃないか?」

 マーウがそう言いながら見せる花は、なんとも毒々しい色とギザギザの花弁をしており、愛する人に贈るには明らかに相応しくない花だ。


「それはちょっと……」 「私もそう思う……」


「そうかな? 家の前に飾れば魔除けとして効果ありそうだろこの色」


(なんだか独特な感性だな……)


「……次、衣料品店に行こうか」


 中央広場に面する場所に衣料品店はあるので、移動時間も少なく効率的に回ることが出来る。

 今メイベルが着ているような、ワンピースタイプの服であれば多少のサイズ違いも問題にならなそうなので、見本を見せてもらっているのだが、ここでもマーウは少しずれている。


「これ! これなんかどうだ!?」

 ワンピースはワンピースなのだが、裾が地面を引きずる程長く、目がチカチカするほど複数の色の生地が用いられ、もはや店主の悪ふざけで仕立てたんじゃないかという奇抜なワンピースを指し同意を求めてくる。


「裾が邪魔じゃない……?」 「日常的に着れないよ……」


「そうか~? これなら寝るときに布がいっぱいあって暖かそうじゃないか?」


「「……」」

 どうやらマーウのブランへの想いは、少し斜め上に向いてしまっているようだ。

 

 衣料品店を出て、次はどうしようか思案していると、パンとお菓子のお店から、甘い良い匂いが漂ってきた。

 昼も近いという事で、匂いに釣られパン屋に寄ってみる。

 所謂"食パン"型の白いパンや、バゲット、クロワッサン等選ぶのに目移りしてしまう様々なパンが並んでいる。

 初めて見たのだろう、メイベルはパン達を前に、少女のようにはしゃいでいる。

 パンを買って、中央広場の中心にある噴水の縁に腰掛け、食べながら相談することにした。


「このパンすごく美味しい! 村で焼くのと違って柔らかいし、ほんのり甘い……」

 メイベルが目を丸くし感動している。

 

「俺も夕方たまに買ったりするけど、焼き立てパンはさらに美味しいんだね」


「いいと思ったんだけどなぁ……」

 否定されたのが腑に落ちないのか、マーウがぶつぶつと呟いている。


 少しずれてはいるが、ブランへの想いが真剣なのは伝わってくる。

 お金を支払うのはマーウだし、そもそも気持ちがこもっていれば、物は問題じゃ無いんじゃないか?

 そう思うと否定してしまった事に罪悪感を感じる。

 なので次の装飾品の露店では、マーウの決めた物に賛同してあげようと思う。


「いらっしゃいませ。贈答品でございますか? でしたらこちらなんてお勧めでございますよ」

 店主が提示した品は、品のいいシルバーのネックレスだった。

 トップには綺麗な朱色をした控えめな石があしらわれており、確かにプレゼントとして納得の品だ。


「う~ん……」


「でしたらこちらなんていかがで……」

 店主が根気強く数々の品を披露するが、マーウは首を縦に振ろうとしない。

 ここも成果なしかと次を考えていると、ふと何かが目に留まったのか、マーウが明るい顔になった。


「これだ! これにする! あいつ喜ぶぞ~」

 手にしたのは、冒険者が身に着けていそうな、手の甲の部分に稲妻に似た模様が彫られた薄い鉄と皮で出来たガントレット。

 

「ちなみに……理由は?」 「……」


「これを装着して俺と戦闘の稽古するんだよ。そしたらあいつ自身は強くなれて、俺も安心出来る!」


「あのさ……重要なのは"気持ち"だと思うんだ。もうあれでいいんじゃないかな」

メイベルにひそひそと耳打ちする。


「う、うん……そうよね」

 良くない気もするが、一応はプレゼントが見つかったという事で、一件落着──と思いたい。


 『危険だから陽が落ちる前に村へ帰る』と、二人は早々に街を後にした。

 メイベルは昼に食べたパンが余程気に入ったのか、村に持って帰る分も買いに走っていた。

 獣人特有のあの健脚は羨ましい限りだ。

 戦闘は出来ないらしいが、魔物を巻いて逃げるのは難しい事ではないらしい。

 

 また近いうちにブランも連れて街に来ると話していたので、その日が待ち遠しく思う。

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