1-5 交流

第23話 友人


「にゃ~ん」 「ワフッ」 「ホーホホ(タベモノ)」


「リーフルには後であげるから」

 夕方頃、いつものエサやりルーティーン。

 確かに残飯には肉も入っているが、リーフルには新鮮な物をあげているのに、自分にもと要求してくる。

 よく食べるもので、最近は自分で狩って用意した魔物の肉のストックが切れることもしばしばある。

 色々と体調管理をしながら試してみたが、牛肉や豚肉、街で売られている肉類なら何を与えても問題は無かった。

 かと言って安い肉を拒否するとかそういう事は無いので、リーフルは本当に賢い子だ。

 

「リーフル、今日は牛の赤身を買ってあげような」


「ホーホホ! (タベモノ!)」


「はは」


「……ーい! ヤマト~!」


「ん? マーウさん!」

 少し遠くの方から俺を呼ぶ声がするので振り返ってみると、懐かしい人物がこちらへ駆け寄ってくる所だった。

 マーウとは村へ調査に行った時以来だ。


「いや~探してたんだよ、久しぶりだなぁヤマト! ギルドで聞いたらキャシーって受付の子が教えてくれて。ほんとにここに居るとはな」


「お久しぶりですねマーウさん。毎日この時間野良達にエサをやってるんですよ。可愛いですよ、ほら」


「にゃむにゃ~」 「フンフンッ」


「ほんとだな~、がっついてる。それにしても野良動物まで助けてるとは、相変わらずだなヤマトは」


「いえいえ、これは俺の趣味みたいなもので。一応街の治安に貢献出来てるみたいですけど、単に可愛いからやってるだけです」


「前にギルドで噂は聞いてたんだ。夕方頃野良達にエサやりしてる"平凡"があだ名の冒険者がいるって。まさかヤマトの事だったとは」


「はは……あだ名の事は自覚してます、間違いでも無いですしね。マーウさんは今日は納品ですか? もしよかったら──」


「──こ、こんにちは!」

 

「メイベルさん! あなたも来てたんですね」

 印象深いのでよく覚えている。

 獣人村で"ブラン"という女性を救った時に、俺に助けを求めて来た、"ノルウェージャンフォレストキャット"を彷彿とさせる人物だ。


「こ、この間はブランを助けてくれて、ありがとうございました」


「いえいえ、あの後お加減いかがですか?」


「は、はい。あの日の夜にはすっかり元気になって、普通にご飯も食べてました」


「それはよかったです。なんせ素人の浅知恵でしたから」

 

「ところでヤマト、酒飲む約束もある事だし酒場に行こうぜ!」


「そうですね、一緒に夕食にしましょうか」

 そういえばそんな約束もしていた、今日は二人とご飯にしよう。


 味に怯える事が無い、馴染みあるギルドの酒場へと俺達は向かった。

 


 夕食時で空席も少ない中、着席出来た俺達は、パンやシチュー、麦酒などを注文し終え、お互いの近況を語り合う。


「ホ? (シラナイ)」


「そっか、リーフルは初めてだったね。俺の知り合いのマーウさんとメイベルさんだよ」


「"友達"だろ? 俺の嫁さんを救ってくれた大恩人だ、敬語も今後やめようぜ」


「わ、私も!」


「ホホーホ(ナカマ)」


「……です──だね」

 "友達"なんて呼べる存在は日本でも数えるぐらいだった。

 師匠ビンスやシシリーちゃん、その他皆それぞれ職業を介しての出会いだし、"仲間"という感覚の人が多い。

 異世界に転移してから、幸運な事に優しい人達とばかり巡り合ってきたが、は初めてだ。


(──ん? 今って聞こえたけど!?)


「──というかマーウ結婚したの!? お相手は……あぁ、ブランさんだね。じゃあ子供の話もそういう事……」

 ブランが伏せっている時、マーウはかなり取り乱していたし、いくらでも払うと言っていた。

 思い返せば相手が誰なのかは明白だった。


「したって言うか、村じゃそんなはっきりとしたもんが無いんだよ。夫婦だって名乗れば夫婦みたいな?」


「ほぇ~。そんなもんなんだ。とにかくおめでとう! 乾杯だね」

 木製のジョッキを互いにぶつけ合い祝福する。

 マーウが血相を変えて必死になっていた理由が判明し、益々ブランが助かってよかったと思う。


「そういえば商人の件、助かったぜ。今までは月に一度の行商だったのが二度に増えたんだ。それにヤマトのおかげでブランは助かった、俺の伴侶の命の恩人! つまり俺の恩人でもある!」


「前にも言ったけど俺は医者じゃ無いんだ、あれは偶然……それこそ神様のごかもね」


「そうだとしても実際にやったのはヤマトだ、ありがとう!」

 マーウが深々と頭を下げる。


「クンクン……やっぱヤマトと居ると妙に落ち着くな、なんでだ?」

 

「私も……クンクン」


「臭く……ないんだよね? 気になるなぁそれ」

 臭いわけでは無いと言われるが、においをかがれると、どうしても自分の体臭を疑ってしまう。


「それより結婚式はどうするの? やっぱり村で?」


「獣人達、少なくとも俺達の村ではそういうことはしないなぁ──あぁでも、神様に誓いは立てるけどな」


「誓いって?」


「『男は絶対に家族を食わせます。女は絶対に子供を守ります』って感じで、まとめ役の家にある神様の像の前で約束するんだ」

 調査の時は仕事クエストの事で頭がいっぱいで気付かなかったな。

 その像はどんな見た目をしているんだろうか、俺の会った神様に似ているのだろうか。


「なるほど、人族のとは少し違うんだね。結婚式といえば、教会とかで参列者の前で『愛し合う事を誓いますか?』って"二人の絆"をみんなに周知するんだけど、獣人族はより具体的に家族──今後産まれる子供とかの事を神様に誓うんだね」


「そうなんだよ。でもそれじゃあ味気ないって事で、今回はブランへのサプライズプレゼントを買いに来たんだ。俺一人で考えても何が喜ばれるやらさっぱりで──だからメイベルに付いてきてもらったんだ」


「そうなの。街に来たかったのもあるけど……でも私はどんな物が売ってるのか知らないよ? ヤマトさんは何か思いつく物ってある?」


「なんだろう……う~ん、すぐには思いつかないなぁ」

 

「相談なんだけどさ、明日プレゼント探しに付き合ってくれないか?」


「確かに商店の場所は大体把握してるし、役に立てそうだね」


「わ、私も色々お店を見てみたい」


「じゃあ明日は三人でプレゼントを探しに行こうか!」

 果たして女性が喜ぶものってなんだろう、シシリーに聞けばわかるだろうか。


 宿泊先をまだ押さえていないと言うので、いつも世話になっているお礼に、カレン亭を宣伝する事にした。

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